19 / 108
仮題:家督継承の謎
07
しおりを挟む今回は、そんなに考えなくてもわかりました。はい……あまり口に出したくはないんですけどね。
「ご両人、答えに至りましたようですな。それでは、この笑止千万な物語の首尾を整えるといたしましょうか」
大庭さんはそう発すると、この物語の最後の謎……いや、オチをつけにいったのです。
「小二郎、いや隆直はですな……尻に病を抱えていたのです」
ですよね。
「隆直は若殿の側用人として召されたと申しましたが、側用人と言っても色々ありまして……」
言い淀む気持ちはわかります。はい、わかります。
「文字通り、若殿の側に仕えるのが仕事であるのですが……その」
頑張れ、頑張れ。
「……衆道が原因なのです」
うん。知ってた。
「一言で申せば……夜の共をするのです。これ以上はご想像にお任せしたい」
ああ、それは得意分野です。
「しかして、隆直は尻に病を生じ……其れを悪化させ、遂には騎乗する事かなわず……」
なんとも面目なさそうに言葉を紡ぐ大庭さん。ちょっと可哀相になってきますね。
「その事情は若殿も拙者も存じておりましたので……鷹狩の折、隆直は儂の側に控えておったのです」
━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━
大庭さんは健康サンダルを履くと、私達のオフィスのような部屋から去っていきました。
大庭さんを見送り終え、部屋へと戻ってきた時にコムさんが口を開きます。
「多分さ、杉家の家督継承時の次郎さんも同じだったんだろうね。彼も馬に乗れなかったから大庭さんが乗ることになったんじゃないかな」
ああ、なるほど。確かにその点だけは触れられないままでしたね。ここへの伏線だったんですか。
コムさんは自身のデスクへ向かうと椅子に腰を下ろします。私も自分の椅子に座ると足をプラプラさせ始めました。
そして、コムさんが何か思いついたんでしょうか、口を開きます。
「次郎さんも同じだって言ったけど、隆直さんの方がお尻の病が軽かったんじゃないかな」
「ん? どういう事です?」
コムさんの言い出した事に思い当たる事がありません。私はコムさんに発言の真意を問います。
「だって……隆直さんは小二郎なんだから、病も小さかったんじゃないかなってね」
その思いつきを言葉にして発したセンスが解せない……
「そうそう、多分だけど、政直さんも程度の差はあれど……同じ思いをしていたのかもしれないね」
「どういう事です?」
「最初の時にさ、ソファーに正座してたり、履物が健康サンダルだとか……それとお酒も断ったでしょ。それって痔の症状を緩和させたりする時の行動なんだよね」
あ……そういう事でしたか。血は争えないものなんでしょうね……。
なんだか徳川光圀を思い出しながらも、今回の物語には終止符が打たれたのです。
第2話 『次郎と二郎と痔瘻と』了
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
私の優しいお父さん
有箱
ミステリー
昔、何かがあって、目の見えなくなった私。そんな私を、お父さんは守ってくれる。
少し過保護だと思うこともあるけれど、全部、私の為なんだって。
昔、私に何があったんだろう。
お母さんは、どうしちゃったんだろう。
お父さんは教えてくれない。でも、それも私の為だって言う。
いつか、思い出す日が来るのかな。
思い出したら、私はどうなっちゃうのかな。
虚像のゆりかご
新菜いに
ミステリー
フリーターの青年・八尾《やお》が気が付いた時、足元には死体が転がっていた。
見知らぬ場所、誰かも分からない死体――混乱しながらもどういう経緯でこうなったのか記憶を呼び起こそうとするが、気絶させられていたのか全く何も思い出せない。
しかも自分の手には大量の血を拭き取ったような跡があり、はたから見たら八尾自身が人を殺したのかと思われる状況。
誰かが自分を殺人犯に仕立て上げようとしている――そう気付いた時、怪しげな女が姿を現した。
意味の分からないことばかり自分に言ってくる女。
徐々に明らかになる死体の素性。
案の定八尾の元にやってきた警察。
無実の罪を着せられないためには、自分で真犯人を見つけるしかない。
八尾は行動を起こすことを決意するが、また新たな死体が見つかり……
※動物が殺される描写があります。苦手な方はご注意ください。
※登場する施設の中には架空のものもあります。
※この作品はカクヨムでも掲載しています。
©2022 新菜いに
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる