上 下
63 / 67

第63話 新世界

しおりを挟む
「スキル、重力操作っ!」

グルム大総統が口にした途端、僕の体が急激に重くなる。

「ぅおっ!? なんだこれっ……」
「げはははっ! これでもうお前は動けないぞ、なんせお前の周りの重力を最大出力の百倍にしたからなぁっ! さあ、潰れろ潰れろっ!」
勝ち誇った笑みを浮かべるグルム大総統。
だがその笑みは次の瞬間脆くも崩れ去る。

「なんだ本気出してこれか……だったら問題ないよ」
「なっ!? お、お前なんで動けるんだっ……!」

僕は百倍になった重力の中を突き進んでいく。
そして、
「ひ、ひいぃぃっ……!」
逃げ出そうとしていたグルム大総統の首根っこを掴んだ。

「た、助けてくれっ、見逃してくれぇっ……!!」
「あんたは自国民を大量大虐殺した。それを世界評議会は決して捨て置けないそうだ」
「お、お前、世界評議会の回し者かっ……!」
「僕個人としてはあんたに恨みはないけど死んでもらうよ」
「ま、待ってく――ぐげっ……!」
僕は掴んでいた首を一気にねじ曲げるとグルム大総統を絶命させた。
グルム大総統の頭部がだらんと垂れる。

すると、
『終わったようですね。それでは次はスウィッシュ共和国のマラッカ元帥を殺していただけますか』
僕の耳にラウールさんの声が届いてきた。

「はぁ~、人使いが荒いですね」
『マラッカ元帥は自国の若く美しい女性を無理矢理自分の妻とするために、兵士に命令して誘拐を繰り返しています。現在その被害女性の数は数千人に上っています。わたくしたちはそのような状況を良しとしません。クロノ様はどうお感じになりますか?』
少し責めるような口調で訊ねてくるラウールさん。

「わかりましたよ。僕もそういう人間はこの世からいなくなったほうがいいと思います。だからやりますよ」
『ありがとうございます。それではお気をつけて』
ラウールさんがそう言うと通信が一方的に切られた。

「さてと……じゃあ行くか」
僕はグルム大総統を投げ捨てるとスウィッシュ共和国目指して再び歩みを進めるのだった。


☆ ☆ ☆


僕は世界評議会の言いつけ通り世界中の凶悪な独裁者を殺して回っていた。
それによりSランク冒険者のジャック・フラッシュという名前だけが世界中にどんどん知れ渡っていった。
そしていつの間にか世界の独裁者たちからは恐怖の対象としておそれられる一方、虐げられている者たちからは救世主としてあがめられる存在となっていた。

『すでに二十人以上の独裁国家の要人を手にかけている現在、クロノ様つまりジャック・フラッシュは世界にとって必要悪となっています』
とはラウールさんの言葉だ。

僕は期せずして世界一の有名人となってしまっていた。


☆ ☆ ☆


「ぐあああぁぁっ……!」

スウィッシュ共和国のマラッカ元帥の断末魔の叫びを聞きながら、僕はマラッカ元帥の体から腕を引き抜く。
僕の腕から血がぽたぽたと滴り落ちていくがもちろん僕の血ではなくマラッカ元帥のものだ。

「ラウールさん終わりましたよ」
腕についた血を振り払いつつラウールさんに声をかけると、
『ご苦労様でしたクロノ様。それではクロノ様はセンダン村にお戻りになられて結構ですよ』
ラウールさんから思いがけない言葉が返ってきた。

「え、どういうことですか? もう独裁者はすべて始末し終わったんですか?」
『いえ、そうではないのですが、クロノ様つまりジャック・フラッシュにおそれをなした世界中の独裁者たちがここにきて急遽態度をあらため出したのです』
「え? というと……?」
『突然これまでの方針を一変させ国民に対し真摯に向き合う姿勢をとる者や国のリーダーの座から自ら進んで降りる者、中には自分の罪を認めて刑務所に入る者など様々ですが、皆一様にジャック・フラッシュに殺されることをおそれて行動し出したというわけです』
「へー……そうなんですか」
僕の行動が知らず知らずのうちに世界を変えていたということだろうか。

『おかげで世界からは凶悪な独裁者が姿を消しました。一時的なものかもしれませんのでしばらくは様子を見ますが、とりあえずジャック・フラッシュとしての活動はここまでというのが世界評議会の下した決定です』
「はあ、なるほど……わかりました。じゃあ僕はもうセンダン村に帰っていいんですね」
『はい。今まで大変お世話になりました。迎えの馬車を用意してありますのでご自由に使ってください』

ラウールさんとの会話を終えると馬車がタイミングよく僕のもとへとやってきた。
御者の男性が「どうぞ乗ってください」とやけに小さな声で言ってくる。

僕はその男性に軽く会釈をしてからその馬車へと乗り込んだ。
と次の瞬間だった。

ドゴオオォォーン!!

僕が馬車のドアを閉めた直後僕の足元にあった箱が大爆発を起こしたのだった。

馬車の残骸がぱらぱらと空から降ってくる中、逃げおおせていた御者の男性が地面に仰向けになって倒れている僕に向かって言葉を投げかけてくる。

「ふっ、本当にご苦労様でした。あなたの役割はこれにて終了です」

その声には聞き覚えがあった。
僕は爆発の衝撃を受けながらも目をゆっくりと開ける。

「!?」

するとそこにはラウールさんが立っていて、涼しい顔で僕を見下ろしていたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

ハズレスキルがぶっ壊れなんだが? ~俺の才能に気付いて今さら戻って来いと言われてもな~

島風
ファンタジー
とある貴族の次男として生まれたアルベルトは魔法の才能がないと蔑まれ、冷遇されていた。 そして、16歳のときに女神より贈られる天恵、才能魔法 が『出来損ない』だと判明し、家を追放されてしまう。 「この出来損ない! 貴様は追放だ!!」と実家を追放されるのだが……『お前らの方が困ると思うのだが』構わない、実家に戻るくらいなら辺境の地でたくましく生き抜ぬこう。 冷静に生きるアルだった……が、彼のハズレスキルはぶっ壊れだった。。 そして唯一の救いだった幼馴染を救い、大活躍するアルを尻目に没落していく実家……やがて毎日もやしを食べて生活することになる。

魔力即時回復スキルでダンジョン攻略無双 〜規格外のスキルで爆速レベルアップ→超一流探索者も引くほど最強に〜

Josse.T
ファンタジー
悲運な貯金の溶かし方をした主人公・古谷浩二が100万円を溶かした代わりに手に入れたのは、ダンジョン内で魔力が無制限に即時回復するスキルだった。 せっかくなので、浩二はそれまで敬遠していたダンジョン探索で一攫千金を狙うことに。 その過程で浩二は、規格外のスキルで、世界トップレベルと言われていた探索者たちの度肝を抜くほど強くなっていく。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

Sランク冒険者を小指一本で倒せる俺、成り行きで《大邪神》まで倒すことになっちゃいました。

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
黒岩蔵人、二十六歳はテレビ局でアシスタントディレクターとして忙しい日々を送っていた。 そんなある日ディレクターの指示で買い物に出かけたところ、黒岩はトラックに撥ねられて死んでしまう。だがそんな黒岩の前に神様が現れ、地球の十分の一の重力の異世界に生き返らせてやると言い黒岩は事実異世界に飛ばされた。 そこでは黒岩は最強超人だった!

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

処理中です...