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第1話 無限の大迷宮

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人間だれしもが五歳になると必ず一つのスキルを発現させる。
そんな世界で物心ついた頃から奴隷商人に奴隷として各地を連れ回されていた銀色の髪をした少年がいた。
その少年は同じく奴隷として捕まっていた親友と毎日励まし合いながらつらく苦しい日々を生き抜いていた。
やがて少年は大きくなり冒険者たちに買われてそのパーティーの一員となるが、しかし少年にはさらなる苦難が待ち受けていた。

これはそんな弱冠十三歳の少年、クロノ・アルバの物語。


☆ ☆ ☆


――SSSランクダンジョン、<無限の大迷宮>。

世界に名だたるダンジョンは数あれど、ことダンジョンの攻略難易度において<無限の大迷宮>に優るものはない。
実力者揃いのSランク冒険者たちにそう言わしめるほど、僕たちが今いる<無限の大迷宮>は恐ろしいダンジョンだった。


この世界には無数のダンジョンが存在していて、難度の高い順にSSS、SS、S、A、B、C、D、E、Fランクと定められている。
そんなSSSランクのダンジョンの中でも一番攻略が難しいとされているダンジョンが<無限の大迷宮>だ。
いまだ攻略者が出ていないため、地下深くにはどんなモンスターが潜んでいるのか、地下何階までダンジョンが続いているのか、最深階にはどんなレアアイテムが眠っているのかも謎のままだった。

そんな最高難度のダンジョンの地下316階に僕たちはいた。


☆ ☆ ☆


僕たちは冒険者と呼ばれるギルドの構成員で、〈紅竜旅団〉という五人のメンバーからなるパーティーを組んでいる。

リーダーはSランク冒険者の剣士レオナルド。
勇者の血族でありムーンバルト王国の第一王子でもある彼は、生まれながらにして抜群の戦闘センスを身につけていた。
一日一回が限度だがどんな相手でも一撃で倒すことが出来るというスキル【必殺剣】をマスターしているので、Sランク冒険者の中でも彼こそがこの世で最も強いと噂されていた。
少々プライドが高いのが玉にキズだが頼りになる僕たちのリーダーだ。

それからSランク冒険者の重戦士アズライル。
キングス王国の第三王子である彼は、三分間だけどんな攻撃も受け付けないというスキル【絶対防御】を有していた。
〈紅竜旅団〉の中で一番の力持ちの彼は【絶対防御】と相まって一対一では誰にも負けないと自負しているのだった。

そしてSランク冒険者の白魔道士イアンナ。
セントヴィンセント皇国の第四皇女の彼女は怪我をしてから一分以内であればどんな傷でも瞬時に治すことの出来るスキル【超回復】の持ち主で、パーティーの回復役として〈紅竜旅団〉になくてはならない存在だ。

さらにもう一人、Sランク冒険者の黒魔道士マーガレット。
デルタ王国の第七王女である彼女は大小さまざまな雷を操り、雷撃を浴びせることの出来るスキル【降魔雷】の使い手で、遠距離攻撃のかなめとしてイアンナとともにパーティーに欠かせない存在となっていた。

そして最後がFランク冒険者の僕、盗賊クロノだ。
Sランク冒険者のパーティーの中になぜ僕みたいな最低ランクの冒険者が混ざっているのか不思議に思うかもしれないが、その秘密は僕のスキルにあった。

僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。
その特殊なスキルを買われて僕は〈紅竜旅団〉に文字通り買われたのだった。
買われたとはどういう意味かというと、僕はつい数ヶ月前までは奴隷だったのだ。

奴隷商人に連れ歩かされていたところをたまたまレオナルドがみつけて、救い出してもらった上にパーティーにまで入れてもらったという経緯がある。
そのため僕はそれからずっと〈紅竜旅団〉に尽くしてきた。
僕のスキルによって窮地を脱したこともあるし、レアアイテムをみつけたことだって何度もある。
それらは僕の密かな自慢となっていた。

