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仮題:ミステリーツアー殺人事件
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しおりを挟むみなさんはミステリーツアーを知っていますか?
主にミステリーツアーには二種類ありまして、1つはツアーの目的地が謎にされている形式のものです。行き先が不明にされた列車やバスに揺られる参加者達は、いったい何処に到着するのだろうというドキドキを体験することができるそうです。参加者の皆さんはツアー発着前に行き先を予想するんでしょうか。そして目的地に近づくにつれ……その予想が正解だったとか、修正を余儀なくされたりするんでしょうね。面白そうです。
もしも私がツアーを企画するのなら、【山手線をグルグル回らせて何処で降りるのか問題】でも出題したいですね。正解率 1/30 。分母の数は山手線の駅数です。うん、これは推理物の正解率としては上等ではないでしょうか。そして更にはですね……降りる場所は車庫に設定します。これなら正解率驚異の 0 %も夢ではないでしょう。しかし……言ってて思ったんですが、このツアーって鉄道マニアの方になら受けが良いのではないでしょうか? どうなんでしょうね。
少し話が逸れてしまいましたね、すいません。二種類の内のもう一つはですね。イベント式になっているミステリーツアーです。移動中や移動後のアミューズメントパーク・ホテル等で自身が推理体験を味わうことができるそうです。これも興味深いですね。自分が探偵気分になれるんですよ。例えば、世界一の有名探偵に習ってパイプを吹かしてみたいですよね。そしかし、昨今の風潮の悲しさというか……イベント会場は禁煙ですって怒られるんです。もしくは移動手段が列車だったら安楽椅子探偵を気取って、ずっと座ったままでいるとかはどうでしょうね。そして事件を解決するという……夢を見るんです。はい、要は安楽椅子探偵を気取ってたら寝てたってことですよ。
このように、現世にはミステリーツアーなる物が存在しています。
本日伺うのは、そんな物語。それは私達の【退屈】を埋める、どんな【面白い】物語なのでしょうか。
━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━
「退屈で死にそう……」
地味な部屋の地味なデスクと地味な椅子。床に足が届かないので、幼女は足をプラプラさせたまま……デスクに向けて喋りかけた。いや、デスクに向けてというのは物理的な話で……その言葉はもう一つのデスクに向けて反射して届いた。つまりは、物理的にデスクに向けて喋りかけた音が反響し……それがもう一つのデスク、その主にまで届いた。そういうことである。
幼女の名前は堀尾祐姫と言い、おゆきさんと呼ばれていた。
おゆきさんが話しかけた相手、こちらは男性である。彼の容貌は言葉で言い表すのに難しい。敢えて言うのなら……【特徴のないのが特徴】という特徴らしからぬ特徴を持っていた。そして彼もおゆきさん同様にデスクに頭を突っ伏したままである。つまり……おゆきさんの発言を無視していた。
彼の名前は小紫祥伍と言い、コムさんと呼ばれていた。
━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━
「今、話を伺えるように予約してる人は最近の人だから……多分、まだ来ないんじゃないかな」
しばらくの時が流れた後、小紫はそう発した。彼の発言の意図はと言うと……彼の住まう死後の世界においては他者の話を聞くことが最大の娯楽になるのである。そして、新しくこちらに来た者から語られる話は目新しいこともあって、新参者の人気は高くなる傾向にある。更には、その新参者の持つ物語が考える事ができるような物ならば……その人気はうなぎのぼりに上昇してしまう。なぜ考える事ができるような物が人気を集めるかと言えば……こちらの世界の住人は、その物語を考える事で無限に存在する時間を消費したいのだ。
要は……この世界の住人は【暇潰し】がしたいのである。
「今……思いついたんだけど、クイズでもする?」
先程の発言におゆきさんの反応が見られなかったであろうか……小紫は彼女の興味を惹くような事を言い出した。
幼女はようやくにして顔を上げる。額に体重がかかっていたのだろう……その額は真っ赤になっていた。額は真っ赤になってはいたが、彼女の顔立ちは整っており……現世ならば将来が楽しみだと形容されるのは間違いないであろう。だが……余り幼女の顔をどうこう言うと、その手の方が怒るであろうからここまでにしておく。
「する」
幼女はたったの二音で返答とした。小紫も、それを聞くと、己の顔を上げる。彼の額も真っ赤になっていた。ただ幼女のそれの微笑ましさと比べると、彼の場合は発熱でもしてるのだろうか程度の感想しか出て来ない。
「じゃあ……クイズ。とある人が密室に閉じ込められました。その密室は外界から完全に閉ざされています。そこで、脱出できないまま長くの時が過ぎていったんだけど、その人は死ななかった。なーんでだ?」
小紫はまったくもって重みが感じられない声色で出題した。おゆきさんは問題の簡潔さを疑ったのだろう……小紫に質問を投げ返す。
「完全に閉ざされたって事は、空気とかも出入りできないんですか?」
「うん」
「食料や飲料はあったんですか?」
「ないよ」
「隠し通路」
「ない」
「実はゾンビだったとか……」
「その考えはなかったわ」
質問に応え終えた小紫は、再びデスクに突っ伏すと額を赤くする作業に戻る。
そして、おゆきさんは、このクイズに頭を悩ませるのであった。
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