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第43話 新しい依頼
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「スタンス、ジュエル。おはよう」
「おはようございます」
ジュエル王女は村人に丁寧にお辞儀をする。
フローラの家に住み始めて三週間、ジュエル王女は村の暮らしにもだいぶなじんできていた。
朝は専属のシェフではなく自分でトーストを焼くようになり日中は花嫁修業と称して家事にいそしむ。
フローラの帰りが遅い時はジュエル王女が晩ご飯を作ることもある。
初めのうちこそ毎日ドレスを着ていたが今では村人と変わらぬ普通の恰好をしている。
立ち居振る舞いや口調こそまだ王女のそれだが王女の面影はなくなりつつあった。
ちなみにジュエル王女がジョパン国の第一王女だということは村のみんなにも浸透している。
なぜならコロンが嬉しさのあまり村のみんなに話して回ったからだ。
まあ、俺が常日頃から「ジュエル王女」と呼んでいるせいもあるかもしれないが。
「おはよう、ジュエルさん、スタンスくん」
「おはようございます」
しかし村の人たちのジュエルへの対応は特に変わったところはない。
都会の情報が入ってこないからか王女と聞いてもあまりピンと来ていないのかもしれない。
一方のジョパン国第二王女であるプルセラ王女はというと村には一週間に一回ほど顔を出す程度だ。
体が弱く病気がちという設定をやめたのか今では国の行事にたまにだが参加しているらしい。
何か心境の変化でもあったのだろうか。
これは当然のことだがジュエル王女もきちんと国の行事には参加している。
その際は俺のヘブンズドアで送り迎えをしてやっている。
「あの、ギルドに行くだけですからついてこなくてもいいですよ」
「いえ、今日は王族の集まりもありませんし家事も一通り終わりましたのでスタンス様のお供をしたいと思います」
とジュエル王女は返す。
「はあ、そうですか」
ジュエル王女は時間があれば必ずと言っていいほど俺の行くところについてくる。
結婚という二文字こそ口にはしないものの、まだ俺との結婚を諦めてはいないようだ。
妙なところで頑固というか意地っ張りというか……。
「あらスタンス、ジュエルも。朝から一緒かい? 仲がいいねぇ」
「あ、おはようございますデボラさん」
「おはようございます」
「どこ行くんだい?」
「ちょっとギルドに行ってみようかと」
「わたくしもです」
俺の所持金は銀貨が数枚だけ。
いくらジュエル王女のおかげで生活費が必要なくなったと言ってもこれでは心もとない。
「そうかい、コロンに会ったらよろしく言っといてよ」
「わかりました」
デボラさんと別れると俺たちはギルドに向けてなおも歩く。
「そういえばプルセラ王女何かあったんですか?」
「何かというのはどういうことでしょうか?」
「いや、前は仮病を使ってまで王族の行事を欠席してたのに最近は顔を出してるみたいじゃないですか」
「そのことですか。う~ん、そうですね……スタンス様にならお話してもいいでしょう」
ジュエル王女はそう言って続けた。
「プルセラはある貴族の殿方に一目惚れしてしまったようなのです」
「えっ!? プルセラ王女が一目惚れですかっ!?」
「その反応は信じられないといったご様子ですね」
「はい、正直信じられません」
プルセラ王女は色気より食い気の人だと思っていた。
その王女がまさか男に一目惚れとは……。
しかも相手が貴族なんて。
「お目当ての殿方見たさに王族や貴族のパーティーに顔を出しているのでしょうね」
「はあ……」
「あの子は素直ですから隠しているようでも周りには筒抜けなのです」
「じゃあ相手にも?」
「ええ、おそらく」
うわ~、それは恥ずかしいな。
そうこうしているとギルドに着いた。
「今の話プルセラには内緒にしておいてくださいね」
「もちろんです」
俺だってそこまで野暮じゃない。
陰からそっと応援してやるさ。
ギルドのドアを開けると「ようこそいらっしゃいませっ」と明るい声が飛んでくる。
声の主はもちろんコロンだ。
「おはようございま……ふぇぇっ!? ジ、ジュエル様っ!?」
コロンは飛び上がらんばかりの勢いで驚きの声を上げた。
何度かジュエル王女とともにギルドを訪れているのだが未だにコロンはジュエル王女を見るとこの調子だ。
さすがにいい加減慣れてほしい。
「おはようございます、コロンさん」
「お、お、お、おはようございましゅっ」
「コロン、落ち着け」
「は、はい、すみませんっ」
コロンは髪形を整えると俺に向き直る。
「ところで新しい依頼は来てるか?」
「あっそうなんです! 喜んでください、依頼来てるんですよっ」
「本当かっ?」
「はいっ。わたしいつも営業頑張ってますから、えへへ~」
締まりのない顔になるコロン。
「コロンさん、それは一体どのような依頼なのですか?」
「あっ、え、え、えーっとですね……それはその……うーんと……」
コロンはジュエル王女の問いかけにまたもテンパり出す。
ちょっとジュエル王女どっか行っててくれないかな。
「こ、こ、これですっ」
