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誰よりも傍で見てきたから
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「……それで、私と陛下が密談している間、お前達三人は玉座の間の廊下で何を言い争っていたんだ?」
王城からチャールストン家に向かう馬車の中で、オスカーは嫌々という顔を隠さずにノアに尋ねた。
「……聞いちゃいます? あまりに馬鹿馬鹿しくて後悔するかもしれませんよ?」
「構わん……少し聞いただけでも頭の痛い会話だったから、多少の事では驚かない」
「じゃあ、話しますけど。ローラン様は私と結婚して一緒に帰国したいそうです」
「は?」
ローランの話は、オスカーの予想を軽く超えていたらしく酷く驚いた顔をしていた。
「……お前はローラン様とそんなに親しかったのか?」
「いえ、きちんとお話したのは昨日が初めてです」
正直にそういうとオスカーは『理解できん』と眉間に皺を寄せた。ローランの気持ちが理解できないのはノアも一緒なので『うんうん』と深く二度頷いておいた。
「そしてアルフレッド様は私が未だに殿下を慕っていると思っている様子」
「そちらの方は、お前の幼少期からの献身っぷりをみていたら、勘違いしても仕方がないところだろう」
「あと、ローラン様と私が付き合うのは認めないそうです」
「いや、たとえ殿下が反対だとしても、お前とローラン殿の関係に口出しする権利はもはやないだろう」
『ですよねー』とこれまたオスカーの意見に同意するノアだった。
「ローラン様とアルフレッド殿下は、この一年で親交を深めていたらしく、親しい関係だったようですが、今回はそれが災いして、互いに気兼ねなく言いたい事をストレートに発言しあった結果があの修羅場です」
「……お前は、厄介な人物に好かれる気質でもあるのか?」
「冗談抜きに、一度お祓いした方がいいかもしれません」
「うむ。最近は色々な事が起き過ぎた。腕利きの祈祷師を探すとしよう」
おふざけだと思われかねないノアの提案を、オスカーは茶化さずに受けいれて、そう約束した。
「それはそうと、お父様は陛下との話し合いはうまくいったのですか?」
「ああ。今回の婚約破棄はこちらになんのお咎めもなし。アルフレッド殿下に非があると陛下は全面的に認めてくださった。我が領地への税を十年間、軽減してくださる事が決定し、既に密約書に署名済みだ」
(さすがお父様……ちゃっかり慰謝料巻きあげてる……)
「だが、この密約には気になることがある」
「気になること、とは?」
「陛下は、見返りを何も要求されなかった。当然、これだけの譲渡をするのだ。本来ならばアルフレッド殿下への変わらぬ忠誠心を見返りに求める条件を織り込んでも良いはずだ。私もこれは当然、条件に入るだろうと思い、その場合は受け入れる覚悟を持っていた。しかし、陛下は何故かそれを言い出さなかった……」
「忘れていたとか……あるいは、当家の忠誠心を疑っていなかったからとかですかね?」
「陛下に限って忘れていたというのはあり得ないだろう。そして、政界においてなんの縛りもなしに期待を寄せるのは単なる甘えでしかない……陛下はそんな簡単に人を信じる人ではないよ。良い意味でな」
「では、わざと、ということですか?」
「そうだ……わざとアルフレッド殿下への忠誠をチャールストン家に求めなかった。この意味はわかるか?」
「まさか……陛下はここにきて、アルフレッド殿下に王位を譲ることを迷われている?」
オスカーはノアの推測に、静かに頷いた。
(うーん、これまた意外な展開になってきたな)
乙女ゲームの王太子ルートでは、アルフレッドとリリスの結婚式で幕が閉じる。確かにアルフレッドが王位を継承した場面は描かれていない。しかし、ハッピーエンドの雰囲気的にアルフレッドが王になるのは確定のはずだ。
(つまり、また原作との誤差が出てきたな……でも、今回はあくまでも可能性だ。だって今でも庶子に王位継承権はない。そしてセシル王子には、王位を継ぐのが難しい公然の秘密がある。となると、他の候補者か、あるいはこの二人が抱えるどちらかの問題を解決する必要がある。だが、一朝一夕ではどうにもならない……でも、その手間暇を惜しまないほど、陛下は本気でアルフレッド殿下を王太子から外すことを考えているのだろうか?)
