75 / 108
仮題:脱出、超芸術トマソン館
05
しおりを挟む私とコムさんはゆっくりと……館の中へと足を踏み入れました。その後ろには平安名さんが続きます。すると、玄関の扉が大きな音を響かせながら閉まったんです。その、あまりに大きな音に驚いた私は……先へ向かう足を止めると、玄関扉へと引き返しました。そして、扉の取手を持てる限りの力で押すんですけど……ビクともしません。ひょっとしたら……引くのかもしれない。私は先程同様、全力で取手を引きますが……こちらも同じ結果となりました。
そんな様子を見てでしょうか……コムさんが歩み寄ってきます。私は玄関扉の前の場所を譲ると、扉との格闘はコムさんに任せました。コムさんも扉を押して……引いてをしているようですが……やはり扉は開きません。
「もうちょっとで開きそうな気もするんだけど……ギリギリで力が足りないかな」
コムさんが玄関扉との戦いを諦めるのを見届けた平安名さんは、奥の方へと歩みを進めます。私達もそれに続くと……到着したのは広間でした。
「うわ……」
私の口からは……広間への率直な感想が溢れました。だって……この広間のインパクトときたら、桁違いの代物なんです。えっとですね……まず、周囲の壁には無数の扉が取り付けられていて……見えるだけでも十は越えているのではないでしょうか。そして……車庫の入り口に付けられているようなシャッターも二つあります。さらには、階段も沢山見えていますね。あ……あっちにはエスカレーターもある。
「さて……ほんじゃ、ワイの提示させてもらう【謎】なんやけど……この館からの脱出ゲームでどやろ?」
お……脱出ゲームですか? 楽しそうですね。提案された時にも思ったんですが、やっぱり実際に体を動かして【謎】に挑むのは……没入感が圧倒的に違いますよね。この感覚は多分……VRゲームのそれに近いのかもしれません。
「やります、やります」
私は何度も何度も頷いて、脱出ゲームへの参加の意思を示します。コムさんも興味深そうに、こちらは一度だけ頷きました。
「ほな……決まりや。多分、出る方法は何通りもあると思うんやけど、この館から脱出できさえすれば、何でもええ。ただ……あんまセコい手段は感心せーへんけどな」
ふふっ。まさか、この私が……セコい脱出なんてするわけがないじゃないですか。パパっと推理をキメて、ササっと脱出してやりますよ。見ててください。
「お、自信満々やな。しかしあれやな……そんだけ余裕やったら、制限時間でもつけて難度を上げたほうがええか?」
お。ひょっとして、私のあまりに余裕な様子に……焦っちゃいましたか?
「いいですよ。その挑戦……受けて立ちます」
私は平安名さんに指を突きつけながら宣言しました。視界の片隅では……コムさんが片手で額を抑えています。
「おゆきさん……調子に乗りすぎじゃない?」
と、コムさんからは異議申し立てをされたのですが……
「却下!」
私は元気良く、そう答えました。
「おーおー。ええやん。いい返事やな。この館は防音設計になっとるさかい、おゆきちゃんがどれだけ元気に騒ごうが平気やから……楽しんだってーな」
はい、楽しませて頂きます! よし、それじゃ……室内の探索と行きましょう! 私が意気揚々と第一歩を踏み出そうとした……その時。
「あの、もし制限時間が切れたら……どうなるんですか?」
コムさんから平安名さんに質問が飛びました。私の第一歩目は中に浮いたままです。
「そやなぁ……せっかくやし、館を爆発でもさせよか。いやいや、安心してーな。こっちの世界やから何度、館を爆発させても再建は可能やさかい」
は? 爆発? いやいや、聞いてないですよ。しかも館が再建可能とか以前に、こっちの身の心配をしてくださいって……そういえば、もう死んでましたね。なら……大丈夫……なの? よくわかりません。
「ほんじゃ、用意……スタート。制限時間は5時間ってところやな」
━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━
