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第96話 三月十四日

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千代丸さんが忍びの里に帰ってから一ヵ月と少し経った頃、俺はエルメスの部屋に呼び出されていた。
アテナを連れて……というか勝手にくっついて来たのだが、一緒にエルメスの部屋に出向く。
ノックをしてからドアを開けるとそこにいたのはエルメスだけではなかった。

エルメスはもちろんだが国王やミア、テスタロッサまでがそろっていた。

「何ぼーっと突っ立ってるのよ、さっさと座ったら」
いつも通りのつっけんどんな態度で俺を椅子に座るよう促すテスタロッサ。
こいつ一応俺のフィアンセだよな。

俺は部屋中央のみんなが集まっているテーブルの席に腰を下ろした。
隣にアテナも腰掛ける。
テーブルの上にはワイングラスとケーキが置かれていた。

「よく来たな王子よ。待っておったぞ」
国王が俺の肩に手を置く。
「はあ、待たせたならすいません」

ミアの方にも向いて、
「遅くなって悪かったな」
「いえ、全然っ。わたしも今来たところですからっ」
恐縮したように手を胸の前で振るミア。

「あたしはだいぶ待ったけどね!」
テスタロッサは「ふんっ」と腕組みをしながら機嫌の悪さを隠そうともしない。なんだか顔がちょっと赤い。

「いや、すまん……ところでこれはなんの集まりなんだ?」
「エルメスに訊いたら?」
あー、うん。エルメスに訊いたつもりだったんだけど……。

エルメスがワイングラス片手に、
「カズン王子、今日は三月十四日です」
「ああ、そうだな」
「……」
「それがどうかしたのか?」

俺の言葉にアテナを除いたみんなが一様に怪訝な顔をする。

「え、本当にわからないんですか?」
悲しそうな表情で俺に顔を近寄せるミア。
わからないって何をだ?
三月十四日だろう……あっ。

「今日はカズン様の、いえユウキくんの誕生日です」

……そうだった。
今日は俺、秋月勇気の誕生日だった。
半年近くカズン王子の振りをしていたからすっかり頭から抜け落ちていた。

「バカなの? ねぇあんたはバカなの? ミアたちが何日も前からあんたのためにわざわざ今日のこの誕生日会を計画してたのに当の本人は忘れてたってわけ? ウケる~」
「そなたにながらく王子の振りをさせてしまっているわしの責任でもあるのう」
テスタロッサは腹を抱えて笑い、国王は哀れな者を見るように俺をみつめている。

「いや、ちょっと忘れてただけですからそんな目で見ないでくださいよ」
「いいや、わしのせいじゃ」
「ミアも悪かったな。覚えていてくれてありがとう」
「いえ、気にしないでください。それより今日だけは王子という立場は忘れてユウキくんに戻ってくださいね」
優しい顔でミアが微笑む。

「よし、決めたぞい。今日は無礼講じゃ!」
バンとテーブルをたたき、急に国王が立ち上がる。
やめてくれ、びっくりするだろ。
「わしにも王子にもテスタロッサちゃんにも敬語はなしじゃ。みなフランクに語り合おうじゃないか」

無礼講か……。
バイト時代にその言葉を信じて飲みの席でえらい目に遭ったことがあるからあまりいい思い出がないんだよな。

しかしエルメスは、
「いいわねそれ、そうしよ~!」
ワイングラスを高々と掲げた。
エルメスはもう出来上がっていた。

「おー!」
と紅潮した顔のテスタロッサも続く。
どうやらあまり酒に強くはないらしい。

ミアも控えめにワイングラスを上げた。

「さあさあ、そなたも存分に飲むがよいっ」
国王が俺にワイングラスを持たせ、そこにワインを注ぐ。
「ほれ一気に飲め飲めっ」
「ユウキ、場をしらけさせちゃだめよっ」
「もっと一気に飲みなさいよね!」
「ユウキくん、あまり無理はしないでくだ……しないでね」

そこから俺は普段あまり飲まないワインをたらふく飲まされた。
これがもといた世界ならハラスメントで問題になっていてもおかしくないが、ここにはそんなものはない。
俺はワインを注がれるたびにそれを飲み干していった。

「ユウキ、男らしいわよっ」
「その調子じゃユウキよ。ほっほっほ」
「大丈夫? ユウキくん」
「ユウキ~、あんらももっと飲みらさいよっ」

俺は途中から記憶が薄れていっていた。が、とある者の声で我に返ることになる。
それは、

「あの~、ユウキ……って誰ですか?」

急に声がしてみんながドアの方を振り向く。

そこにはエルメス曰く間の悪いカルチェが不思議そうな顔をして立っていた。
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