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第217話 アルバイト

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「おう、松井。お前全然冷たがらないな、すげぇすげぇ」
「そうですか。ありがとうございます」

俺は豆腐工場で冷水に入った豆腐を崩さないようにパックに詰めるというバイトをしていた。

「慣れない奴はすぐ冷てぇって言って水から手を出しちまうのによ」
「俺、冷たいのとか熱いのとか割と平気なんです」
「でもその分よく豆腐を潰すよな」
「す、すいません」
「わっはっは。まあ気にすんな、その内慣れるからよ」
檜山さんは俺の腕をひじで小突く。

バイトリーダーの檜山さん。
口調は荒いがいい人だ。
このバイトを始めて三日になるが常に俺のことを気にかけてくれている。
周りがこういう人ばかりなら俺もニートになんてなってなかったかもな。

「もう少しで休憩だからそしたらコンビニ行こうぜ」
「はい」

多分年は俺と同じくらいなのだろうが俺はあえて訊いてはいない。
もし年下だったら敬語を使う時お互いぎこちなくなりそうだからだ。

檜山さんは俺がニートだったことを知ってか知らずかこれまでの仕事や彼女などプライベートなことを訊いてこようとはしない。
ぶっきらぼうなくせにそういうところがあるから俺としては接しやすかった。

うーん、でももう少し仲良くなったら俺の方から話してみようかな。
なんて思ってみたりもする。


◇ ◇ ◇


「お疲れ様でした」
「おう、お疲れー。また明日もよろしくな松井!」
「はいっ」

豆腐工場をあとにした俺は自宅へと向かう。
時刻は夜中の十二時。
俺は夕方からのシフトなので十二時帰宅だ。

車で自宅に帰る。
玄関を開けるとポチが出迎えてくれ……はしない。

なぜならポチはまだ高木さんのところにいるからだ。
……いや、いると思う。


実のところ高木さんとはダンジョンを出てから連絡が取れていない。
俺はダンジョンから戻ってすぐ家にあったダンジョンのアイテムを全部破棄して求人情報サイトにアクセスし仕事を決めた。
その後ポチを返してもらおうと高木さんのスマホに電話をかけ、つながらないので高木さんの住むアパートにも行ったのだが会えなかった。

それから三日間電話をかけ続けるも音沙汰なしだ。

ズボンのポケットからスマホを取り出すと液晶画面に高木さんの番号を表示させる。

「さすがに十二時過ぎはまずいか……」

電話しようとして思いとどまる。

「明日またアパートに行ってみるかな」


俺は手早く風呂を済ますと自室のベッドで深い眠りについた。


この時の俺はまだ知る由もなかった――

高木さんが業務上横領罪で逮捕されていたことを。
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