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第38話 酒場
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僕は足元に転がる兵士の死体を見下ろしながらどうしたものかと思案する。
だが僕にとっては好都合なことに今度は銃声がしても兵士たちは集まってはこなかった。
また、通行人たちも関わり合いになりたくなかったのか、兵士の死体を見ても次々と素通りしていく。
僕はこれ幸いと兵士の死体を路地裏に隠すと平静を装いムーンバルトの城下町で宿屋探しを再開した。
しばらく歩いて宿屋をみつけた僕はとりあえずそこにチェックインする。
宿屋代は一泊銀貨三十枚とやや割高だったが文句を言ってもしょうがない、僕はお金を支払うと部屋に案内してもらった。
これで残りの所持金は金貨が三枚と銀貨が六枚だ。
少し休憩しようとも思ったがレオナルドを探す時間が惜しい。
そこで僕は町の人たちに手当たり次第話を訊いて回った。
だがレオナルドの情報は何も得られなかった。
町の人たちは何故か皆一様に口が重くなかなか会話が進まない。
僕は数時間かけて町中を歩き回ったが時間の無駄に終わってしまった。
辺りも暗くなってきて通行人の姿も少なくなってきたので、僕はひとまず宿屋に戻ろうと思い帰路につくと、その帰り道に酒場の看板がピンク色に光っているのが目に入った。
「ここにはまだ入っていなかったな……」
最後の望みを託し酒場に立ち寄る僕。
未成年なので酒場に入るのは初めてだったが特に注意されることもなく、それどころかむしろ「いらっしゃいっ」と威勢のいい声で歓迎された。
酒場の中は町の雰囲気とは一転してかなりにぎやかだった。
僕はまるで別世界に足を踏み入れてしまったかのような感覚に面食らいつつもカウンターに近付いていく。
「あの、すみません、訊きたいことがあるんですけど……」
「お客さん、その前に何か頼んでくださいよっ」
酒場の店員に人懐こい顔でそう言われ僕はミルクを注文した。
「はい、ミルクお待ちっ」
ものの十秒ほどでミルクの入ったグラスが出てくる。
僕はそれを手に持って口にしながら店員に訊ねた。
「あの、レオナルド王子を最近見かけましたか?」
「レオナルド王子? レオナルド王子が今この町にいるんですかいっ?」
「この町か城にいると思うんですけど……」
「いやあ、ちょっとわかりませんねぇ~」
店員は頭をかきながら申し訳なさそうに言う。
「そうですか」
「すいませんね~」
すると僕と店員の会話を耳にしていた隣のおじさんがおもむろに口を開いた。
「んあ、レオナルドだかなんだかっちゅう名前は知らねぇけどよ、えらくガタイのいい黒髪で短髪の若い男が兵士を五十人くらい連れて城から出てくるところは見たぜ」
顔全体を真っ赤にしたかなり出来上がっている様子のおじさんが僕に顔を向ける。
「本当ですかっ?」
「ああ、ほんとだぜ」
酔っ払いの証言ではあるが特徴からしてその若い男はレオナルドだろう。
僕は詳しく話を訊こうとそのおじさんに向き直った。
「それでその若い男はいつどこに行ったんですか?」
「んあ~、教えてやってもいいけどよ、その前に一杯酒おごってくれや兄ちゃん」
「あ、はい、わかりました……すみません、この方に同じものおかわりお願いします」
「はいよっ」
一杯のお酒をおごるだけでレオナルドの情報が得られるなら安いものだ。
僕は言われた通りにおじさんにお酒をおごってやる。
ごくごく……。
「ぷはぁ~っ……あ~うまいっ!」
おじさんは喉を鳴らして一気にお酒を飲み干すと歓喜の声を上げた。
そして、
「んじゃあ約束だからな、教えてやるぜ」
口元を手で拭いつつ僕に話し始める。
「その若い男を見たのはそうさなぁ~、確か一週間くらい前だったかな。沢山の兵士を従えてなんか偉そうに命令してやがってよ、いけ好かない奴だったぜ」
「城を出てどこに行ったかわかりますか?」
「う~んとな、ちょっと待てよ今思い出すからな……兵士の何人かがぼやいてたんだよなぁ~、なんで子ども一人にオレたちが駆り出されなきゃならないんだとか、あとは……占い師がどうのこうのって言ってたかもな」
「占い師?」
「ああ、間違いねぇよ。兵士たち、占い師って言ってたぜ」
占い師と聞いて僕が真っ先に思い浮かべたのはリンドブルグの町の占い師の老婆のことだった。
その占い師は【サーチ】というスキルで人探しが出来るのだ。
レオナルドはその占い師に会いに行ったのだろうか。
では何故?