「……そう悲しそうな顔をするな。アルフレッド殿下はもうお前の未来の夫ではないのだから」
「別に、悲しんでなんていませんよ。ただ……」
ノアは長年アルフレッドの傍に仕えてきた。だから誰よりも知っている。彼が王太子としての責務を果たしてきたこの十数年間を誰よりも……。
「……いえ、なんでもありません」
けれど、確かにオスカーの言う通り、ノアにはもう関係のない話だった。
ノアは胸は溢れる苦い気持ちを振り払うように無理矢理話題をかえた。
「陛下とのお話はそれだけだったのですか?」
「あぁそういえば、お前に与えていた王太子妃候補としての特権は、今後もそのまま使って良いとのことだ」
「特権ってなんでしたっけ?」
「王城の中庭で主催として社交場を開く権利、王城のサロンに自由に参加する権利、あとは王立図書館に所蔵している書物を持ち出せる権利、とかだったか? 全部は私も覚えていないが」
「ありましたねぇ、そんなの」
もっとも、今は貴族社会にあまり顔を出したくないノアにはあまり旨みのない権利ばかりだったが。
(あ、でも図書館へ行くのはありだな。どうせ暇だし、読書でもしてみようか。もしかしたら冒険者になるための指南書とかあるかもしれないし)
未だに冒険者になれると信じきっているノアは、未来に想いを馳せて胸を膨らませるのだった。
王城からチャールストン家に向かう馬車の中で、オスカーは嫌々という顔を隠さずにノアに尋ねた。
「……聞いちゃいます? あまりに馬鹿馬鹿しくて後悔するかもしれませんよ?」
「構わん……少し聞いただけでも頭の痛い会話だったから、多少の事では驚かない」
「じゃあ、話しますけど。ローラン様は私と結婚して一緒に帰国したいそうです」
「は?」
ローランの話は、オスカーの予想を軽く超えていたらしく酷く驚いた顔をしていた。
「……お前はローラン様とそんなに親しかったのか?」
「いえ、きちんとお話したのは昨日が初めてです」
正直にそういうとオスカーは『理解できん』と眉間に皺を寄せた。ローランの気持ちが理解できないのはノアも一緒なので『うんうん』と深く二度頷いておいた。
「そしてアルフレッド様は私が未だに殿下を慕っていると思っている様子」
「そちらの方は、お前の幼少期からの献身っぷりをみていたら、勘違いしても仕方がないところだろう」
「あと、ローラン様と私が付き合うのは認めないそうです」
「いや、たとえ殿下が反対だとしても、お前とローラン殿の関係に口出しする権利はもはやないだろう」
『ですよねー』とこれまたオスカーの意見に同意するノアだった。
「ローラン様とアルフレッド殿下は、この一年で親交を深めていたらしく、親しい関係だったようですが、今回はそれが災いして、互いに気兼ねなく言いたい事をストレートに発言しあった結果があの修羅場です」
「……お前は、厄介な人物に好かれる気質でもあるのか?」
「冗談抜きに、一度お祓いした方がいいかもしれません」
「うむ。最近は色々な事が起き過ぎた。腕利きの祈祷師を探すとしよう」
おふざけだと思われかねないノアの提案を、オスカーは茶化さずに受けいれて、そう約束した。
「それはそうと、お父様は陛下との話し合いはうまくいったのですか?」
「ああ。今回の婚約破棄はこちらになんのお咎めもなし。アルフレッド殿下に非があると陛下は全面的に認めてくださった。我が領地への税を十年間、軽減してくださる事が決定し、既に密約書に署名済みだ」
(さすがお父様……ちゃっかり慰謝料巻きあげてる……)
「だが、この密約には気になることがある」
「気になること、とは?」
「陛下は、見返りを何も要求されなかった。当然、これだけの譲渡をするのだ。本来ならばアルフレッド殿下への変わらぬ忠誠心を見返りに求める条件を織り込んでも良いはずだ。私もこれは当然、条件に入るだろうと思い、その場合は受け入れる覚悟を持っていた。しかし、陛下は何故かそれを言い出さなかった……」
「忘れていたとか……あるいは、当家の忠誠心を疑っていなかったからとかですかね?」
「陛下に限って忘れていたというのはあり得ないだろう。そして、政界においてなんの縛りもなしに期待を寄せるのは単なる甘えでしかない……陛下はそんな簡単に人を信じる人ではないよ。良い意味でな」
「では、わざと、ということですか?」
「そうだ……わざとアルフレッド殿下への忠誠をチャールストン家に求めなかった。この意味はわかるか?」
「まさか……陛下はここにきて、アルフレッド殿下に王位を譲ることを迷われている?」
オスカーはノアの推測に、静かに頷いた。
(うーん、これまた意外な展開になってきたな)
乙女ゲームの王太子ルートでは、アルフレッドとリリスの結婚式で幕が閉じる。確かにアルフレッドが王位を継承した場面は描かれていない。しかし、ハッピーエンドの雰囲気的にアルフレッドが王になるのは確定のはずだ。
(つまり、また原作との誤差が出てきたな……でも、今回はあくまでも可能性だ。だって今でも庶子に王位継承権はない。そしてセシル王子には、王位を継ぐのが難しい公然の秘密がある。となると、他の候補者か、あるいはこの二人が抱えるどちらかの問題を解決する必要がある。だが、一朝一夕ではどうにもならない……でも、その手間暇を惜しまないほど、陛下は本気でアルフレッド殿下を王太子から外すことを考えているのだろうか?)
「……そう悲しそうな顔をするな。アルフレッド殿下はもうお前の未来の夫ではないのだから」
「別に、悲しんでなんていませんよ。ただ……」
ノアは長年アルフレッドの傍に仕えてきた。だから誰よりも知っている。彼が王太子としての責務を果たしてきたこの十数年間を誰よりも……。
「……いえ、なんでもありません」
けれど、確かにオスカーの言う通り、ノアにはもう関係のない話だった。
ノアは胸は溢れる苦い気持ちを振り払うように無理矢理話題をかえた。
「陛下とのお話はそれだけだったのですか?」
「あぁそういえば、お前に与えていた王太子妃候補としての特権は、今後もそのまま使って良いとのことだ」
「特権ってなんでしたっけ?」
「王城の中庭で主催として社交場を開く権利、王城のサロンに自由に参加する権利、あとは王立図書館に所蔵している書物を持ち出せる権利、とかだったか? 全部は私も覚えていないが」
「ありましたねぇ、そんなの」
もっとも、今は貴族社会にあまり顔を出したくないノアにはあまり旨みのない権利ばかりだったが。
(あ、でも図書館へ行くのはありだな。どうせ暇だし、読書でもしてみようか。もしかしたら冒険者になるための指南書とかあるかもしれないし)
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