制限時間が設けられたのはいいとしてですね……流石に爆発には驚きました。いくら我々が死なないとはいっても……爆発する建物の内部に取り残されるのは御免被りたいです。そういった訳で……私は勢いよく、館内部の捜索へと向かいました。
まずは……広間の四方の壁に存在している無数の扉。ここから取り組みましょう。私は手近な一枚の扉へと近づくと……その取手を押します。ビクともしません。それじゃ、引いてみますか……すると、扉は手前側に開きました。順調ですね。
そして私は、扉が開かれた先へと足を一歩踏み出します。すると……
ゴチーン
「痛っ!」
私は顔面から壁にぶち当たるのでした。えっと……壁にぶち当たるという比喩表現があると思いますが、それではありません。本物の壁にぶち当たりました。当然……痛いです。それは事務所の扉に細工をされたのと同じ仕組み……扉の先は壁だったのです。
痛いのを我慢しながら、私は開けた扉を閉めると他の扉へと向かいます。その後は……開ける。先を確認する。壁。開ける。先を確認する。壁。……この繰り返しでした。
その作業を何回か繰り返したときです。ようやくにして、扉の先が壁ではない場所を発見できました。扉の向こうに道がある。たった、それだけの事に感動してしまう私。当たり前の事にも感動できるだなんて、この館は色々と斬新な感覚を教えてくれるものですね。
そして、私は扉の先へと向かいます。すると……そこは、数メートル先に進んだだけで行き止まりになりました。感動を返してください。
とぼとぼと行き止まりから戻ると扉を閉めます。八つ当たりに強めにドアを閉めてしまったので、大きな音が広間に響きました。その時……
「おゆきさん、こっちの扉から下に降りられそうだよ」
コムさんが遠くから、自身の発見を報告してくれました。本当に降りられるんですか? 実は行き止まりなんじゃないですか? 私は半信半疑のままに、コムさんが開けた扉の方へと向かいます。
そして、扉の先を観察すると……確かに扉の先は壁ではありませんでした。その先には下り階段がありますね。しかし、これ……もしも私が最初にこの扉を開けていたとしたら……転げ落ちていたんでしょう。こう考えれば、先程の顔を打った方がマシでしたね。良かった、こっちから開けなくて。
「とりあえず、行ってみようか」
コムさんは階段を下り始めました。私は、それに続くのです。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
友よ、お前は何故死んだのか?
河内三比呂
ミステリー
「僕は、近いうちに死ぬかもしれない」
幼い頃からの悪友であり親友である久川洋壱(くがわよういち)から突如告げられた不穏な言葉に、私立探偵を営む進藤識(しんどうしき)は困惑し嫌な予感を覚えつつもつい流してしまう。
だが……しばらく経った頃、仕事終わりの識のもとへ連絡が入る。
それは洋壱の死の報せであった。
朝倉康平(あさくらこうへい)刑事から事情を訊かれた識はそこで洋壱の死が不可解である事、そして自分宛の手紙が発見された事を伝えられる。
悲しみの最中、朝倉から提案をされる。
──それは、捜査協力の要請。
ただの民間人である自分に何ができるのか?悩みながらも承諾した識は、朝倉とともに洋壱の死の真相を探る事になる。
──果たして、洋壱の死の真相とは一体……?
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
どうかしてるから童話かして。
アビト
ミステリー
童話チックミステリー。平凡高校生主人公×謎多き高校生が織りなす物語。
____
おかしいんだ。
可笑しいんだよ。
いや、犯しくて、お菓子食って、自ら冒したんだよ。
_____
日常生活が退屈で、退屈で仕方ない僕は、普通の高校生。
今まで、大体のことは何事もなく生きてきた。
ドラマやアニメに出てくるような波乱万丈な人生ではない。
普通。
今もこれからも、普通に生きて、何事もなく終わると信じていた。
僕のクラスメイトが失踪するまでは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる