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仮題:生存率約 10 %

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 さまざまな案を検討してみました。九本の線のどれを選べば正解なのかをです。例の【九字】で言えば……【闘】あたりがそれっぽく感じますけど、確信に至るほどの根拠は見つかりません。それどころか、与えられたペンで犯人に【闘い】を挑むのが正解なんじゃないだろうか……とか、考えてしまったりで、結局は大量の時間を浪費するハメになってしまったのです。いや……まあ、時間の浪費は願ったり叶ったりなんで嬉しいんですけどね。

 気分転換にコムさんを見てみましょうか。あれ……いない。いつの間にか、ソファーの逆側にコムさんの姿が見えません。それどころか瀬戸さんもいないです。狭い室内を見渡すと……あ、いました。二人共、コムさんのデスクのところにいますね。

「あー、いいなぁ。このグッズ」

 瀬戸さんは羨望の眼差しで、コムさんの机の上のB級グッズを見ています。コムさんは満更でもなさそうな表情になっていました。しかし、こんなところでも威力を発揮するとは……B級映画恐るべしですね。 

「B級映画にはオカルト物も多いですからね。サメ映画ほどではないですが……僕も多少は嗜んでいましたよ」

 サメは強いなぁ。しかし、それにしても……コムさんはとっくに【謎】が解けているようですね。アタシが解けていないというのに、B級映画トークで盛り上がっているだなんて、癪に……いえ、【シャーク】に触ります。



 ━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━



「そろそろでしょうか」

 瀬戸さんが考慮時間の終わりを告げました。結局、アタシはロクな解答を用意できていません。瀬戸さんは、そんなアタシの方を見ています。学校でわからない問題を、先生に指名されてしまった心境ですね。どうしましょうか。

「えっとですね……【九字】のどれかの文字を【鮫】に書き換えるとかは……どうでしょう?」

 アタシの解答の後、沈黙が場を支配しました。あぁ……もう死んでしまいたい。でも……もう死んでいます。どうしましょう……穴でも掘って埋まるしかない。アタシがそんな事を考えていた時でした。

「ちょっと惜しい」

 コムさんが、そう言ったのです。瀬戸さんも頷いていました。



 ━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━



「それでは顛末を語らせて頂きますね」

アタシ達は中央に瀬戸さんを挟むようしてソファーに座り直しました。ついに真相が語られます。少し興奮してきました。そして……瀬戸さんの口が開かれるのを待つのです。

「私はペンを片手に【あみだくじ】を見ながら、違和感を覚えました。それは、最近の噂になっていた女性の連続失踪事件……その被害者は十人以上と聞いていたからなんです。手元のくじは九本から選べるのに……誰も生き残って、警察に通報した人がいないのは何故だろうと。理論的には一人くらいは正解を選んでいてもいいはずですよね。そう考えたら……辿り着きました。この【あみだくじ】には正解がないんだって」

 えぇ!? 何それ……ズルいですよ。アタシは不満げに頬を膨らませました。瀬戸さんは、それを見て微笑みを浮かべます。

「そう思いますよね。でも、彼はずっと……答えを教えてくれていたんです」

 不満げな表情から、途端に困惑の表情となるアタシ。答え……何処かにありましたっけ?

「彼は私が考えている間、ずっと【九字を切る】動作を続けていました。それは選択肢から【九字を切る】事を意味していたんです。つまり正解は【九字】の中にない……【くじ】の中にもないんです。そして、物語の最初……公園の幽霊の話を思い出してください。あの幽霊が残した紙には【941生】と書いてありましたよね。【九死に一生を得る】と、私は解釈したんですが……その通り、九本は死になると読み取れます。それでは……【一生】を得るにはどうすればいいのでしょうか」

 どうすればいいと言われても、何も思いつかないんですよね。こうなったら推理をキッパリと諦め……瀬戸さんの物語を楽しみましょう。アタシはそう決めました。ですが、瀬戸さんは……次の句をなかなか継ぎません。ここでコムさんが口を開くのです。

「縦書きに意味があったんですよね。【941生】にダブルミーニングがされていた……と」

「……その通りです」

 瀬戸さんはコムさんに向き直ると、正解を告げました。ダブルミーニング……いったい何がダブルなんでしょう。

「おっしゃる通り、縦書きに意味がありました。【941生】には【九死に一生を得る】以外にですね……【94】を【くし】と読めます。それは【串】……つまり【くじ】を意味すると、犯人の彼も言っていました。そして【1】を縦の棒と判断してですね……」

