上 下
10 / 25

10.高位魔術と恋心

しおりを挟む
 魔術の授業が始まってから、もうすぐ二年になる。

 最初は小さな水球を浮かべるだけで精一杯だったけれど、今では中位の魔術も何とかこなせるようになってきた。

「トリン、今日から高位魔術の授業に入るぞ」
「はい!」

 遂に高位の魔術を学べるんだと思うと、ワクワクしてしまう。笑顔の私を見て、先生も笑顔を返してくれた。

「これは、グレイス魔術師団長閣下から指定されたものだ」

 私に魔術を教える許可を取った日から、ジョーさんはお父様と定期的に連絡を取っているらしい。最初に会った時に聞きたがっていた情報も、本人から聞けたと大喜びで話していた。

 そのお父様から指定された高位魔術は、水の防御魔法だった。身を守るために覚えておいて損はないというおすすめの魔術で、剣だろうと魔法だろうと弾くことができるという防御魔法だ。

 素晴らしい効力を持っているけれど、その分、難易度は一気に上がる。



 パシャンと音を立てて、また水球が床へと落下した。

「まだ大丈夫か?」
「はい、まだ魔力はあります!」
「よし、もう一度だ」

 何度も何度も失敗したけれど、さっきの失敗で何となく感覚は掴めた気がする。

「はい、いきます!」

 私はふうと息を吐いてから、心を落ち着かせてゆっくりと魔力を練り上げていく。

 まず作るのは大きな水球だ。水球が完成してもそのまま魔力は練り続ける。目の前に浮かんでいる水の中へと、その魔力を少しずつじんわりと溶かしこんでいく。一気に入れたら失敗するし、ゆっくりすぎても失敗する。

「そのまま続けて」
「はいっ」

 透明だった水が、少しずつ光を帯びていく。それでもただひたすらに魔力を送り続ければ、水球が眩く輝いた。キラキラした光を帯びた水の防御魔法の完成だ。

「で、できました!」
「さすが俺の愛弟子!!よくやった!!!!!」 

 興奮した様子のジョーさんの前で、まだ水球は消えずに輝いていた。

 お父様が知ったら、誉めてくださるかしら。そんな事を考えながら、私はキラキラ光る水球をいつまでも見つめていた。



 その日の夜ごはんの時には、研究所の皆から初めての高位魔術の成功をお祝いしてもらった。多分先生が皆に伝えてくれたんだと思う。

「さすがは、トリンじゃの」

 すっかり本当のお爺ちゃんみたいに接してくれるギルベルト所長は、そう言って頭を撫でてくれた。もうすぐ15歳になるのにって恥ずかしい気持ちもあるけれど、所長に頭を撫でられるとぽかぽか暖かい気分になる。

「本当によく頑張ったわね!」

 久々に会えた気がする、どこか疲れた様子のジェシカさんもそう言って誉めてくれたし、メルさんには思いっきり抱きしめてもらった。

 もちろん、アルフもお祝いしてくれた。

「おめでとう、トリン」
「ありがとう、アルフ」

 アルフは最近になって急に背が伸び出した。剣の訓練のおかげか、筋肉も綺麗についているし、なんだか急に少年から青年になったみたいで、話していると実はちょっと緊張する。

 でも、自分のことのように嬉しそうにしている姿はいつものアルフで、私の肩からも力が抜けた。

「また大きくなった?」
「え?トリンが小さくなったんじゃない?」

 悪戯っぽく笑う姿に、私も一緒になって笑ってしまった。

「でも高位魔術まで使いこなすとか、本当にすごいよ」
「ありがと」
「僕も負けないように頑張らないと」
「え、私はアルフに負けないように頑張ってるのに?」

 思わずそう返すと、アルフは一瞬目を見張ってからふわりと笑った。

 最近さらに格好良くなった気がするのは、私がアルフの事を好きだからそう見えるだけなのかしら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】クラーク伯爵令嬢は、卒業パーティーで婚約破棄されるらしい

根古川ゆい
恋愛
自分の婚約破棄が噂になるなんて。 幼い頃から大好きな婚約者マシューを信じたいけれど、素直に信じる事もできないリナティエラは、覚悟を決めてパーティー会場に向かいます。

巻き込まれ異世界転移者(俺)は、村人Aなので探さないで下さい。

はちのす
BL
異世界転移に巻き込まれた憐れな俺。 騎士団や勇者に見つからないよう、村人Aとしてスローライフを謳歌してやるんだからな!! *********** 異世界からの転移者を血眼になって探す人達と、ヒラリヒラリと躱す村人A(俺)の日常。 イケメン(複数)×平凡? 全年齢対象、すごく健全

