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その18

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 ランプゴーレムの量産はいったん落ちついた。

 その代わり、定期的に電池ゴーレムのほうを量産することとなる。
 こっちのほうも乱用しなければ割と持つので、そんなに作る必要もなかったが。

「現在あちらこちらでの転売が増えているようですね。得意先の農家でも、商人に一つ売ったという話です」

「最近王都のほうにも流れて言っているとか――」

 マギーとハイドラの報告を聞きながら、わたくしは新型のテストを行っていた。

 前から考えていたボウガンタイプも完成し、いよいよ次なる開発。


「うーん。できれば、ちびちび作っていないで、大々的に売り出して稼ぎたいところですわ」

 わたくしは言いながら、ゴーレム生成する手を動かす。

「信用できる商人を見繕っていますが、なかなか」

 マギーは少し困った顔で低頭する。

「あまり大手なものだと、変なコネとか人脈があるから、逆に難しいです」

「ですが、農家の得意先は順調に増えています。他の街への売り出しもありかと」

 ハイドラが言って、売上の報告書を出してきた。

「やっぱり、人間相手にはそれほど売れないですわねえ」

「どうも家畜の飼料用という認識が広がってしまったようで」

 と、ハイドラは頭を掻いた。

「その分安価ですから、貧しい者は割と買っていきますが」

 家畜の餌を食べる、か。

 あんまり良いイメージは確かにないのだろう。仕方ないか。
 確かにうちでもヤギに食べさせているけど。


「まあ、それならそれでいいですわ。こっちとしては売れればいいのだから」

 わたくしは言って、完成させたゴーレムを持ち上げた。

 今回のは、AとBの二つに分かれるという構造になっている。
 わたくしは分離したAに水道の水を注ぐ。

 それから、またBと合体させ、作動させた。
 しばらくすると、ゴーレムは音を鳴らし湯気を噴き上げ始める。

 水が沸騰しているのだ。


「マギー、お茶を淹れてくれる?」

 と、わたくしは再びAを分離させ、マギーを呼んだ。

「はあ……」

 マギーは妙な顔つきでAを受け取り、お茶の準備を始めた。

 まあ、仕方のない反応か。

 Aはオレンジカボチャに取手と注ぎ口がある。
 つまりカボチャ型のケトルともいうべきデザインなのだ。

 Bのほうはオレンジ色の円盤に近い形で、横に電池ゴーレムを組み込むスペースがある。

「それは、ゴーレムなのですか?」

 ハイドラは眉のない顔を不思議そうに傾け、尋ねてくる。

「まあ、分類としては。でも、魔法アイテムとも言えますわ」

 要するに、電気ケトルのファンタジー版である。

「屋外でも簡単にお湯が沸かせますわ。いいでしょう?」

「これはすごい。あっという間に……」

 ケトルゴーレムを見ながら、マギーは感動した顔だった。

<ケトルゴーレム。生成:5MP、稼働0MP>

 こんなサイズでも、荷車ゴーレムと同じくらいのMPだ。
 やっぱり精密機械みたいなタイプはコストが高めか……?

「これもランプと同じ電池ゴーレムで使えます。売れますかしら」

「売れると思います。ただ……」

 ハイドラがうなずいた。

「ただ……?」

「このデザインはどうかと」

「ああー……」

 わたくしは思わず、苦笑した。

 ランプゴーレムもそうだが、どうも自分には美術的センスはないらしい。
 実用は問題ないのだけれど、芸術的・美術的に美しいゴーレムは無理だった。

「まあ、これはなかなか解決しにくい点ですわ」

 軽く咳払いをして、わたくしは椅子に座り直した。

「これは大型のものにすれば、風呂も沸かせるのでは?」

 マギーがお茶を淹れながら、何気なく言った。

「できるでしょうね。あ……」

 言ってわたくしは膝を打った。
 すでに水道も家では完備しているのだ。ということは――

「給湯設備やシャワーなんかもできますわね」

 よりいっそうお風呂ライフが良いものになりそうだ。
 現状のお風呂は、薪で沸かすというこの世界では普通のもの。

 もっとも、薪はゴーレム生成の過程で出来るものだが。
 いちいち森などに採りに行くよりも早いし、楽なのだ。

「今度は新しいお風呂を作りましょう!」

 わたくしはそう宣言し、ホホホと笑ってしまった。

 これで毎日の入浴がもっと気楽になるというもの。


「何だかどんどん私たちの仕事がなくなってくるんですが……」

「あら、マギーたちには商売のことで忙しく働いてもらっているでしょう?」

 最近ではハイドラかマギーのどちらかが家を空けることが多い。
 ミクロカも二人のお供として一緒に行く場合が多い。

 なので、家の雑務はほとんどゴーレムにやらせている。
 操っているのはわたくしだから、半分自分でやっているようなものだ。

「それはそうですが、何となく変な気分です」

 こうしてお茶を淹れていると妙にホッとするほど――と、マギーは付け加える。

「まあ、確かにマギーの入れてくれるお茶は美味しいけれど」

「ありがとうございます」

 言いながら、マギーは湯気の立つ茶器をそっとわたくしの前に置いた。

「ところでステンノ―様、例のかぼちゃは蔓や葉っぱもヤギの餌になりますよ」

「え?」

 ハイドラが急にそんなことを言ってきた。

「肥料にでもしようかと思って集めていた葉っぱだの茎を、美味しそうに食べました」

「それ、大丈夫なの?」

「元々ヤギは粗食にも耐えますが、人間でも食べられます。けっこういけますよ」

「……食べてみたの?」

「はい。今日の昼に」

 すごいチャレンジ精神である。

 あるいはきっちりとした性分というやつなのだろうか?

「はああ」

「それに以前から、家畜……特に牛馬の餌に草類もあると良いのにと、意見をもらったこともあります」

「なるほどねえ……。しかし、大丈夫かしら?」

「だから、うちのヤギで試してみます」

「ほとんど捨ててたけど、葉っぱにも使い道があったわけか…………」

 つぶやき、わたくしは考えてしまう。
 やはり、人というか知識というか、そういうモノが足らない。

 今後の発展のためにも、ゴーレムとうまく併用できるような知識とか技術――

 そういうものを持つ人材が欲しい。


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