 瀬戸さんは、ペンを具現化すると……それを【あみだくじ】の紙に走らせます。



【イメージ図】



 者   臨  前    陣 
  \  |  |   /  
   \ |  |  /

 列――       ――皆

   /  | |  \
  /   | |   \
 在    闘 生    兵       



「【くじ】に縦棒を追加して、その下に【生】と書け……と、幽霊は教えてくれていたんです。これで、文字通りに【九死に一生を得る】ことが出来たんです。私が線を一本追加したのを見ると、彼はニヤリと笑いました。そして『正解。アハハ、バレちゃったか。ヒントを出しすぎちゃったみたいだね』と言って、中央のシールをめくります。そこには九個の死の文字が書かれていました。それらは全てが【九字】から繋がった先に記されています。ですが……私が書いた先には【死】の文字はありません。当然ですよね。私が勝手に付け加えたんですから」

 おぉ……アタシの中では凄いという気持ちの半分と、ズルいという気持ちの半分がせめぎ合っています。多分……後者が優勢ですが。

「彼はナイフを取り出すと……私の両足を縛る縄を切ってくれました。そして『じゃあ、自首してくるよ。楽しかったね』とだけ言い残し、去っていきました。数日後、センセーショナルな事件の犯人が逮捕された……そんな記事が載っていたのは覚えています。多分ですが、彼も本心では殺人を止めたいと思っていたのかもしれませんね。ずっと私の目の前で【九字を切る】動作をしていたのも……今となっては、そう思えます」



 ━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━



「私は無人の廃墟から外へ出ました。もう朝日は昇っています。帰らなきゃ、そう思ったんですが……一箇所だけ、どうしても行かなければいけない場所がありました。私は疲れた足取りで山を昇っていきます。目指す先は……公園のお堂。どうしても、あの幽霊にお礼を伝えたかったんです。疲労していた足では時間を要したんですけど……ようやく目的地に到着しました。朝の早いご老人が公園内を散歩しているのも見えます。そして私はお堂へと向かうのでした」

 あ! わかった! お堂の幽霊が手で払い除ける動きをしていたのは……瀬戸さんに橋を渡らせないようにしていたんですね。あの幽霊も彼の犠牲者なんです。だから、橋を渡ってしまったら帰りに襲われてしまうので……こっちに来ないようにと払い除ける動作をしていた。そう考えると辻褄が合う気がします。

 うーん。なんだか犯人よりも……幽霊に人間性を感じるだなんて、皮肉めいて感じちゃいますね。

「お堂に着いた私は……深く一礼をすると、あの幽霊へ謝意を表しました。そして、家へ帰ろうと振り返り……橋を渡ろうとしました。その時、橋の半ばに紙が落ちていたんです。それは最初に拾った紙と同じような大きさでした。私はそれを拾うと……書かれていた文字を見たんです。そこには【くじ9841】と書かれていました……これで、私の不思議体験はおしまいです。どうです? 楽しかったですか?」



 ━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━



 瀬戸さんは話が終わると、また別の場所に呼ばれているそうで……B級映画グッズに名残惜しそうな目線をやりながら、慌ただしそうに出ていかれました。アタシとコムさんは丁重にお礼を言うと、外まで送り……今、室内に戻ってきたところです。

「なんというか……すごい話でしたね」

 アタシは低い語彙力を気にせず、物語の感想を口に出しました。

「オカルトだと思ったら……サイコホラーだったね」

 コムさんは、そう返答をしてくれました。言われてみればそうですね。どちらも同じホラーのジャンルだとは思うのですが、恐怖のベクトルが違っていた感じがします。どっちの方が怖いかというと……それは個人の嗜好の問題なんでしょう。

「ところで最後の【くじ9841】って、【くじくやしい】って読むんでしょうか?」

 アタシは……最後に残されていた【謎】の話題に触れます。

「そう読んでもいいんじゃないかな。悔しいと言うのは彼女の本心だろうし……でも、僕、思うんだけどさ」

「何をです?」

「くじが漢字の【籤】になってるでしょ。【籤】って音読みすると【セン】なんだ。すると……【セン9841】。わかるかな……【センキューヤヨイ】って読めるんだよね」

 あ……そっか。思い出しました。今回のお客様の名前は……【瀬戸弥生】さんでしたね。




 【面白い物語、センキューヤヨイ!】 今回の物語は……そう締めくくられたのです。



 第6話 『4で9010 籤9』 了


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