婚約破棄された悪役令息は隣国の王子に持ち帰りされる

kouta

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隣国の第三王子

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 翌朝。本来ならば卒業式に出席するために学校に登校する予定だった。
 しかし、昨晩の騒動があったので登校するのは正直、気が進まない。

(もう卒業は確定しているわけだし、別に参加しなくてもいいか)

 朝食は、父と一緒だったので、卒業式を欠席してもよいかと尋ねるとあっさり許可が下りた。

(よし、今日は部屋にこもって作戦会議だな! ギルドに参加するためにはまず城下町に降りる必要がある……この格好で行くと貴族だってバレてしまうから、変装しなくっちゃ……ああ、楽しくなってきた)

「お寛ぎのところ失礼いたします、ノア様。王城より文が届いています」
「ゲッ」

メイドの登場により、ノアの楽しい妄想タイムは強制終了になった。

(王城から……まさか、国王様か? 父上といい国王陛下といい、行動が早い……アルフレッド様は卒業式で式辞を述べなきゃいけないから今日呼び出されることはないと思っていたのに)

「すぐにお読みになって、お返事が欲しいと……」
「え? 使者の人が待っているの?」
「はい」

(ああ、これ絶対国王様の呼び出しじゃん。やだなぁー病欠とかできないかな? 無理だろうな。俺がいないところで勝手に変な話が決まっても嫌だし覚悟を決めるか)

 ノアは嫌々王城の使者が持ってきた手紙を受け取った。しかし、すぐに違和感に気づく。

(ん?この紋章……王族の印でもなければ、うちの国のものじゃないな?)

 手紙に押されていた印は、あまり馴染みのないものだった。でもまったく知らないものでもない。王妃教育として無理矢理植え付けられた知識が正解を教えてくれる。

(この紋章……オーベルニュ国の印だ。え? なんで??)






「突然の訪問なのに、快諾いただき、誠にありがとうございます」

金髪や茶髪が多いこの国には、殆どいない白銀の髪。端正な顔立ちに浮かべる甘い微笑み。親しみやすさを覚える柔らかい物腰だが、一つ一つの仕草にはまるで隙が無く、どことなく近寄りがたいイメージをノアは抱いていた。
 王族らしい貫禄と完璧な礼儀作法を身につけているこの美形な男性は、ローラン・リシャール。隣国であり、大国でもあるオーベルニュ国の第三王子である。

 快諾していただき……といけしゃあしゃあと言っているが、大国の大事な大事なお客様である彼が訪問したいというのであれば、たかが公爵の末っ子であるノアに断れるはずがない。

(いや、ほんとなんでこの人、うちに押しかけてきたの??)

「困惑されていますね」
「そうですね……正直、リシャール様とはほとんどお話されたことがなかったので……」
「どうかローランとお呼びください」
「はぁ……」

まったくの初対面かというと、実はそうでもない。

 というのも、ローランはこの国に一年間留学するために滞在していたからだ。学年も一緒だったが、クラスが違った為、社交辞令として一度挨拶を交わした後は廊下ですれ違う時に黙礼するぐらいの間柄である。
 顔見知りではあるが、家に遊びに来るほど親しいかと言われたら絶対に違う……そんな結構薄っぺらい仲である。
 当然、お互い名前で呼び合うこともなかった。ただ、王子がそれを望むのならノアに断れるはずもない。

「では、私のこともノアとお呼びください」
「わかりましたノア」

(いや、呼び捨てかよ……別にいいけど)

「こちら、私の国で大変人気のあるお菓子です」
「まぁ、マカロン……大好きです、ありがとうございます」

この国ではほとんど食べる機会のない貴重な菓子は、令嬢への手土産なら百点満点のチョイスである。
 ノアも甘いものが好きなので、確かに嬉しいのだが、それよりなにより、ローランの目的の方が気になってしまう。ノアはメイドにマカロンに合う紅茶を淹れるように指示を出した後、ローランを中庭へと案内する。チャールストン家ご自慢の薔薇園に建てられた東屋にて、ノアは早速本題を切り出した。

「ところで、ローラン様。私に一体何の御用でしょうか? 卒業式に出席する予定だったのでは?」
「卒業式に出席してもただの留学生の私は特にすることはありませんし。形式だけの卒業式に出席するより、私は貴方と一度ゆっくりお話しがしてみたかったのです」
「私と?」

『話をしたかった』と本気でローランが考えているのであれば、在学中いくらでもチャンスがあった。それなのに卒業するこのタイミングで押しかけてきたということは……

(昨夜の騒動と何か関係があるのか? 確かにあの祝宴にはローラン様を出席されていたと思うが……)

「……思ったよりも、お元気そうで安心しました」

その一言でノアは自分の予想が当たっていたと確信した。唐突に、ローランがノアに興味を示したのは、ノアがあの騒動の中心人物であったからだ。

(つまり、ただの野次馬野郎かよこいつ……他人事だと思って面白がってんのか?)

