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仮題:脱出、超芸術トマソン館

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 アタシとコムさんはゆっくりと……館の中へと足を踏み入れました。その後ろには平安名さんが続きます。すると、玄関の扉が大きな音を響かせながら閉まったんです。その、あまりに大きな音に驚いたアタシは……先へ向かう足を止めると、玄関扉へと引き返しました。そして、扉の取手を持てる限りの力で押すんですけど……ビクともしません。ひょっとしたら……引くのかもしれない。アタシは先程同様、全力で取手を引きますが……こちらも同じ結果となりました。

 そんな様子を見てでしょうか……コムさんが歩み寄ってきます。アタシは玄関扉の前の場所を譲ると、扉との格闘はコムさんに任せました。コムさんも扉を押して……引いてをしているようですが……やはり扉は開きません。

「もうちょっとで開きそうな気もするんだけど……ギリギリで力が足りないかな」

 コムさんが玄関扉との戦いを諦めるのを見届けた平安名さんは、奥の方へと歩みを進めます。アタシ達もそれに続くと……到着したのは広間でした。

「うわ……」

 アタシの口からは……広間への率直な感想がこぼれました。だって……この広間のインパクトときたら、桁違いの代物なんです。えっとですね……まず、周囲の壁には無数の扉が取り付けられていて……見えるだけでも十は越えているのではないでしょうか。そして……車庫の入り口に付けられているようなシャッターも二つあります。さらには、階段も沢山見えていますね。あ……あっちにはエスカレーターもある。

「さて……ほんじゃ、ワイの提示させてもらう【謎】なんやけど……この館からの脱出ゲームでどやろ?」

 お……脱出ゲームですか? 楽しそうですね。提案された時にも思ったんですが、やっぱり実際に体を動かして【謎】に挑むのは……没入感が圧倒的に違いますよね。この感覚は多分……VRゲームのそれに近いのかもしれません。

「やります、やります」

 アタシは何度も何度も頷いて、脱出ゲームへの参加の意思を示します。コムさんも興味深そうに、こちらは一度だけ頷きました。

「ほな……決まりや。多分、出る方法は何通りもあると思うんやけど、この館から脱出できさえすれば、何でもええ。ただ……あんまセコい手段は感心せーへんけどな」

 ふふっ。まさか、このアタシが……セコい脱出なんてするわけがないじゃないですか。パパっと推理をキメて、ササっと脱出してやりますよ。見ててください。

「お、自信満々やな。しかしあれやな……そんだけ余裕やったら、制限時間でもつけて難度を上げたほうがええか?」

 お。ひょっとして、アタシのあまりに余裕な様子に……焦っちゃいましたか? 

「いいですよ。その挑戦……受けて立ちます」

 アタシは平安名さんに指を突きつけながら宣言しました。視界の片隅では……コムさんが片手で額を抑えています。

「おゆきさん……調子に乗りすぎじゃない?」

 と、コムさんからは異議申し立てをされたのですが……

「却下!」

 アタシは元気良く、そう答えました。

「おーおー。ええやん。いい返事やな。この館は防音設計になっとるさかい、おゆきちゃんがどれだけ元気に騒ごうが平気やから……楽しんだってーな」

 はい、楽しませて頂きます! よし、それじゃ……室内の探索と行きましょう! アタシが意気揚々と第一歩を踏み出そうとした……その時。

「あの、もし制限時間が切れたら……どうなるんですか?」

 コムさんから平安名さんに質問が飛びました。アタシの第一歩目は中に浮いたままです。

「そやなぁ……せっかくやし、館を爆発でもさせよか。いやいや、安心してーな。こっちの世界やから何度、館を爆発させても再建は可能やさかい」

 は? 爆発? いやいや、聞いてないですよ。しかも館が再建可能とか以前に、こっちの身の心配をしてくださいって……そういえば、もう死んでましたね。なら……大丈夫……なの? よくわかりません。

「ほんじゃ、用意……スタート。制限時間は5時間ってところやな」



 ━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━



 制限時間が設けられたのはいいとしてですね……流石に爆発には驚きました。いくら我々が死なないとはいっても……爆発する建物の内部に取り残されるのは御免被りたいです。そういった訳で……アタシは勢いよく、館内部の捜索へと向かいました。

 まずは……広間の四方の壁に存在している無数の扉。ここから取り組みましょう。アタシは手近な一枚の扉へと近づくと……その取手を押します。ビクともしません。それじゃ、引いてみますか……すると、扉は手前側に開きました。順調ですね。

 そしてアタシは、扉が開かれた先へと足を一歩踏み出します。すると……

 ゴチーン

「痛っ!」

 アタシは顔面から壁にぶち当たるのでした。えっと……壁にぶち当たるという比喩表現があると思いますが、それではありません。本物の壁にぶち当たりました。当然……痛いです。それは事務所の扉に細工をされたのと同じ仕組み……扉の先は壁だったのです。

 痛いのを我慢しながら、アタシは開けた扉を閉めると他の扉へと向かいます。その後は……開ける。先を確認する。壁。開ける。先を確認する。壁。……この繰り返しでした。

 その作業を何回か繰り返したときです。ようやくにして、扉の先が壁ではない場所を発見できました。扉の向こうに道がある。たった、それだけの事に感動してしまうアタシ。当たり前の事にも感動できるだなんて、この館は色々と斬新な感覚を教えてくれるものですね。

 そして、アタシは扉の先へと向かいます。すると……そこは、数メートル先に進んだだけで行き止まりになりました。感動を返してください。

 とぼとぼと行き止まりから戻ると扉を閉めます。八つ当たりに強めにドアを閉めてしまったので、大きな音が広間に響きました。その時……

「おゆきさん、こっちの扉から下に降りられそうだよ」

 コムさんが遠くから、自身の発見を報告してくれました。本当に降りられるんですか? 実は行き止まりなんじゃないですか? アタシは半信半疑のままに、コムさんが開けた扉の方へと向かいます。

 そして、扉の先を観察すると……確かに扉の先は壁ではありませんでした。その先には下り階段がありますね。しかし、これ……もしもアタシが最初にこの扉を開けていたとしたら……転げ落ちていたんでしょう。こう考えれば、先程の顔を打った方がマシでしたね。良かった、こっちから開けなくて。

「とりあえず、行ってみようか」

 コムさんは階段を下り始めました。アタシは、それに続くのです。

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