……そんなの決まっている。
レオナルドは僕を殺すために兵を集めたのだ。
ならば僕の居場所を探すために違いない。
くしくも僕とレオナルドは相手を殺すという同じ目的のために行動し、入れ違いになってしまっていたというわけか。
だが僕にとっては好都合なことに今度は銃声がしても兵士たちは集まってはこなかった。
また、通行人たちも関わり合いになりたくなかったのか、兵士の死体を見ても次々と素通りしていく。
僕はこれ幸いと兵士の死体を路地裏に隠すと平静を装いムーンバルトの城下町で宿屋探しを再開した。
しばらく歩いて宿屋をみつけた僕はとりあえずそこにチェックインする。
宿屋代は一泊銀貨三十枚とやや割高だったが文句を言ってもしょうがない、僕はお金を支払うと部屋に案内してもらった。
これで残りの所持金は金貨が三枚と銀貨が六枚だ。
少し休憩しようとも思ったがレオナルドを探す時間が惜しい。
そこで僕は町の人たちに手当たり次第話を訊いて回った。
だがレオナルドの情報は何も得られなかった。
町の人たちは何故か皆一様に口が重くなかなか会話が進まない。
僕は数時間かけて町中を歩き回ったが時間の無駄に終わってしまった。
辺りも暗くなってきて通行人の姿も少なくなってきたので、僕はひとまず宿屋に戻ろうと思い帰路につくと、その帰り道に酒場の看板がピンク色に光っているのが目に入った。
「ここにはまだ入っていなかったな……」
最後の望みを託し酒場に立ち寄る僕。
未成年なので酒場に入るのは初めてだったが特に注意されることもなく、それどころかむしろ「いらっしゃいっ」と威勢のいい声で歓迎された。
酒場の中は町の雰囲気とは一転してかなりにぎやかだった。
僕はまるで別世界に足を踏み入れてしまったかのような感覚に面食らいつつもカウンターに近付いていく。
「あの、すみません、訊きたいことがあるんですけど……」
「お客さん、その前に何か頼んでくださいよっ」
酒場の店員に人懐こい顔でそう言われ僕はミルクを注文した。
「はい、ミルクお待ちっ」
ものの十秒ほどでミルクの入ったグラスが出てくる。
僕はそれを手に持って口にしながら店員に訊ねた。
「あの、レオナルド王子を最近見かけましたか?」
「レオナルド王子? レオナルド王子が今この町にいるんですかいっ?」
「この町か城にいると思うんですけど……」
「いやあ、ちょっとわかりませんねぇ~」
店員は頭をかきながら申し訳なさそうに言う。
「そうですか」
「すいませんね~」
すると僕と店員の会話を耳にしていた隣のおじさんがおもむろに口を開いた。
「んあ、レオナルドだかなんだかっちゅう名前は知らねぇけどよ、えらくガタイのいい黒髪で短髪の若い男が兵士を五十人くらい連れて城から出てくるところは見たぜ」
顔全体を真っ赤にしたかなり出来上がっている様子のおじさんが僕に顔を向ける。
「本当ですかっ?」
「ああ、ほんとだぜ」
酔っ払いの証言ではあるが特徴からしてその若い男はレオナルドだろう。
僕は詳しく話を訊こうとそのおじさんに向き直った。
「それでその若い男はいつどこに行ったんですか?」
「んあ~、教えてやってもいいけどよ、その前に一杯酒おごってくれや兄ちゃん」
「あ、はい、わかりました……すみません、この方に同じものおかわりお願いします」
「はいよっ」
一杯のお酒をおごるだけでレオナルドの情報が得られるなら安いものだ。
僕は言われた通りにおじさんにお酒をおごってやる。
ごくごく……。
「ぷはぁ~っ……あ~うまいっ!」
おじさんは喉を鳴らして一気にお酒を飲み干すと歓喜の声を上げた。
そして、
「んじゃあ約束だからな、教えてやるぜ」
口元を手で拭いつつ僕に話し始める。
「その若い男を見たのはそうさなぁ~、確か一週間くらい前だったかな。沢山の兵士を従えてなんか偉そうに命令してやがってよ、いけ好かない奴だったぜ」
「城を出てどこに行ったかわかりますか?」
「う~んとな、ちょっと待てよ今思い出すからな……兵士の何人かがぼやいてたんだよなぁ~、なんで子ども一人にオレたちが駆り出されなきゃならないんだとか、あとは……占い師がどうのこうのって言ってたかもな」
「占い師?」
「ああ、間違いねぇよ。兵士たち、占い師って言ってたぜ」
占い師と聞いて僕が真っ先に思い浮かべたのはリンドブルグの町の占い師の老婆のことだった。
その占い師は【サーチ】というスキルで人探しが出来るのだ。
レオナルドはその占い師に会いに行ったのだろうか。
では何故?
……そんなの決まっている。
レオナルドは僕を殺すために兵を集めたのだ。
ならば僕の居場所を探すために違いない。
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