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第80話 カズン王子
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「最初に王子の亡き骸を発見したのはエルメスじゃった。その後すぐにわしのところに報告に来てくれたのじゃ」
「カズン王子がお風呂場で横になっていたので初めは寝ているのかと思ったんです。でも息をしていないことに気付いて……」
「わしはエルメスと相談しこのことは他言無用と決めたのじゃ。そして人目につかないようわしとエルメスとで埋葬を済ませた」
「なんでそんな大事なこと黙ってたわけ? お風呂場でってことは事故死とか病死とかだったんでしょ」
テスタロッサが訊く。
「……いえ、それが黙っていた理由でもあるのですが……実はカズン王子には外傷などは全くなく病歴も一切ありませんでした」
エルメスは続けて、
「私には医学の心得が少しあります。これは私見ですが……カズン王子は毒殺されたのではないかと考えています」
毒殺だって?
「黙っていたのは王子を殺した犯人をあぶりだすためだったのじゃ。殺したはずの王子が生きているとなればまた何か仕掛けてくるじゃろうとな。じゃがお主がこのことを知ったら逃げ出してしまうかもしれん。そこでわしとエルメスで話を合わせたというわけじゃ……すまなかった。この通りじゃ」
「申し訳ありませんでした」
国王とエルメスが俺に向かって深く頭を下げた。
「そんなっ。カズン様をいつ命を狙われるかわからない危険な状況に置いていたってことですかっ! 半年間もっ!」
ミアが椅子から立ち上がり声を大にする。
「その通りじゃ」
国王がミアを見据える。
「なんで今になって話す気になったんですか?」
俺は率直に気になった。
「お主がいい奴だからじゃよ。黙っているのが忍びなくなったのじゃ」
国王が答える。
「今のカズン王子は……つまりあなたは私たちにとてもよくしてくれています。だから真実を話そうと決めたんです」
とエルメス。
「ねぇ……それで犯人はみつかったの?」
テスタロッサが割って入る。
「いえ、まだです」
「じゃが城内の者なのは間違いないじゃろう」
「それってわたしたちも疑われているってことですか?」
涙目のミア。
「いいえ、その逆よ。ミアならやろうと思えばこの半年の間いつでも料理に毒を仕込むことは出来たでしょうし、テスタロッサ様はあの時エスタナにいたはずですから」
「アテナちゃんも同じ理由で除外じゃ」
「ってことは犯人はこの城にいる兵士か衛兵か大臣かメイドの中にいるってことか?」
「私たちはそう考えています」
「そうじゃな」
うなづくエルメスと国王。
「それよりお主はこれからどうしたい? この城を出たければ出てもよいし、本名を名乗りたければ名乗ってもよい。もうお主の自由じゃ」
うーん、いきなりそんなこと言われてもなぁ……。
「もうカズン様の振りする必要なんてないですよ」とミアが身を乗り出してくる。
「どうするのよあんた、まだカズンでいるつもりなの?」
テスタロッサが俺の前に立つ。
「どうするって……どうしようか?」
「あたしに訊いてどうすんのよ」
「お主さえよければ金の工面はするぞ」
国王が言う。
でもなぁ……犯人は野放しなんだろ。
だったらこの城には俺がまだ必要なんじゃないのか……。
それにコミュ障の俺にもせっかく仲間らしい仲間が出来たんだし……。
「……お腹すいた」
くいくいっと俺の服を引っ張るアテナ。
「そっか、じゃあ部屋に戻って何か食べるか?」
「……うん」
国王の部屋を出ていこうとすると、
「ちょっと。話がまだ途中でしょっ」
テスタロッサが止める。
「俺は当分カズンでいいよ。それにお前もフィアンセが突然いなくなったら困るだろ」
「はぁ? バッカじゃない」
「このままでいいんですか?」
「ああ、これからもよろしく頼むミア。エルメスもな」
俺は唖然とする国王とミアとエルメスをそのままにしてアテナと二人、部屋をあとにした。
今度からは何か食べる前に一応スズに毒見でもしてもらうかな。
あいつ毒が効かないって言ってたし。
「カズン王子がお風呂場で横になっていたので初めは寝ているのかと思ったんです。でも息をしていないことに気付いて……」
「わしはエルメスと相談しこのことは他言無用と決めたのじゃ。そして人目につかないようわしとエルメスとで埋葬を済ませた」
「なんでそんな大事なこと黙ってたわけ? お風呂場でってことは事故死とか病死とかだったんでしょ」
テスタロッサが訊く。
「……いえ、それが黙っていた理由でもあるのですが……実はカズン王子には外傷などは全くなく病歴も一切ありませんでした」
エルメスは続けて、
「私には医学の心得が少しあります。これは私見ですが……カズン王子は毒殺されたのではないかと考えています」
毒殺だって?
