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20.ロンディーネ学園での最後の日

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 王家からの手紙はすぐに用意されて、そのままレックスさんに届けられたようだ。

 あとは婚約破棄だと周りが思っている所で、熱烈に告白をして全ての罪状を明らかにしてしまえば良いだけ。思いっきり告白をすれば良いと提案したのは私だった。あれだけ婚約者馬鹿なマシュー殿なら、きっとこれ以上ない熱烈な告白になるだろうと想像するとすこし笑えてしまった。

 私のやるべきことは、これでおしまい。

 最初から全てを知っていたシルビア先生はともかく、それ以外の仲良くなった生徒の皆さんに、突然辞めることをどう伝えれば良いのか。この数日はそればかり考えていたけれど、いつの間にか家庭の事情で赴任できなくなったことが正式に告知されていた。



 最終日の今日は保健室に行く必要も無い。校長室で書類にサインするだけで良いと聞いていたけれど、私はまずお世話になったシルビア先生に挨拶をしに行った。

「シルビア先生、お世話になりました!」
「こちらこそ、私の可愛いお弟子さん」
「弟子!じゃあシルビア先生は、私の治癒魔術の師匠ですね!」
「ふふ…また会いましょうね?」
「ぜひ!」
「これ良かったらもらって」

 そう言ってシルビア先生が差し出したのは、読み応えのありそうな分厚い治癒魔術の本だった。凝った装丁に、金色の綺麗な文字で題名が記されている。

「こんな良いもの、本当にもらっていいんですか?」

 お金を詰むだけで簡単に手に入るような魔術書ではないことは、見れば分かった。図書館の貸出禁止の棚に並んでいるレベルの本だ。

「価値が分かる人に差し上げたいもの」

 おっとりと笑ってくれたシルビア先生に頭を下げて、私は保健室を後にした。

 校長室に向かっていると、恋愛話をしに来てくれていた生徒さん達が数人廊下に集まっていた。何かあったのかなと考えていると、全員の視線が一気に集まって驚いてしまった。

「トリン先生、これ!」

 差し出されたのは、色とりどりの綺麗な花束だった。私と話に来てくれていた生徒でお金を出し合って買ったのだと教えてくれた。

「あ、ありがとう…こんなことしてもらえると思ってなかった」

 素直にそういえば、全員が照れたように笑い出した。私は腕の中にある綺麗な花の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。よくよく見ると、黄色のお花が多い気がすると思った瞬間、女生徒さんがニヤリと笑って見せた。

「先生らしくないそのネックレス、大事なんでしょう?」
「よく触ってたもんね?」
「恋人から貰ったんでしょ?」

 ぽんぽんと飛んでくる言葉に思わず頬が熱くなった。女生徒たちはキャーキャー喜びながら、手を振って去っていった。



 校長室で書類にサインをしてから、私は廊下で魔道具を起動した。これでトムさんがお迎えに来てくれる筈だ。

 学園内の景色を眺めながら、ゆっくりと馬車乗り場へ向かう。

 最初は仕方なく来た学園だったけど、思った以上に楽しかったなとしみじみ考えていれば、見慣れた馬車が道の先に停まったのが見えた。私は小走りにその馬車に近づいていく。

「トムさん、今日もお迎えありがとうございます」
「気にすんな、ほら乗って」

 優しい声に促されて馬車の中に乗り込むと、そこには先客がいた。

「アルフ!?」
「やあ、トリン。久しぶり」
「え、どうして?」
「本当は僕が操縦したかったんだけど、まだ駄目って言われたからついてきた」

 そういうことを聞きたいんじゃないけど、久しぶりに話すアルフは思った以上にいつも通りだった。ゆっくりと馬車が動き出す。アルフの手招きに応じて向かい合わせに腰を下ろした。

「まず謝るよ。ごめん、トリン」
「え?」
「あの日、僕は、魅了耐性持ちの騎士様に嫉妬したんだ」
「嫉妬…?」

 アルフはこくりと頷いてから説明してくれた。

 二人で出掛けた日から、急に忙しくなった私とは会うこともできなくなって寂しかった事。さらに私にとって特別な意味を持つだろう魅了耐性持ちの男性と、一緒にいたんだと知って我慢できなくなった事。そのままだとひどい事を言いそうだったから慌てて離れた事。

 それってまるで。アルフも私の事を特別だと思っているみたいに聞こえる。自意識過剰だとは思うけれど、寂しかったとか我慢できなくなったとか、素直なアルフって可愛すぎない?

 内心では大騒ぎの私には全く気付かずに、アルフは淡々と続けた。

「だから避けてた、ごめん」
「うん、避けられてたのは分かってたよ」
「トムさんに怒られたんだ」
「え、怒られたの?」
「気持ちもはっきり伝えない上に隠し事まである奴に、ぐだぐだ言う権利は無いって」
「それって」

 聞こうとした瞬間、馬車がゆっくりと速度を落とし、そのまま停止した。

「着いたね」
「う、うん」

 このまま続きが聞けないんじゃないかと心配になった私に、アルフは小さな声で囁いた。

「トリン、夜ごはん前に中庭で会えるかな?」
「…っ!うん!分かった!」
「じゃあ、夕方にベンチのとこで待ってるから」
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