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仮題:謎の存在の謎

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 みなさんは刑事という職業を知っていますか?

 それはサスペンスや推理小説の定番。アクションの定番でもありますよね。刑事さんが苦戦・奮闘したりしながらも、最終的には【謎】を解決する小説やドラマ等は皆さんも見たことがあるかと思います。ちなみにですが、刑事さんが何故に【デカ】と呼ばれるか……知っていますか? 思いつくのは大きいから【デカ】と呼ばれた説だったり、英単語の detective から【デ】の音を拾ってきた説が思いつくかもしれませんね。解説しておきますと detective と言うのは刑事・探偵を意味する英単語なんですよ。どうです? なんだか、それっぽく聞こえませんか?

 それでは答えを発表しましょうか。答えはですね……【角袖】なんです。読み方は【かくそで】と読むそうでして、昔の刑事の制服だったみたいですね。そして【かくそで】の最初と最後の文字を拾いあげ、それをひっくり返すと……ほら【デカ】になりましたね。え? 何故ひっくり返すのかって? それはわかりませんが、おそらくは隠語の類じゃないかと思います。ほら、そう言った用語が多い業界ですもんね。知ってます? 【サンズイ】って隠語の意味? なんとそれは汚職事件を意味するんですよ。はい……お食事券じゃありませんからね。


 
 さてさて本日伺うのは、そんな物語。それは私達の【退屈】を埋める、どんな【面白い】物語なのでしょうか。



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「退屈で死にそう……」

 そこは小さな事務所を思わせる部屋の中。キャビネットや白板にデスク等が、決して効率的とは言えない配置で並べられていた。その部屋の主は二名。その両名はデスクに頭を預けたまま、微塵にも動作の徴候を見せることがない。先程に発せられた声は誰かに届くことなく消えていった。辺りは静寂に満ちている。それからも沈黙は破られる事はなかった。彼ら二名は、まるで黙秘権を行使しているかのように無言を守り続けている。

 男性は小紫祥伍こむらさきしょうごと言い、幼女からはコムさんと呼ばれている。日常から黙秘権を使っているのであろうか……あまり喋らないタイプの性格をしている。しかし、自分の嗜好に合った話題になると途端に口数が増える。さらには早口になるのもよろしくない。

 女性は堀尾祐姫ほりおゆきと言い、小紫からはおゆきさんと呼ばれている。一方、彼女は黙秘権の使用をお勧めしたくなるほど口数が多い。ちなみに彼女は、こちらの世界では幼女の容姿を取っている。もしも刑事が彼女を発見したのなら、間違いなく迷子を疑うであろう。

 まだ静寂の時は続いていた。よほど強情な犯人が黙秘権を行使したとしても、これ程の時間を沈黙し続けることは至難の業であろう。死を迎える前の人間にとって黙秘権を決め込む事は、言わば時間の浪費と同義に感じられてしまうのかもしれない。そして黙秘を決めこんだ犯人は口を開く。しかし、こちらの世界の住人にとって、時間の浪費という感性は存在しない。むしろ、いくらでも浪費してやろうと決め込んでいるのだ。よって彼らの黙秘権は、永遠に続いたとしても不思議ではなかった。



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「そういえば……僕、思うんだけどさ」

 黙秘権の行使を断念したのか、急に小紫が口を開いた。果たして内容は何なのであろう。ひょっとしたら罪の自白かもしれない。そんな雰囲気がおゆきさんの興味を惹いた。

「何をですか?」

 おゆきさんは小紫の発言に反応を返すと、彼が何を言い出すのかを期待の眼差しで見やる。本当に罪を自白したら、どういう眼差しに変わるのだろうか興味深い。

「あのさ、誘拐とかの脅迫状ってあるじゃない」

「え? あ……ああ、新聞文字の切り抜きを貼り付けて文章にした手紙みたいなのですよね」

 一瞬、本当に彼が誘拐をしたのかもしれないと思っただろう。おゆきさんは一瞬だけ眼差しが曇った。

「そうそう。筆跡の情報を与えない為にやってると思うんだけど……あれをさ、新聞じゃなくて別の雑誌でやったらどうなるのかって記事を見たことがあってね。例えば……結婚情報誌から文字を切り抜いた脅迫状なんかはポップでカラフルな華々しい感じの脅迫状になってたんだよ」

「まあ……なんとなくわかる気がしますけど」

 おゆきさんは視線を上部にやると、その脅迫状を想像している。その表情は……何とも言えない微妙な感情をよく表していた。

「それで、他にも何かないかなと思って……僕も手近な物で作ってみたんだけどさ」

「ほうほう」

 おゆきさんの相槌と同時に、彼女のデスクには紙片が具現化されていた。彼女はそれに視線を向けると文字が切り貼りされている。そこには……



あなたの子供を梗塞した。
死亡するおそれがあります。
2020まん煙の4倍をよう意しましょう
ニせコ疫にもってこい



 と、なんとも間の抜けた文章が記されていた。

「その脅迫状、何の文章から切り抜いて作ったか……わかる?」

 紙片を見つめたままのおゆきさん。そんな彼女に小紫は【謎】を提示するのであった。


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