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しおりを挟む秋の風が自分の目の前を吹き抜けていく。
冬に向かって季節は移行しつつあり少し寒さも感じるが、見上げれば秋晴れが広がっていて、外に出かけるには丁度いい気候だと感じた。
ざわめく街並みの中で結希は人と待ち合わせをしていた。
待ち合わせ場所に着くと周りを見渡す。ふと高校生何人かが楽しそうに歩いて行く姿が目に入った。
見ると白人の高校生も混じっている。留学生なのか日本に引っ越して来たのだろうか?
(留学生か……懐かしいな)
ふと自分が高校生だった時のことを思い出すと少し苦笑が漏れた。
あの時出会った白人の彼との関係が当時は苦い思い出となっていた。
高校時代は今から二十年以上前のことで、あの時はスマホやSNSがなかったからこそ会えなかった空白時間が起きたのだが。
(……人生って何が起きるかわからないな)
そう思いながら待ち合わせ時間を確認しながら来る人を待ち続けた。
【 この話は今から十二年前の話に遡る 】
「ということだから折原、明日来日される提携を組む社長代行のサポートを頼むな」
いつものように総務課でデスクワークをしている最中、突然上司から話があると言われ何事かと思いながら付いていくと、急にそう命令された折原結希は唖然とし、慌てて上司に問い質した。
「ちょっと待って下さい!なんで俺なんですか!?」
「どうもその社長代行さんがお前と同じ歳らしい。それで折原に任せることにしたみたいだ」
「で、でも!!」
「上からの命令だ。いいな?」
強く言い詰められそれ以上結希は言い返せなかった。
デザイン会社に勤めている結希の会社は、最近アメリカの家具メーカーと提携を組み、挨拶をする為に日本へと社長ではなくその息子の社長代行がわざわざ来日することになったのだ。
上司から渡された資料を手にし、読み進めると手が止まった。
社長代行の名前を聞いて結希の心が大きくざわめいた。
社長代行 リデル・ライト
結希はリデル・ライトという名前に覚えがあった。過去、彼と出会っていた。
(もう思い出したくない思い出だ)
高校生時代に短期留学で来日したリデル・ライトは、日本のアニメ、漫画が好きでそれをきっかけに日本自体に興味を持ち、勉強をしたくて当時在校していた結希の高校に来た。
たまたまリデルは結希の隣の席になったことで親しくなって、仲良くしていたのだ。
彼は本当に顔立ちが良く、金色のサラサラな髪、青い瞳で手足が長く性格も穏やかで、女子からは“金髪の王子”と密かに呼ばれていたくらいだ。
周りは常に女子生徒に囲まれていたが、それでもリデルは結希と一緒に過ごす時間を楽しんでいたように見えたのだ。
三ヶ月という短い短期留学だったが二人はとても親しくなり、気づけば結希は親友以上の感情になっていた。彼の魅力に惹かれずにはいられなかったのだ。
二人の関係にヒビが入ったのは学際中に起きた。
リデルは一緒になって学際の手伝いもしてかなり疲れも溜まっていたようで、学際当日に人気のいない教室で座って眠っていた。
彼を探しに回っていた結希は思わぬところで見つけ、声を掛けようかと思ったが起こすことに気が引け、それ以上に彼の寝顔を見つめていたくて敢えて声を掛けなかったのだ。
静かに寝息を立てている寝顔を見つめていると、不意に触れたくなった。
日本人にはない白く綺麗な顔肌と長いまつ毛が寝息と共に揺れている。
風に揺れて前髪から覗く彼の額に思わず、触れるだけのキスをしてしまったのだ。
その瞬間、リデルは目を覚まし一瞬にしてお互いの目が合った。
驚き結希は思わずリデルから離れると、同時に驚いたリデルの青い瞳が暫く凝視していた。その態度で彼は結希がした行動に気がついたのだ。
結希は言い訳が見つからず戸惑いながら後ずさりをし、そしてその場を何も言わず去ったのだ。リデルは結希を呼び止めたがその声を振り切った。
それ以来、結希はリデルに声を掛け辛くなり彼を避け、それを察したリデルも声を掛けなくなりそのままアメリカに帰国した。
(思い出したくない、俺の黒歴史だ)
若気の至りとはいえ、向こうだって男に額とはいえキスされていい気持ちがするわけがなかった。
向こうにその記憶を思い出させてはいけない。
(……向こうが気づかないようにしないと)
そう考えた時、高校時代より今の自分が一ヶ所だけ違いがあることに気がついた。
見た目も当時より容姿が変わっていると思うが、そこの違いでなんとか逃げ切れるのではと思った。
(滞在は一週間だが平日の五日間だけ会社に来るって書いてあったな。何とか誤魔化していかないと)
そう色んなことを考えながら、結希は自席に戻って行った。
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