僕の右手首には紋章がある。
これは奴隷として買われた際に、レオナルドと主従の契約をして魔法の力で刻まれたものだった。
主従の契約を結ぶと従者は主人に逆らえなくなるのだ。
もちろんそんなものがなくても僕はレオナルドに反抗したりなど絶対にしないが、奴隷を買う際はそうすることが決まりだった。

ほかの奴隷たちはどうか知らないが、僕は右手首の紋章をレオナルドたちとの仲間の証としてむしろ誇りに思っている。


☆ ☆ ☆


二か月前、僕たちはSランクダンジョンである<無の要塞>を攻略した。
だが事前に仕入れていた情報とは異なり思いのほかあっさりと攻略できたため、これならSSSランクダンジョンも意外と大したことないのではとレオナルドをはじめほかのメンバーもそろって口にした。

そこで僕たちはSSランクダンジョンをすっ飛ばし、SSSランクダンジョンの中でも最高峰の<無限の大迷宮>に挑んだというわけだった。

そして現在、<無限の大迷宮>の地下316階。
僕たちはこのダンジョンに潜ったことを後悔し始めていた。

「はあ、はあ……どうなってんだ。ここにきて急にモンスターが強くなりやがったぞっ……」
レオナルドが息を切らしながら言う。

「はぁ、はぁ……それにモンスターの数も一気に増えてきたわよ……」
息も絶え絶えマーガレットも追随した。

「くっ……さっきのモンスターの群れはかなりヤバかった。ぜ、絶対防御がなかったらおれは死んでたかもしれん……」
アズライルが苦悶の表情でつぶやく。

「はぁ、はぁ……マジ最悪なんだけど……話が違うじゃんか……」
後悔の念をにじませつつイアンナもぼやいた。

僕はというと、疲労とストレスがピークに達していた四人を刺激しないようただ息を潜めていた。
戦闘では役に立てていない僕は四人にかける言葉がみつからなかったのだ。

この階に下りてからモンスターの数と強さが一気に跳ね上がったことは戦闘に参加していない僕でも充分感じていた。
最深階が近付いてきた証拠なのか、それともSSSランクダンジョンが本領を発揮し出したのか。
誰も攻略したことのないダンジョンなので、この先がどうなっているのかまったく予想できず不安にさいなまれる僕たち。

「はぁ……ね、ねぇ、一度戻った方がよくない……?」
マーガレットが言い出した。
すると「……あたし、賛成っ……」とイアンナが手を上げる。

「……戻るったって、オレたち、くたくただぜっ……」
イアンナの【超回復】では傷は治せても体力までは回復できない。
さらにレオナルドは「……せっかくここまで来たんだぞっ……」と悔しさを抑えきれない様子。

「はあ、はあ……だが、死んだら元も子もないだろ……幸いにもオレたちには帰還石がある……」
とアズライル。
「……そうよ……もったいないけど、あれ使っちゃいましょ……」
アズライルの意見にマーガレットが賛同した。

アズライルが口にした帰還石というのは、今しがた地下316階で僕のスキルの【神眼】によってみつけ出していたレアアイテムだ。
使うとダンジョンの奥深くからでも一瞬で脱出できるという便利なもので、売れば一生遊んで暮らせるという喉から手が出るほど誰もが欲しがるアイテムだった。

先ほどみつけた帰還石は人数分ちょうど五個ある。
一度使ったら効力は失われるのでもちろん売ることは出来なくなるが、背に腹は代えられない。
命あっての物種だ。

「くそっ……わかったよ……戻るか」
「……うん、戻るしかないっしょ……」
レオナルドとイアンナも二人に同意する。

仕方ないけどそうするしかないよね。
ここまでみんなよく頑張ったよ。
僕は心の中でみんなに声をかけた。

とその時だった。

「クロノ……地上に戻る前に、お前に大事な話がある」

レオナルドが突然僕に振り返り言った。
その表情は暗く硬く重々しく、僕は妙な胸騒ぎを覚えた。
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