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第7話 三年後
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――約三年後。
『グオオオォォォ!』
背中に羽の生えた大きなゴリラ型のモンスター、キラーコングが咆哮を上げ僕に迫ってくる。
腕の太さは直径一メートルはある。
その腕から繰り出されるパンチをまともにくらったら相当の痛手を負う。
だがドリアードの師事のもと修行に修行を重ねてきた僕には、敵の攻撃が纏う僅かな殺気を感じ取り瞬時に避けることが可能となっていた。
ドゴォォン!
僕を狙った右ストレートが地面に直撃して岩石が乱れ飛ぶ。
とてつもない破壊力で地面が陥没してしまっていた。
しかしものすごいパワーも当たらなければ意味がない。
僕はその後も連打を繰り出してくるキラーコングの殺気を感じてそれらをことごとくかわしていく。
そして背後に回り込むと、キラーコングのデスポイントをドリアードから譲り受けたダガーナイフで突き刺した。
急所を一突きにされたキラーコングが、
『グオオオォォォァッ!!』
叫び声を上げる。
そしてそのまま全身の力が抜けたようにキラーコングが地面に沈んだ。
巨体が倒れ込んだことで地面が揺れる。
「うむ。ようやった」
一部始終を眺めていたドリアードが口を開いた。
「キラーコング相手に危なげなく勝てるようになったな」
「うん、苦労したからね」
この三年間ドリアードの教えを忠実に守って修行してきた賜物だ。
「それにしても本当に強くなったのう、お主は。わずか三年でここまでとはな……いやはや、もうこのダンジョンに出てくるモンスターはお主の足元にも及ばぬな」
「ドリアードのおかげだよ、ありがとう」
「ふ、ふん。褒めたところで何も出んぞ」
ドリアードは頬をぽりぽりと掻きつつ口をとがらせる。
ドリアードが照れくさい時によくやる仕草だった。
この三年一緒にいたことで僕はドリアードの癖をすっかり覚えてしまっていた。
「ふ……正直言ってもうお主がここにいる理由はなくなったな」
星空を眺めつつドリアードが口にする。
ダンジョンの中に星空があるというのもおかしな話だが、地下450階には空だけではなく朝も夜もあった。
ドリアードに何気なく訊ねると「世界樹の力によるものじゃ」と教えてくれた。
でも多分それは嘘だろう。
質問に答えた時、ドリアードはろくに吹けない口笛を吹く真似をしていた。
これはドリアードが嘘をついた時の癖だった。
……多分、ドリアードもなぜ地下450階にだけ太陽や星があるのか知らないのだろう。
「十年はかかると思っておったが、お主はわらわの予想をはるかに超えておったわ」
遠い目をするドリアード。
もしかしたらこれまでの三年間を懐かしんでいるのかもしれない。
……もしそうなら嬉しいな。
「ねえ、ドリアード。もしよかったら僕と一緒に地上に行かないか?」
気付けばそんなセリフが口をついて出ていた。
ドリアードと一緒にいた時間がそうさせたのだろう。
「無理じゃ」
ドリアードがぽつりとつぶやく。
「なんで? やっぱりここが気に入ってるから?」
「そうではない。いや、そうではあるのだが……」
少し間があって、
「……わらわは世界樹の精じゃからな、世界樹からは離れることが出来んのじゃ」
ゆっくりと言葉を紡いでいった。
「……そっか」
「うむ」
沈黙。
静寂が僕たちを包む。
「ま、ここの生活も気に入っておるから全然問題ないんじゃがのう」
「もし一人が寂しいなら、僕ここに残ろうか?」
「な、何を言っとるのじゃ。お主がおらんくなったくらいで寂しいわけないじゃろっ。たわけがっ」
「そう……じゃあ……もう僕行くね」
「うむ、達者でな」
こうして僕はドリアードと別れて地上へと向かって歩き出した。
☆ ☆ ☆
――地下449階。
歩きながら思い返すのはドリアードが僕に寂しくないとむきになって言った姿。
あの時ドリアードは間違いなく口笛を吹く真似をしていた。
……ろくに吹けないくせに。
「ドリアード……僕はまた必ずここに戻ってくるから。それまで待っててね」
僕は自分に言い聞かせるように小さくつぶやいた。
『グオオオォォォ!』
背中に羽の生えた大きなゴリラ型のモンスター、キラーコングが咆哮を上げ僕に迫ってくる。
腕の太さは直径一メートルはある。
その腕から繰り出されるパンチをまともにくらったら相当の痛手を負う。
だがドリアードの師事のもと修行に修行を重ねてきた僕には、敵の攻撃が纏う僅かな殺気を感じ取り瞬時に避けることが可能となっていた。
ドゴォォン!