 この時点でノアのローランに対する好感度は一気にマイナスまで落ちた。しかし、無下に対応する訳にもいかないので表向きは笑みを浮かべておく。

「お気遣い、ありがとうございます。昨日の今日で、私もまだ動揺しているのですが……」
「ええ。そうでしょうね……」

ローランはメイドが運んできた紅茶を一口啜り、間を置いた後切り出した。

「しかし、昨晩の貴方の姿は実に素晴らしかった」
「え?」
「貴方がアルフレッド殿下をお慕いしていたことは在学していた者なら皆知っていたでしょう。それまで一途に思い続けていたのに、あの仕打ち……本来ならば張り手の一つでも飛んでおかしくない状況です」

(乙女ゲームでは手どころかナイフが飛び出すんだけどな)

「それなのに、貴方はアルフレッド殿下やお相手の方に、恨み言の一つすら零さず、婚約破棄を受け入れた……一瞬私は貴方が自暴自棄になってしまったのではないかと心配しました。でも、アルフレッド様に向けた貴方の顔……吹っ切れたように明るい素敵な笑みを浮かべていました。私はそんな貴方の姿を見てこう思ったのです」

ローランは、令嬢なら即座に落ちてしまいそうな甘ったるい視線をノアに向けた。

「私にもあんな顔で微笑んでほしい、と」
「つまりバッサリ振って欲しいと言う事ですか?」

(変態なの? この人)

「フッ……ハハハハッ! やはり、貴方は面白い。ますます興味が出てきました」
「はぁ……」

残念ながらいくらノアへの好感度が上がっても、残念ながらノアのローランへ対する評価はマイナス&変態である。




 野次馬の変態野郎とはいえ、他国に留学するほど頭が良いローランとの会話は意外と楽しかった。
 ローランはこの国以外の他の国にも外遊したことがあるらしく、色々な国の話を聞けて興味深かったし、ローランは聞き上手でもあったので、さして興味がないであろう薔薇の話に関しても色々と質問を交えながら根気よく聞いてくれた。そんな他愛もない話をしていたらいつの間にか数時間経っていたようだ。
 メイドが申し訳なさそうに夕食のオーダーを聞いてきて、すっかり話し込んでいたことに気づいた。

「すっかり長居をしてしまいましたね。貴方の話が面白くてつい時間を忘れていました」
「私も楽しかったですローラン様」
「ノアはしばらくこの家にいるのですか?」
「ええ……先の事は、今はまだ考えられなくて……父も将来の事を考えるのはゆっくり静養した後で良いと」
「私は一か月後にこの国を発つ予定です。無事に卒業しましたが、この国でお世話になった方への挨拶がまだ済んでいないので」

ローランは少し間を置いた後、真剣な顔つきになってノアを瞳を見つめた。

「ノア。貴方は外国に興味がありますか?」
「外国に?」
「はい……良ければ、一度我が国オーベルニュに来てみませんか」
「それは素敵なお誘いですね」
「社交辞令として言っているのではありませんよ? 私は本気で貴方と一緒に帰国したいと思っているんです」

ローランは不意にノアの手に触れた。ローランの手は大きく、細く小さなノアの手がすっぽりと入ってしまった。

「どうか、この一か月の間に考えてみてください。良いお返事をお待ちしております」

ローランはノアの手の甲にキスをして、爽やかな笑みを浮かべ、チャールストン家を後にした。

 薔薇園に一人残されたノアは……

(うーん……あんな攻略対象いたっけな? でも、あのイケメンっぷり、絶対乙女ゲームの登場人物のはず。記憶にないってことは俺がやっていない追加ディスクか続編か。隠しキャラだった可能性もあるけど……どっちにしろ、攻略情報がないっていうのはめんどいな!?)

 ローランのアプローチにまったく気づくことなく、わりとメタなことを考えていた。 

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