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第120話 ベアホイッスル
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『ピキー?』
スラが首をのばして宝箱の中を覗き込む。
「待てスラ、今取り出して見せるから」
言って俺は宝箱の底にあった黄色いホイッスルを手に取ってスラに見せてやった。
『ピキー?』
スラは俺を見ながら首をかしげる。
「これなあに? って訊いてますけど」
「いや、俺に訊かれてもわかるはずないだろ。ククリ、もったいぶらずに俺とスラに教えてくれ。これはなんなんだ?」
ククリに顔を向けると、
「ふふ~ん、いいでしょう。教えてあげます。このアイテムはベアホイッスルです!」
ククリが自信満々に告げた。
「ベアホイッスル? ってなんだ?」
「その名の通りベアさんに居場所を知らせる笛ですよ。笛の音を聞いたベアさんはいつでもどこにでも駆けつけてくれるんです」
「へー、ベアさんが来てくれるのか」
「もちろんお買い物もできますよ。私は親しみを込めてベアさんホイッスルって呼んでますけどね」
最後の一文はどうでもいいとして……。
「本当にいつでもどこにでも駆けつけてくれるのか?」
「はい」
「じゃあ今ここでこのベアホイッスルとやらを吹いたらベアさんが来てくれるってこと?」
「そうです」
そういうことなら――
ピイィィィ~!
俺はベアホイッスルを吹き鳴らした。
思っていたよりも小さな音が鳴った。
「あっ、ちょっとマツイさん、もう使っちゃうんですか?」
「もう使っちゃうってどういうことだ? 何回でも使えるんだろ、これ」
「いいえ、残念ですけどベアホイッスルは一回こっきりの使い捨てなんです。それはホイッスルの中の玉が回ることでベアさんの聴覚に直接響く音が鳴るんですけど一回吹いちゃうと中の玉がなくなっちゃうんですよ。そうなったらもうさっきみたいな音は鳴りません」
淡々と説明するククリだがどことなく本当に残念そうな顔をしている。
「ベアホイッスルは売ったら三十万円で売れたんですよ。マツイさんならきっと喜んでくれると思っていたのに残念です」
「三十万っ!? こんなちっこい笛が!?」
「はい。でももう一回吹いちゃったので売値はゼロ円ですけど」
「嘘……」
万が一ということもある。
俺はベアホイッスルを再度吹いてみた。
しかし、
スー。
さっきのようなきれいな音色が響くことはなかった。
「ね、もう鳴らないでしょう、マツイさん」
「……マジか」
俺がベアホイッスルに目線を落としたその時だった。
『マジかはこっちのセリフだぜ、マツイ』
がっくりきていたところに鬼のような形相のベアさんが姿を現した。
スラが首をのばして宝箱の中を覗き込む。
「待てスラ、今取り出して見せるから」
言って俺は宝箱の底にあった黄色いホイッスルを手に取ってスラに見せてやった。
『ピキー?』
スラは俺を見ながら首をかしげる。
「これなあに? って訊いてますけど」
「いや、俺に訊かれてもわかるはずないだろ。ククリ、もったいぶらずに俺とスラに教えてくれ。これはなんなんだ?」
ククリに顔を向けると、
「ふふ~ん、いいでしょう。教えてあげます。このアイテムはベアホイッスルです!」
ククリが自信満々に告げた。
「ベアホイッスル? ってなんだ?」
「その名の通りベアさんに居場所を知らせる笛ですよ。笛の音を聞いたベアさんはいつでもどこにでも駆けつけてくれるんです」
「へー、ベアさんが来てくれるのか」
「もちろんお買い物もできますよ。私は親しみを込めてベアさんホイッスルって呼んでますけどね」
最後の一文はどうでもいいとして……。
「本当にいつでもどこにでも駆けつけてくれるのか?」
「はい」
「じゃあ今ここでこのベアホイッスルとやらを吹いたらベアさんが来てくれるってこと?」
「そうです」
そういうことなら――
ピイィィィ~!
俺はベアホイッスルを吹き鳴らした。
思っていたよりも小さな音が鳴った。
「あっ、ちょっとマツイさん、もう使っちゃうんですか?」
「もう使っちゃうってどういうことだ? 何回でも使えるんだろ、これ」
「いいえ、残念ですけどベアホイッスルは一回こっきりの使い捨てなんです。それはホイッスルの中の玉が回ることでベアさんの聴覚に直接響く音が鳴るんですけど一回吹いちゃうと中の玉がなくなっちゃうんですよ。そうなったらもうさっきみたいな音は鳴りません」
淡々と説明するククリだがどことなく本当に残念そうな顔をしている。
「ベアホイッスルは売ったら三十万円で売れたんですよ。マツイさんならきっと喜んでくれると思っていたのに残念です」
「三十万っ!? こんなちっこい笛が!?」
「はい。でももう一回吹いちゃったので売値はゼロ円ですけど」
「嘘……」
万が一ということもある。
俺はベアホイッスルを再度吹いてみた。
しかし、
スー。
さっきのようなきれいな音色が響くことはなかった。
「ね、もう鳴らないでしょう、マツイさん」
「……マジか」
俺がベアホイッスルに目線を落としたその時だった。
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がっくりきていたところに鬼のような形相のベアさんが姿を現した。
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