僕を狙った右ストレートが地面に直撃して岩石が乱れ飛ぶ。
とてつもない破壊力で地面が陥没してしまっていた。
しかしものすごいパワーも当たらなければ意味がない。
僕はその後も連打を繰り出してくるキラーコングの殺気を感じてそれらをことごとくかわしていく。
そして背後に回り込むと、キラーコングのデスポイントをドリアードから譲り受けたダガーナイフで突き刺した。
急所を一突きにされたキラーコングが、
『グオオオォォォァッ!!』
叫び声を上げる。
そしてそのまま全身の力が抜けたようにキラーコングが地面に沈んだ。
巨体が倒れ込んだことで地面が揺れる。
「うむ。ようやった」
一部始終を眺めていたドリアードが口を開いた。
「キラーコング相手に危なげなく勝てるようになったな」
「うん、苦労したからね」
この三年間ドリアードの教えを忠実に守って修行してきた賜物だ。
「それにしても本当に強くなったのう、お主は。わずか三年でここまでとはな……いやはや、もうこのダンジョンに出てくるモンスターはお主の足元にも及ばぬな」
「ドリアードのおかげだよ、ありがとう」
「ふ、ふん。褒めたところで何も出んぞ」
ドリアードは頬をぽりぽりと掻きつつ口をとがらせる。
ドリアードが照れくさい時によくやる仕草だった。
この三年一緒にいたことで僕はドリアードの癖をすっかり覚えてしまっていた。
「ふ……正直言ってもうお主がここにいる理由はなくなったな」
星空を眺めつつドリアードが口にする。
ダンジョンの中に星空があるというのもおかしな話だが、地下450階には空だけではなく朝も夜もあった。
ドリアードに何気なく訊ねると「世界樹の力によるものじゃ」と教えてくれた。
でも多分それは嘘だろう。
質問に答えた時、ドリアードはろくに吹けない口笛を吹く真似をしていた。
これはドリアードが嘘をついた時の癖だった。
……多分、ドリアードもなぜ地下450階にだけ太陽や星があるのか知らないのだろう。
「十年はかかると思っておったが、お主はわらわの予想をはるかに超えておったわ」
遠い目をするドリアード。
もしかしたらこれまでの三年間を懐かしんでいるのかもしれない。
……もしそうなら嬉しいな。
「ねえ、ドリアード。もしよかったら僕と一緒に地上に行かないか?」
気付けばそんなセリフが口をついて出ていた。
ドリアードと一緒にいた時間がそうさせたのだろう。
「無理じゃ」
ドリアードがぽつりとつぶやく。
「なんで? やっぱりここが気に入ってるから?」
「そうではない。いや、そうではあるのだが……」
少し間があって、
「……わらわは世界樹の精じゃからな、世界樹からは離れることが出来んのじゃ」
ゆっくりと言葉を紡いでいった。
「……そっか」
「うむ」
沈黙。
静寂が僕たちを包む。
「ま、ここの生活も気に入っておるから全然問題ないんじゃがのう」
「もし一人が寂しいなら、僕ここに残ろうか?」
「な、何を言っとるのじゃ。お主がおらんくなったくらいで寂しいわけないじゃろっ。たわけがっ」
「そう……じゃあ……もう僕行くね」
「うむ、達者でな」
こうして僕はドリアードと別れて地上へと向かって歩き出した。
☆ ☆ ☆
――地下449階。
歩きながら思い返すのはドリアードが僕に寂しくないとむきになって言った姿。
あの時ドリアードは間違いなく口笛を吹く真似をしていた。
……ろくに吹けないくせに。
「ドリアード……僕はまた必ずここに戻ってくるから。それまで待っててね」
僕は自分に言い聞かせるように小さくつぶやいた。
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