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第21話 家庭菜園

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俺はもとの世界にいた時、趣味にしていたことが筋トレともう一つある。
それは家庭菜園だ。
家の庭に一から畑を作りいろいろなものを植えて育てていた。
父親に言われて始めたことだがだんだんとその面白さにはまっていった。

俺はこの世界でもニート同然の生活をしている。王子なんてやる仕事が全然ないんだ。
だからせめて野菜でも作って少しは誰かの役に立ちたいという思いが遅ればせながら芽生えてきた。
都合よく城の庭は広く、あまり雑草のない場所もある。

そういうわけで俺は今、町にクワと肥料と石灰と種を買いに来ている。
以前ミアやカルチェと町に来たことがあるからだいたいどこにどんな店があるかは把握できている。
俺は刃物を扱っている鍛冶屋のような店に狙いを定めている。
そこならきっとクワがあるだろう。

「ホームセンターみたいな大きな店があれば一番いいんだけど」


「……らっしゃい」

町の西側にあった鍛冶屋に入ると不愛想な職人さんっぽい人が剣を研いでいた。

「あの、クワってありますか?」
「……奥にあるよ」

そう言って席を立つ職人さん。
持ってきてくれるのか。

「……銀貨一枚だよ」
「はい、じゃあこれ」

銀貨を受け取るとまた剣を研ぎ始めた。
不愛想だったがいやにベタベタしてくる店員さんよりはよっぽど気が楽だ。
ここにはあとでまた来よう。

次は肥料とか種か。
「花屋に行けばそろうかな」

花屋に着くと店の前にはおばさまの行列が出来ていた。
花屋に行列なんてめずらしいな。

行列の先を覗き込むとそこには花屋のエプロンをつけたダンがいた。
テスタロッサの国の騎士団長だろ。何やってんだあいつ。

俺はいつもの通り帽子とサングラスで変装しているがバレないように帽子をさらに深く被った。

花を買い行列を通り過ぎていくおばさまたちが口々に「かっこいいわねー」とか「あと二十歳若かったら」とか言っている。

そして俺の番が来た。

「やあ、いらっしゃい。何をご所望ですか?」
大袈裟な身振り手振りで挨拶するダン。
よかった。俺だとバレてない。

「えと、大根とほうれん草の種と肥料と石灰ください」
「はい、ただいま」

そう言ってダンは店の奥に入っていく。
こういうふうに一人一人接客しているから行列が出来てるんじゃないのか。

「はい、どうぞ」

戻ってきたダンに気になることを訊いてみた。
声色を変えて、

「あなたって騎士団長さんですよね。どうして花屋で働いているんですか?」
「おお、ありがとう。ボクのことを知ってくれているなんて嬉しいよ」
両手で手を握られた。

「ああ、どうも」
「ボクはね、この国の王子に決闘で負けてしまったのさ。いや、男としても負けたのさ。だからしばらくこの国にいてカズン王子のことを調べようと思ってね」
うわ~面倒くさい奴。

「そうだったんですか。じゃあどうも――」
「でもカズン王子について町のみんなに訊いてもあまりいい情報は得られないんだ。だから……」
この後も長々と話は続き、後ろに並ぶおばさまたちの舌打ちが聞こえてきた頃やっと解放してもらえた。

俺は大根とほうれん草の種とクワと肥料と石灰を両手に持って城に帰ると城の物置に一旦置いて、クワだけを持って城の隅の庭に立った。
すると、

「おーい、そんなとこで何やってんだ王子」

遠くの方で俺を呼ぶ声がする。
振り向くと兵士たちが庭を走っていた。
その兵士たちの中から一人が抜け出てくる。
あいつは……パネーナだ。

兵士の中でもとりわけ俺に馴れ馴れしい奴だ。だが悪い奴ではない。
近寄ってきたパネーナが俺の肩に手を置く。

「クワなんか持って何してんだ?」
「野菜を作ろうかと思ってさ」
「野菜を? 王子自ら?」
「ああ」

一瞬の間があって。
「はっはっはっ。やっぱ変わってるよあんたは。でもそういうとこ嫌いじゃないぜ」
俺の肩をばしばし叩く。

「おいっ、何してる! 訓練に戻れ!」

兵士長のカルチェに怒られて「いけねっ」と走っている兵士の列に戻っていくパネーナ。
カルチェは俺と目が合うと少しだけ微笑み会釈をした。

俺はクワを両手で持ち、
「さーて、やるか」
庭を耕し始めた。
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