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7.私がスキルで操っていた?
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私の担当者がギルベルト所長とジェシカさんに決まったあの日から、早一年が過ぎた。
この一年、研究所にいる全ての人に手伝ってもらい、何度も何度も実験を重ねた。
実験内容はこうだ。
まず絶対に私の言葉に従わない事と所長から伝えてもらう。次に私から何かをお願いする。結果として、私のスキルに抗うことができた人は誰一人としていなかった。
私の意思は関係なく、ただ私が口にした言葉を、周りが全力で叶えようとする。
「トリンが望んでいなくても叶えようとするのか」
「魅入られたように逆らえないそうです」
「そうさな、このスキルを魅了スキルと名付けようかのう」
私のスキルの名前は入寮から一年後、ついに決まった。
魅了スキル。それは相手の意思すら曲げさせて自分のしたいことをさせる力。
もし私が綺麗な宝石が欲しいといえば、きっとたくさんの綺麗な宝石が集まるだろう。お金が欲しいと言えばお金が、情報が欲しいと言えば情報が、きっとすぐに集まってくる。人によっては夢のような力かもしれない。
でも、私にとっては、ただひたすらに恐ろしい力だった。
相手の意思に関係なく望めば叶うということは、私が常に周りを操っていたという事になる。両親も、兄様達も、あんなに優しかったのは、私がスキルで操っていたからかもしれない。実際には私を嫌っていたのかもしれない。そんな考えがどうしても頭の隅から離れなくなった。
幸いにもこの研究所にいる皆は、そんな私を受け入れてくれた。もし私が無茶な事を言い出しても逆らえない事は分かっているのに、当たり前のように話しかけてくれる。
「トリン、これさっき作ったクッキーなのよ!良かったらもらって」
「お、お疲れーさっきアルフが探してたぞ?トリンの部屋の前で待ってるって」
「あ、じゃあアルフの分も渡してあげて」
いつも通りにお菓子を頂いてしまった私は、すこし慌てて自分の部屋の前へと急いだ。
「アルフ、おまたせ」
「あ、トリン!誰かに聞いたの?」
「うん、トムさんが部屋の前で待ってるって教えてくれたの」
話しながら部屋の中へ促せば、アルフもすぐに部屋に入ってきた。慣れた様子で部屋に置いてある椅子へと腰を下ろした。
「あ、これメルさんから、アルフの分のクッキー」
「わ、ありがとう」
「今お茶入れるね」
最初はお茶も入れられなかった私も、ここの親切な隣人達から色々教わっているうちに、出来ることは増えてきた。部屋の隅に置いてあるお湯が出る魔道具を使って、頂きものの紅茶を入れる。最近になってやっと満足いく味に入れられるようになってきた紅茶を、アルフの前にそっと置いた。
「それで、どうしたの?」
「これを渡したくて」
アルフがポケットから取り出したのは、一冊の本だった。最近発売になったばかりの、私が好きなシリーズの最新刊だ。
「シャペールの最新刊!」
「今日朝から街に行ったら売ってたから、おみやげ」
「いつもありがとう…代金払わせて」
「いいよ、これはおみやげだし」
「でも…」
「何て言っても、絶対に受け取らないからね」
アルフは優し気な雰囲気なのに、意外と頑固なのよね。今度何かでお返ししようと決意しながら、私は受け取った本の表紙を指先で撫でた。
この研究所に来てから一年。私は一度も研究所の外には出ていない。
家族からは、能力が抑え込めなくても良いから帰っておいでと手紙が届いたけれど、会う勇気がどうしても出なかった私はお断りの手紙を書いた。
アルフからも何度も街へ行こうと誘ってもらったし、他の人たちもみんな出掛ける時には一緒に行かないかと声をかけてくれる。
気持ちは嬉しい。すごく嬉しいけれど、じゃあと気軽に街に出ることはできなかった。もし欲しいものがあって、それをうっかり口にだしてしまったら、周りがどうなるか。想像だけでも恐ろしかった。
研究所から出ないといっても、ここの敷地はかなり広いし、日向ぼっこのできる大きな中庭も、運動ができるほど広い裏庭もある。