【完結】狼獣人が俺を離してくれません。

福の島
BL
異世界転移ってほんとにあるんだなぁとしみじみ。 俺が異世界に来てから早2年、高校一年だった俺はもう3年に近い歳になってるし、ここに来てから魔法も使えるし、背も伸びた。 今はBランク冒険者としてがむしゃらに働いてたんだけど、 貯金が人生何周か全力で遊んで暮らせるレベルになったから東の獣の国に行くことにした。 …どうしよう…助けた元奴隷狼獣人が俺に懐いちまった… 訳あり執着狼獣人✖️異世界転移冒険者 NLカプ含む脇カプもあります。 人に近い獣人と獣に近い獣人が共存する世界です。 このお話の獣人は人に近い方の獣人です。 全体的にフワッとしています。

【完結】異世界転生して美形になれたんだから全力で好きな事するけど

福の島
BL
もうバンドマンは嫌だ…顔だけで選ぶのやめよう…友達に諭されて戻れるうちに戻った寺内陸はその日のうちに車にひかれて死んだ。 生まれ変わったのは多分どこかの悪役令息 悪役になったのはちょっとガッカリだけど、金も権力もあって、その上、顔…髪…身長…せっかく美形に産まれたなら俺は全力で好きな事をしたい!!!! とりあえず目指すはクソ婚約者との婚約破棄!!そしてとっとと学園卒業して冒険者になる!!! 平民だけど色々強いクーデレ✖️メンタル強のこの世で1番の美人 強い主人公が友達とかと頑張るお話です 短編なのでパッパと進みます 勢いで書いてるので誤字脱字等ありましたら申し訳ないです…

転移したら獣人たちに溺愛されました。

なの
BL
本編第一章完結、第二章へと物語は突入いたします。これからも応援よろしくお願いいたします。 気がついたら僕は知らない場所にいた。 両親を亡くし、引き取られた家では虐められていた1人の少年ノアが転移させられたのは、もふもふの耳としっぽがある人型獣人の世界。 この世界は毎日が楽しかった。うさぎ族のお友達もできた。狼獣人の王子様は僕よりも大きくて抱きしめてくれる大きな手はとっても温かくて幸せだ。 可哀想な境遇だったノアがカイルの運命の子として転移され、その仲間たちと溺愛するカイルの甘々ぶりの物語。 知り合った当初は7歳のノアと24歳のカイルの17歳差カップルです。 年齢的なこともあるので、当分R18はない予定です。 初めて書いた異世界の世界です。ノロノロ更新ですが楽しんで読んでいただけるように頑張ります。みなさま応援よろしくお願いいたします。 表紙は@Urenattoさんが描いてくれました。

異世界でケモミミを追いかけて

さえ
BL
ある日、転生する。人間ではなく悪魔に。 転生先で出会った獣人ジャックと旅する。 ※元々単なる異世界転生おれつぇー系で書くつもりだったので腐になってくるのはやや後半になると思います。 ※背後注意系は☆つけます。 ※獣人は人間に耳と尻尾が生えたタイプを想定しています。

【完結】スイートハニーと魔法使い

福の島
BL
兵士アグネスは幼い頃から空に思い憧れた。 それはアグネスの両親が魔法使いであった事が大きく関係している、両親と空高く飛び上がると空に浮かんでいた鳥も雲も太陽ですら届く様な気がしたのだ。 そんな両親が他界して早10年、アグネスの前に現れたのは甘いという言葉が似合う魔法使いだった。 とっても甘い訳あり魔法使い✖️あまり目立たない幸薄兵士 愛や恋を知らなかった2人が切なく脆い運命に立ち向かうお話。 約8000文字でサクッと…では無いかもしれませんが短めに読めます。

【完結】伝説の勇者のお嫁さん!気だるげ勇者が選んだのはまさかの俺

福の島
BL
10年に1度勇者召喚を行う事で栄えてきた大国テルパー。 そんなテルパーの魔道騎士、リヴィアは今過去最大級の受難にあっていた。 異世界から来た勇者である速水瞬が夜会のパートナーにリヴィアを指名したのだ。 偉大な勇者である速水の言葉を無下にもできないと、了承したリヴィアだったが… 溺愛無気力系イケメン転移者✖️懐に入ったものに甘い騎士団長

処理中です...