「黙っていたのは王子を殺した犯人をあぶりだすためだったのじゃ。殺したはずの王子が生きているとなればまた何か仕掛けてくるじゃろうとな。じゃがお主がこのことを知ったら逃げ出してしまうかもしれん。そこでわしとエルメスで話を合わせたというわけじゃ……すまなかった。この通りじゃ」
「申し訳ありませんでした」
国王とエルメスが俺に向かって深く頭を下げた。
「そんなっ。カズン様をいつ命を狙われるかわからない危険な状況に置いていたってことですかっ! 半年間もっ!」
ミアが椅子から立ち上がり声を大にする。
「その通りじゃ」
国王がミアを見据える。
「なんで今になって話す気になったんですか?」
俺は率直に気になった。
「お主がいい奴だからじゃよ。黙っているのが忍びなくなったのじゃ」
国王が答える。
「今のカズン王子は……つまりあなたは私たちにとてもよくしてくれています。だから真実を話そうと決めたんです」
とエルメス。
「ねぇ……それで犯人はみつかったの?」
テスタロッサが割って入る。
「いえ、まだです」
「じゃが城内の者なのは間違いないじゃろう」
「それってわたしたちも疑われているってことですか?」
涙目のミア。
「いいえ、その逆よ。ミアならやろうと思えばこの半年の間いつでも料理に毒を仕込むことは出来たでしょうし、テスタロッサ様はあの時エスタナにいたはずですから」
「アテナちゃんも同じ理由で除外じゃ」
「ってことは犯人はこの城にいる兵士か衛兵か大臣かメイドの中にいるってことか?」
「私たちはそう考えています」
「そうじゃな」
うなづくエルメスと国王。
「それよりお主はこれからどうしたい? この城を出たければ出てもよいし、本名を名乗りたければ名乗ってもよい。もうお主の自由じゃ」
うーん、いきなりそんなこと言われてもなぁ……。
「もうカズン様の振りする必要なんてないですよ」とミアが身を乗り出してくる。
「どうするのよあんた、まだカズンでいるつもりなの?」
テスタロッサが俺の前に立つ。
「どうするって……どうしようか?」
「あたしに訊いてどうすんのよ」
「お主さえよければ金の工面はするぞ」
国王が言う。
でもなぁ……犯人は野放しなんだろ。
だったらこの城には俺がまだ必要なんじゃないのか……。
それにコミュ障の俺にもせっかく仲間らしい仲間が出来たんだし……。
「……お腹すいた」
くいくいっと俺の服を引っ張るアテナ。
「そっか、じゃあ部屋に戻って何か食べるか?」
「……うん」
国王の部屋を出ていこうとすると、
「ちょっと。話がまだ途中でしょっ」
テスタロッサが止める。
「俺は当分カズンでいいよ。それにお前もフィアンセが突然いなくなったら困るだろ」
「はぁ? バッカじゃない」
「このままでいいんですか?」
「ああ、これからもよろしく頼むミア。エルメスもな」
俺は唖然とする国王とミアとエルメスをそのままにしてアテナと二人、部屋をあとにした。
今度からは何か食べる前に一応スズに毒見でもしてもらうかな。
あいつ毒が効かないって言ってたし。
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