コロンは依頼書を手に取り俺たちに見せてくれた。
「えーっと、なになに……紅蓮の牙、討伐隊?」
「おはようございます」
ジュエル王女は村人に丁寧にお辞儀をする。
フローラの家に住み始めて三週間、ジュエル王女は村の暮らしにもだいぶなじんできていた。
朝は専属のシェフではなく自分でトーストを焼くようになり日中は花嫁修業と称して家事にいそしむ。
フローラの帰りが遅い時はジュエル王女が晩ご飯を作ることもある。
初めのうちこそ毎日ドレスを着ていたが今では村人と変わらぬ普通の恰好をしている。
立ち居振る舞いや口調こそまだ王女のそれだが王女の面影はなくなりつつあった。
ちなみにジュエル王女がジョパン国の第一王女だということは村のみんなにも浸透している。
なぜならコロンが嬉しさのあまり村のみんなに話して回ったからだ。
まあ、俺が常日頃から「ジュエル王女」と呼んでいるせいもあるかもしれないが。
「おはよう、ジュエルさん、スタンスくん」
「おはようございます」
しかし村の人たちのジュエルへの対応は特に変わったところはない。
都会の情報が入ってこないからか王女と聞いてもあまりピンと来ていないのかもしれない。
一方のジョパン国第二王女であるプルセラ王女はというと村には一週間に一回ほど顔を出す程度だ。
体が弱く病気がちという設定をやめたのか今では国の行事にたまにだが参加しているらしい。
何か心境の変化でもあったのだろうか。
これは当然のことだがジュエル王女もきちんと国の行事には参加している。
その際は俺のヘブンズドアで送り迎えをしてやっている。
「あの、ギルドに行くだけですからついてこなくてもいいですよ」
「いえ、今日は王族の集まりもありませんし家事も一通り終わりましたのでスタンス様のお供をしたいと思います」
とジュエル王女は返す。
「はあ、そうですか」
ジュエル王女は時間があれば必ずと言っていいほど俺の行くところについてくる。
結婚という二文字こそ口にはしないものの、まだ俺との結婚を諦めてはいないようだ。
妙なところで頑固というか意地っ張りというか……。
「あらスタンス、ジュエルも。朝から一緒かい? 仲がいいねぇ」
「あ、おはようございますデボラさん」
「おはようございます」
「どこ行くんだい?」
「ちょっとギルドに行ってみようかと」
「わたくしもです」
俺の所持金は銀貨が数枚だけ。
いくらジュエル王女のおかげで生活費が必要なくなったと言ってもこれでは心もとない。
「そうかい、コロンに会ったらよろしく言っといてよ」
「わかりました」
デボラさんと別れると俺たちはギルドに向けてなおも歩く。
「そういえばプルセラ王女何かあったんですか?」
「何かというのはどういうことでしょうか?」
「いや、前は仮病を使ってまで王族の行事を欠席してたのに最近は顔を出してるみたいじゃないですか」
「そのことですか。う~ん、そうですね……スタンス様にならお話してもいいでしょう」
ジュエル王女はそう言って続けた。
「プルセラはある貴族の殿方に一目惚れしてしまったようなのです」
「えっ!? プルセラ王女が一目惚れですかっ!?」
「その反応は信じられないといったご様子ですね」
「はい、正直信じられません」
プルセラ王女は色気より食い気の人だと思っていた。
その王女がまさか男に一目惚れとは……。
しかも相手が貴族なんて。
「お目当ての殿方見たさに王族や貴族のパーティーに顔を出しているのでしょうね」
「はあ……」
「あの子は素直ですから隠しているようでも周りには筒抜けなのです」
「じゃあ相手にも?」
「ええ、おそらく」
うわ~、それは恥ずかしいな。
そうこうしているとギルドに着いた。
「今の話プルセラには内緒にしておいてくださいね」
「もちろんです」
俺だってそこまで野暮じゃない。
陰からそっと応援してやるさ。
ギルドのドアを開けると「ようこそいらっしゃいませっ」と明るい声が飛んでくる。
声の主はもちろんコロンだ。
「おはようございま……ふぇぇっ!? ジ、ジュエル様っ!?」
コロンは飛び上がらんばかりの勢いで驚きの声を上げた。
何度かジュエル王女とともにギルドを訪れているのだが未だにコロンはジュエル王女を見るとこの調子だ。
さすがにいい加減慣れてほしい。
「おはようございます、コロンさん」
「お、お、お、おはようございましゅっ」
「コロン、落ち着け」
「は、はい、すみませんっ」
コロンは髪形を整えると俺に向き直る。
「ところで新しい依頼は来てるか?」
「あっそうなんです! 喜んでください、依頼来てるんですよっ」
「本当かっ?」
「はいっ。わたしいつも営業頑張ってますから、えへへ~」
締まりのない顔になるコロン。
「コロンさん、それは一体どのような依頼なのですか?」
「あっ、え、え、えーっとですね……それはその……うーんと……」
コロンはジュエル王女の問いかけにまたもテンパり出す。
ちょっとジュエル王女どっか行っててくれないかな。
「こ、こ、これですっ」
コロンは依頼書を手に取り俺たちに見せてくれた。
「えーっと、なになに……紅蓮の牙、討伐隊?」
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