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第39話 予選開始

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「お集りのみなさま。今日は待ちに待った武道大会です。イリタール国全土から我こそはという強者たちがこの地に集結しております。厳正なる予選の上、本選出場者たちの熱い闘いをみなさまにはご覧になっていただきたいと思います。それでは別会場にて今から予選が始まりますのでみなさまには今しばらくお待ちいただきたいと思います!」

城の中庭の闘技場の上で男性の司会者がマイクを使ってアナウンスをする。

「外は外で盛り上がってるっぽいな」
ここまでアナウンスが届いてくる。

俺はというと予選が行われる城内の武道場に来ていた。
周りには屈強な男たちがわんさといる。
その中にはダンやパネーナの姿もあった。

二人は俺を見つけて近寄ってくる。
「やあ、カズン王子。ご機嫌いかがかな?」
「よお、王子。あんたも出るのか、まあ当然と言やあ当然か。あんだけ強いんだもんな」
二人も出るのか。

ダンが華麗に一回転して俺を指差す。
「今度は負けないよ。そしてテスタロッサはボクのものになるのさっ」
まだ諦めてなかったのかこいつ。

「おれも負けるつもりはないぜ!」
パネーナが俺の胸をポンと叩く。
「ああ、とりあえず決勝に行けるように頑張ろう」

予選参加者の中には女性の姿もあり、カルチェやスズもその中にいた。

「あいつらも出るのか」

俺と目が合うと二人とも礼儀正しくお辞儀をした。
あいつらの願い事ってなんだろうな。

「予選参加者のみなさん、お待たせしました。それではさっそく予選を始めましょう!」
さっきまで中庭の闘技場にいた司会者が俺たちのいる武道場にやってきた。

「予選第一種目目はパンチングマシンです。こちらのこの部分を殴るとその強さに応じて電光掲示板に数値が表示されます。数値が百五十に満たない方はそこで失格です。わかりましたね。では順番に並んでください」

予選参加者たちが列を作る。
俺は出遅れたので最後の方になってしまった。

ドンという音が聞こえたと思ったら電光掲示板に【186】と表示された。

「はい、合格です。次の方」
アナウンスが聞こえてくる。
するとパネーナが俺の横を通り過ぎていく。
「よお王子。おれは合格したぜ。あんたも落ちるなよ」
さっきの【186】はパネーナだったのか。

それから次々と電光掲示板に数字が表示されていく。
【122】
「失格です。次の方」
【146】
「失格です。次の方」
【91】
「失格です。次の方」

失格者が相次いだ。
肩を落とした屈強な男たちが列の横を通り過ぎていく。
あんな力のありそうな奴らでも落ちるんだな。
俺のいた世界のパンチングマシンとは勝手が違うのかもしれないな。

すると、
「おおーっ」
とどよめきが起こる。

電光掲示板には【301】と表示されていた。
そして、
「やあ、カズン王子。ボクは余裕だったよ」
とダンが通り過ぎていった。

大体今のところ合格不合格は半々くらいだな。
ちなみにカルチェとスズも合格していった。

そろそろ俺の番かなという時、
「おおおーっ」
と武道場全体がどよめいた。

電光掲示板には【356】の数字が。

ダンよりすごい奴がいるのか?
見ているとスキンヘッドの男が列を通り過ぎていった。
あいつか。

俺が見送っていると、
「……次の方、次の方どうぞ」
「バ……王子。番ですよ」
「ああ、悪い」
俺の番が来ていた。

全力でやるとこの機械壊れそうだなぁ。
手加減するか。

俺は五割くらいの力でパンチングマシンを殴った。

ドゴン!

あれだけ騒がしかった武道場がシーンと静かになった。

電光掲示板には【1506】と表示されていた。

「ご、合格? いや、ちょっと待ってくださいね。こ、故障したかな……」

司会者が取り乱す。周りにいた兵士数名と話し合っている。

「おい、王子相手だからってやりすぎだろ!」
ヤジが飛ぶ。
「接待するにしてももっと上手くやれよっ」
笑い声が武道場を覆った。

さっきまで黙っていた参加者たちも「なんだ王子だからか」と納得した様子。
俺は不正なんてしていないのに。疑われるのは腹が立つな。

司会者が戻ってきた。
「王子、もう一回お願いします」
「ああ」
今のでも力入れすぎだったか。よし、今度はもっと力を抜いてと。

ドン

【151】

「はい、合格です。次の方」

あぶねー。
俺はギリギリ合格した。


予選二種目目、三種目目も俺はほどよい力加減でなんとかギリギリ合格していった。そして最終種目の垂直跳びがたった今終了した。

「では垂直跳びの結果で本選に出場出来る上位八名を発表したいと思います。一人目はスズさん。二人目はダンさん。三人目はヴォルコフさん、四人目はパネーナさん、五人目はカルチェさん、六人目はナターシャさん、七人目はカズン王子、八人目はロフトさんです」

司会者は続けて、
「以上のみなさんは一時間後に中庭の闘技場に集まってください。それまではお好きにお過ごしください」

「おい、王子様残っちゃったぜ」
「不正だろ、不正」
「でも最後の垂直跳びは不正もくそもないだろ」
予選に落ちた参加者たちが口々に言う。

あ~疲れた。
ギリギリを狙うのも苦労する。

「お疲れ様です、カズン王子様」
カルチェが話しかけてきた。
「ああ、カルチェもな」
「カズン王子様なら残られると思っていました」
「ありがとう。ギリギリだったけどな」

「それは手加減していたからではないですか?」
背後からスズの声がした。
振り向くとスズが顔を膨らませていた。
「カズンどののことを不正とののしる輩は拙者が退治すると言いましたのに」

スズは俺のことを不正だと言っている奴に手を出そうとしていたところを俺が止めたから怒っているのかもな。

「言いたい奴には言わせておけばいいさ」
「さすが、カズン王子様です。尊敬いたします」
と羨望のまなざしで見てくるカルチェ。
「いや、別に普通だぞ」
「いえいえ、なかなか言えることではありません」

「それにしてもエルメスは出なかったんだな」
俺は気になっていたことを妹のカルチェに訊いた。
「あいつも魔術かなんかで闘えるんだろ?」
「姉さんが関わるとろくなことがないからいない方がいいんですよ」
とカルチェ。

うーん、この大会の発案者はエルメスなんだけどなぁ。
思いっきり関わっているぞ。

「カズンどの、拙者お腹がすきました。一足先に失礼します」
と言うが早いかスズは風のように去っていった。

「……あの子は何者なのですか? ただのメイドとは思えない動きでしたが」
「俺が拾ったくのいちだ」
「拾った? くのいち?」
はてなマークが浮かぶカルチェを尻目に俺はヴォルコフという名のスキンヘッドの男を見ていた。
なぜならあいつも俺と同じように手を抜いていたように見えたからだ。
俺の気のせいかもしれないが。
あいつはもしかしたらダン以上の存在かもしれない。
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