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第142話 空腹のスラ

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「わあ、かっこいいですマツイさんっ」
『ピキー』
トロール四体を難なく倒したその様子を見ていたククリとスラが声を上げる。

「それよりこの宝箱の中身が気になるなぁ」
俺はトロールが取り囲んでいた宝箱を罠かどうかの確認のため一応透視してみる。

すると、
「これは……鎧かな」
罠ではない。
中身は銀色の鎧のように見えた。

俺が宝箱を開けると、
「あ、これは防御力+25のシルバーメイルですね」
中を覗き込みククリが口にする。

「おおっ。すごいいいじゃないか」
『ピキー?』
「いえ、スラさん。残念ですけど食べ物じゃないですよ」
『ピキー』

スラは食べ物以外まったく興味なさげだが俺にとっては防御力+25の防具はかなり魅力的だ。
しかも銀で出来ているとなると売値も相当期待できそうだ。

俺は早速それを持ち上げると――
「おう、結構重いな……」
防御力+10のくさりかたびらを脱いでシルバーメイルを着込んだ。

ずっしりとした重量感とともにしっかりとした鎧に守られているという安心感を身をもって感じる。

「マツイさん、すごく似合ってますよ~」
「ああ、ありがとうなククリ」

俺はククリに目線を移しそれからスラも見た。
スラはあまり元気がないように見える。
かなり腹が減っているようだな。

「よし、あらためてアイテム収集といくか」
「おーっ」
『ピキー』

スラを奮い立たせ俺はアイテム探しを再開した。


動きの遅いトロールを片付けながらアイテムを集めていった俺は二十分ほどでフロアの地形を把握した。
そしてその間にアイテムを六つも手に入れていた。
内訳は以下の通りだ。

・黒曜の玉
・たいまつ
・におい袋
・錆びた剣
・海賊の盾
・異次元袋

しかし残念ながらその中に食べられそうなものはなくスラは明らかに落ち込んでいた。

ちなみに異次元袋はいくらでもアイテムを詰め込むことが出来るというかなり便利なアイテムだったので俺は持っているすべてのアイテムを異次元袋にしまい込んだ。

防御力+20の海賊の盾を装備した俺は、
「じゃあ、トロール狩りをするか」
と意気込むが、
『ピキ~』
と突然スラが石畳にぺたんと倒れてしまった。

「おい、どうしたスラっ?」
『ピキ~……』
「お腹がすいて力が出ない~って言ってますけど」
ククリが代わりに答える。

「え……マジで?」

俺はしゃがみ込んでスラを抱きかかえた。
「大丈夫か? スラ」
『ピキ~』
「マツイさん、スラさんがこんな状態ではとてもトロール狩りなんて無理ですよ」
「うーん……そうだなぁ」

トロールを千体倒すのに一日半、どんなに急いでも一日はかかってしまうだろう。
しかし食べ物がまったくない今スラにそれだけの間空腹を我慢させるのはいかがなものか。

「いっそトロールコレクターなしでここのフロアボスをさっさと倒して次の階層のアイテムに賭けるって手もあるけど……」
「それはどうでしょう。このフロアのボスはボストロールというんですけどそれなりに強いですよ。今のままでも勝てないことはないでしょうけどトロールコレクターがあればともかく、ないと結構苦戦するかもしれませんよ」
といつになく慎重な発言をするククリ。

「うーん、でも……じゃあどうするんだ?」
「帰るしかないんじゃないですか?」
「帰る……ねぇ」

俺はスラに目を落とした。
スラは俺の腕の中でぐったりとしている。

と、
「あっ、そうだ! 俺魔石持ってたんだっ」
ふと思い出した。

「あ~、そういえばそうでしたね」
「そうだよ。それがあればトロールコレクターなしでも確実に勝てるじゃないか」
「ですね。そういうことなら早速ボストロールのもとに急ぎましょう。それで地下十三階層に行って食べ物をみつけましょう」
ククリは乗り気で進言してくれるが、
「スラはそれでいいか?」
『ピキ~……』
元気のない返事。

「なんだって?」
俺はククリに向き直る。

「オッケー! だそうです」
ククリはグーサインでウインクしてみせた。

「本当か、それ」
スラは絶対そんなテンションでは言っていないと思うが、
「まあいい、わかった」
俺はフロアボスであるボストロールの待つ部屋へとスラを抱えたまま駆けだした。
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