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第107話 最後の夜
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俺とメタムンは【魔物島】の中央部から離れ、出現モンスターが弱く、数も少ない地域に移動した。
そしてそこで俺とメタムンはレベル上げなど忘れて毎日を遊んで暮らした。
時には魚釣りをしたり、時にはかくれんぼをしたり、時には木の実をどちらが多く集められるかを競争したり。
そんな些細な楽しみを噛みしめながら俺たちは残された日々を過ごした。
メタムンは常に笑っていた。
だから俺もそれに負けじと極力笑顔でいるよう努めた。
だが別れの日は刻一刻と近付いてきていた。
チャットを見るとほとんどの学生たち、教授たちは待ち合わせ場所にすでに集まっているようだった。
俺たちもそれを受けて集合場所へと歩みを進める。
一秒でも時間が惜しいかのように、メタムンはその間もずっと俺に話しかけてきていた。
俺もまたメタムンとの時間を心ゆくまで楽しんだ。
そして――集合の日を明日に控え、俺とメタムンは最後の夜を満天の星空を見上げながら過ごしていた。
これまでが嘘のように俺とメタムンの間に会話はなく、静かな時間が流れていく。
俺が腰かけている岩の端っこにちょこんと鎮座するメタムン。
何を考えているのかわからない表情で星空を眺めている。
「……メタムン、俺たちがこの島を出ていったあと、メタムンはどうするんだ?」
メタムンの顔は見ずに問いかけてみた。
『うーん、どうだろ。わかんないや』
「……そっか……」
すると流れ星が一つ、夜空に輝いて消えた。
「……なあ、メタムン」
『なあに、善』
「……俺と一緒に、日本に来ないか?」
『……』
俺は意を決して口にしてみたが、メタムンは何も答えない。
「転移装置を使う時、俺がメタムンを抱いていればもしかしたら一緒に日本に帰れるかもしれないだろ」
……。
転移装置は起動時に半径百メートル以内の者を戸籍に書いてある住所に転移させるアイテムだ。
メタムンに戸籍などないからメタムンが日本に転移することなどないとは思うが、俺と一緒ならば可能性はゼロではない……かもしれない。
『……駄目だよ』
メタムンがやっと口を開いた。
「駄目って、何が? どうして?」
『おいらはモンスターなんだから、善の住んでいる場所においらが行ったらパニックになっちゃうよ』
「そ、そんなの大丈夫だって。メタムンは悪いモンスターじゃないし、人間に危害を加えるわけでもないだろっ。そ、それに俺が周りの人たちには上手く説明するからさっ」
『口下手な善が? そんなの無理無理っ』
メタムンは俺の提案を一笑に付す。
「そ、そんなのやってみなきゃ――」
『いいんだよ善。おいらはこの【魔物島】生まれのモンスターなんだ。だからおいらはずっとここに居続けるよ』
「そんな……だ、だったら俺だけは明日帰らないで、アスドムが使えるようになるまでレベルを上げるよっ。それから俺と一緒に日本に――」
『善。おいらたちはここでお別れなんだ。わかってよ』
「……っ」
当初はずっと一緒にいたいと言っていたのはメタムンだったのに、いつの間にかそのことで駄々をこねていたのは俺の方だった。
メタムンのなんとも言えない悲しげな表情で俺はそれを気付かされる。
……情けない。
いくらレベルが高くなっていようが、俺はこの島に来た時から何も成長していない。
大事な友達の考えていることさえわからないのだから。
「……う、うん、そうだな。うん、わかった……俺は明日、日本に帰るよ。それでメタムンとはお別れだ」
『うん、そうだよ善』
「……ああ」
俺は涙が込み上げて来そうになるのをこらえるため、星を見るふりをして真上を向いた。
そんな俺に気付くことなくメタムンは、
『ちょっと涼しくなってきたね……もう寝ようか』
俺とは反対の方を向いて眠りにつくのだった。
そしてそこで俺とメタムンはレベル上げなど忘れて毎日を遊んで暮らした。
時には魚釣りをしたり、時にはかくれんぼをしたり、時には木の実をどちらが多く集められるかを競争したり。
そんな些細な楽しみを噛みしめながら俺たちは残された日々を過ごした。
メタムンは常に笑っていた。
だから俺もそれに負けじと極力笑顔でいるよう努めた。
だが別れの日は刻一刻と近付いてきていた。
チャットを見るとほとんどの学生たち、教授たちは待ち合わせ場所にすでに集まっているようだった。
俺たちもそれを受けて集合場所へと歩みを進める。
一秒でも時間が惜しいかのように、メタムンはその間もずっと俺に話しかけてきていた。
俺もまたメタムンとの時間を心ゆくまで楽しんだ。
そして――集合の日を明日に控え、俺とメタムンは最後の夜を満天の星空を見上げながら過ごしていた。
これまでが嘘のように俺とメタムンの間に会話はなく、静かな時間が流れていく。
俺が腰かけている岩の端っこにちょこんと鎮座するメタムン。
何を考えているのかわからない表情で星空を眺めている。
「……メタムン、俺たちがこの島を出ていったあと、メタムンはどうするんだ?」
メタムンの顔は見ずに問いかけてみた。
『うーん、どうだろ。わかんないや』
「……そっか……」
すると流れ星が一つ、夜空に輝いて消えた。
「……なあ、メタムン」
『なあに、善』
「……俺と一緒に、日本に来ないか?」
『……』
俺は意を決して口にしてみたが、メタムンは何も答えない。
「転移装置を使う時、俺がメタムンを抱いていればもしかしたら一緒に日本に帰れるかもしれないだろ」
……。
転移装置は起動時に半径百メートル以内の者を戸籍に書いてある住所に転移させるアイテムだ。
メタムンに戸籍などないからメタムンが日本に転移することなどないとは思うが、俺と一緒ならば可能性はゼロではない……かもしれない。
『……駄目だよ』
メタムンがやっと口を開いた。
「駄目って、何が? どうして?」
『おいらはモンスターなんだから、善の住んでいる場所においらが行ったらパニックになっちゃうよ』
「そ、そんなの大丈夫だって。メタムンは悪いモンスターじゃないし、人間に危害を加えるわけでもないだろっ。そ、それに俺が周りの人たちには上手く説明するからさっ」
『口下手な善が? そんなの無理無理っ』
メタムンは俺の提案を一笑に付す。
「そ、そんなのやってみなきゃ――」
『いいんだよ善。おいらはこの【魔物島】生まれのモンスターなんだ。だからおいらはずっとここに居続けるよ』
「そんな……だ、だったら俺だけは明日帰らないで、アスドムが使えるようになるまでレベルを上げるよっ。それから俺と一緒に日本に――」
『善。おいらたちはここでお別れなんだ。わかってよ』
「……っ」
当初はずっと一緒にいたいと言っていたのはメタムンだったのに、いつの間にかそのことで駄々をこねていたのは俺の方だった。
メタムンのなんとも言えない悲しげな表情で俺はそれを気付かされる。
……情けない。
いくらレベルが高くなっていようが、俺はこの島に来た時から何も成長していない。
大事な友達の考えていることさえわからないのだから。
「……う、うん、そうだな。うん、わかった……俺は明日、日本に帰るよ。それでメタムンとはお別れだ」
『うん、そうだよ善』
「……ああ」
俺は涙が込み上げて来そうになるのをこらえるため、星を見るふりをして真上を向いた。
そんな俺に気付くことなくメタムンは、
『ちょっと涼しくなってきたね……もう寝ようか』
俺とは反対の方を向いて眠りにつくのだった。
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