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第117話 切り札

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俺たちは再び地下十階層へと続く階段の前まで来ていた。

「レベルも上がったし目覚まし草の効果もまだ残ってるしスラの生命力も全回復させたし、いよいよキマイラのいるフロアに下りるぞっ」
「はーい」
ククリが手を上げながら遠足に行くようなテンションで返す。
リラックスしきった返事を受け俺は体から力が抜ける。

「おいククリ、相手はキマイラなんだぞ。もうちょっと緊張感をもってだなぁ……」
「そんなに心配しなくても大丈夫ですって。マツイさんはもう前までのマツイさんとは比べ物にならないくらい強くなってますから」
「うーん、それはそうかもしれないけど……」
心配性な俺としては一度苦戦を強いられた相手なだけにいくらレベルが上がったとはいえ安心できないでいた。

「逆にスラさんは大丈夫なんですか?」
とククリが俺に向かって訊いてくる。

「え?」
「ほら、見てくださいよ」
俺とククリが視線を落とすとスラは『ピキー! ピキー!』と声を張り上げククリとは対照的にやる気に満ち満ちていた。
興奮しきっていて俺とククリの声も耳に入っていないようだ。

「スラさん、キマイラをみつけたら飛び掛かっちゃいそうな勢いですよ」
「あ、ああ」
それは困る。
スラも俺同様レベルはぐんと上がったがキマイラ相手では歯が立たないだろう。

俺はスラと目を合わせると、
「スラ、モンスターとの戦闘は俺に任せてくれ。スラはククリと一緒に見ているだけでいいから」
スラを傷つけないように説得する。

『ピキー?』
「お前は俺たちの切り札なんだよ。二人で戦っててどっちもやられたらまずいだろ、だからいざっていう時だけ戦闘に参加してほしい。俺がピンチな時に助けてほしいんだ。出来るか?」
『ピキー』
「重要な役目だぞ。切り札のお前は普段は力を温存しておけ、わかったな?」
『ピキー!』
切り札という言葉が効いたのかスラはふんすと鼻息荒くうなずいた。

口からでまかせだが勇み足をして返り討ちにでも合ったら目も当てられないからな。
これもスラのためだ。
俺は自分を納得させるように心の中でつぶやくとククリと目を合わせる。
ククリはよくやったと言わんばかりに手でグーサインを作ってみせた。

これでスラは危険なことはしないだろう。
あとは俺が頑張ればいいだけだ。

あらためて、
「よしっ、行くぞっ」
「おーっ」
『ピキー』

俺たちは声を揃えて地下十階層へと足を踏み出した。
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