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夢の中で
しおりを挟むああ、これは夢だな。とわかる瞬間がある。
何故なら、それはもう昔の話。一度見たことがある光景だったからだ。
「アルフレッドさま! 出来ましたっ」
興奮する少年ノアは、恐らくこの頃は10歳前後だったはずだ。
「見てくださいこの素晴らしい造形! これを売ればお金になりますよ!」
「お前なぁ……公爵家令息で将来俺の嫁になる男が、なんでこんなくだらない人形遊びで金儲けしようとしてんだよ?」
飽きれたように顔を顰める幼い時のアルフレッド殿下。彼の言っている事は大変ごもっともである。
「遊びじゃないですよ。これ、土で出来ているんですけど、魔力の膜で包んでいるので水にも浮くんですよ! ほらほらぁ」
ノアは自分で作った土の箱舟を中庭の池に浮かばせた。小さな人形を乗せた箱舟は水の上をプカプカと浮いている。
「……ノア」
「はい」
「その魔法、俺以外の奴の前で使うなよ」
ノアはきょとんとアルフレッド殿下を瞬きして見つめる。何故彼がそんなことを言うのか、わからなかったからだ。
「ぼくの魔法はアルフレッド殿下のようなえげつないやつじゃないですよ?」
「充分エグいわ、アホ。こんだけ精巧な細工を魔法で作れるって知られたら……」
「知られたら?」
「……俺の父上に思いっきりコキ使われるぞ。しかも身内だからとか言い出して謝礼は多分出さない」
「えぇー!! 陛下ケチすぎます!」
「お前もタダ働きなんて嫌だろ? だから、魔法が使えることは黙っていろ……勿論、俺の魔法の事もな」
「わかってますよー。アルフレッド殿下のそれって本当は結婚するまで言っちゃダメなやつだったんでしょ?」
「ああ。でもお前には隠し事なんてしたくなかったからな……ノアは特別だから」
「へへっ。ぼくにとってもアルフレッドさまは一番特別な人ですよ」
ノアが笑うと、アルフレッドも嬉しそうに微笑んだ。それは、春の陽だまりのようなとても愛おしい時間だった。
「…………懐かしい夢だったな」
ほとんど忘れていた過去の出来事だった。幼少期からアルフレッドとノアは多忙ではあったが、それでも二人きりで王城の中庭で遊ぶ時もあった。
ノアはそんなアルフレッドとの時間がとても好きで……好きで……。
「……はぁー……なんで今更夢にまで出てくるかねぇ……」
窓の外は少し明るくなってきた頃だった。まだ起床の時間には早い。ノアは再び目を瞑り二度寝しようとしたが、目が覚めてしまったのか眠気は訪れなかった。
(そういえば……なんであの時アルフレッド殿下は魔法のことを口止めしようとしたんだろうか?)
アルフレッドに忠実だったノアは、あの日以降魔法は使ってこなかったし、自分に魔力があること、また扱えることを家族にすら話してない。
『陛下にバレたら大変だから』というのは当時のノアは納得したが、今思い返してみればあれは幼いノアを納得させるための嘘だとわかる。
あの時の真剣なアルフレッドの顔からして、それなりの理由があるはずなのだが、結局考えてもよくわからなかった。
(うーん……魔法の勉強を進めたらその理由がわかるのかもな)
目が覚めてしまったノアは、二度寝する事を諦めて上体を起こし、枕元に置いていた本を手に取った。それは昨日図書館から借りてきた魔法の基本的な知識が書かれている書物だった。
(……さすが、優秀な司書が選んだ著書だ。解説書が要らないくらいわかりやすい)
この世界の書物は難解なものも多く、時には読み解くのに入門書の入門書が必要な本がゴロゴロとしているのだが、エディの薦めてくれた本はとても丁寧でわかりやすい書物だった。
(この二冊が読み終わったら、また図書館に行くか。エディなら冒険者になるための入門書も探してくれるに違いない……楽しみだ)
それがかなりの無茶ぶりだという事に、ノアは全く気付いていなかった。
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