そのおかげで、研究所から出なくても生活ができていた。別に外に出なくても大丈夫。私にはこの研究所の仲間がいるもの。
この一年、研究所にいる全ての人に手伝ってもらい、何度も何度も実験を重ねた。
実験内容はこうだ。
まず絶対に私の言葉に従わない事と所長から伝えてもらう。次に私から何かをお願いする。結果として、私のスキルに抗うことができた人は誰一人としていなかった。
私の意思は関係なく、ただ私が口にした言葉を、周りが全力で叶えようとする。
「トリンが望んでいなくても叶えようとするのか」
「魅入られたように逆らえないそうです」
「そうさな、このスキルを魅了スキルと名付けようかのう」
私のスキルの名前は入寮から一年後、ついに決まった。
魅了スキル。それは相手の意思すら曲げさせて自分のしたいことをさせる力。
もし私が綺麗な宝石が欲しいといえば、きっとたくさんの綺麗な宝石が集まるだろう。お金が欲しいと言えばお金が、情報が欲しいと言えば情報が、きっとすぐに集まってくる。人によっては夢のような力かもしれない。
でも、私にとっては、ただひたすらに恐ろしい力だった。
相手の意思に関係なく望めば叶うということは、私が常に周りを操っていたという事になる。両親も、兄様達も、あんなに優しかったのは、私がスキルで操っていたからかもしれない。実際には私を嫌っていたのかもしれない。そんな考えがどうしても頭の隅から離れなくなった。
幸いにもこの研究所にいる皆は、そんな私を受け入れてくれた。もし私が無茶な事を言い出しても逆らえない事は分かっているのに、当たり前のように話しかけてくれる。
「トリン、これさっき作ったクッキーなのよ!良かったらもらって」
「お、お疲れーさっきアルフが探してたぞ?トリンの部屋の前で待ってるって」
「あ、じゃあアルフの分も渡してあげて」
いつも通りにお菓子を頂いてしまった私は、すこし慌てて自分の部屋の前へと急いだ。
「アルフ、おまたせ」
「あ、トリン!誰かに聞いたの?」
「うん、トムさんが部屋の前で待ってるって教えてくれたの」
話しながら部屋の中へ促せば、アルフもすぐに部屋に入ってきた。慣れた様子で部屋に置いてある椅子へと腰を下ろした。
「あ、これメルさんから、アルフの分のクッキー」
「わ、ありがとう」
「今お茶入れるね」
最初はお茶も入れられなかった私も、ここの親切な隣人達から色々教わっているうちに、出来ることは増えてきた。部屋の隅に置いてあるお湯が出る魔道具を使って、頂きものの紅茶を入れる。最近になってやっと満足いく味に入れられるようになってきた紅茶を、アルフの前にそっと置いた。
「それで、どうしたの?」
「これを渡したくて」
アルフがポケットから取り出したのは、一冊の本だった。最近発売になったばかりの、私が好きなシリーズの最新刊だ。
「シャペールの最新刊!」
「今日朝から街に行ったら売ってたから、おみやげ」
「いつもありがとう…代金払わせて」
「いいよ、これはおみやげだし」
「でも…」
「何て言っても、絶対に受け取らないからね」
アルフは優し気な雰囲気なのに、意外と頑固なのよね。今度何かでお返ししようと決意しながら、私は受け取った本の表紙を指先で撫でた。
この研究所に来てから一年。私は一度も研究所の外には出ていない。
家族からは、能力が抑え込めなくても良いから帰っておいでと手紙が届いたけれど、会う勇気がどうしても出なかった私はお断りの手紙を書いた。
アルフからも何度も街へ行こうと誘ってもらったし、他の人たちもみんな出掛ける時には一緒に行かないかと声をかけてくれる。
気持ちは嬉しい。すごく嬉しいけれど、じゃあと気軽に街に出ることはできなかった。もし欲しいものがあって、それをうっかり口にだしてしまったら、周りがどうなるか。想像だけでも恐ろしかった。
研究所から出ないといっても、ここの敷地はかなり広いし、日向ぼっこのできる大きな中庭も、運動ができるほど広い裏庭もある。
そのおかげで、研究所から出なくても生活ができていた。別に外に出なくても大丈夫。私にはこの研究所の仲間がいるもの。
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