上 下
92 / 233

第92話 白夜の剣

しおりを挟む
「……は、ははっ……じゃあ、倒したってことか」
「そうですよ、マツイさんは勝ったんですっ」
ククリが飛びついてくる。

「いてててっ……」
「あっすいませんっ」

その時ゴゴゴゴゴ……と石の壁がなくなり階段が姿を現した。
そして宝箱も出現した。

「マツイさん、早くハイヒールで回復してください」
「ああ、それなんだけどヒールで充分そうだ」

ヒールと口にした途端俺はオレンジ色の暖かい光に包まれる。

「えっでもでも、お腹を刺されてましたよね」
ククリは俺の腹を覗き込むが、
「神秘のスカートのおかげだろうな、傷口はほとんどふさがっていたよ」
自動回復効果のある神秘のスカートを履いていたからか俺は回復魔法を唱えるまでもなくほとんどダメージは回復していた。

「そうだったんですね。よかったです~」
「でもここにきて肝心の武器がなくなっちゃったな」

妖刀ふたつなぎはオークキングとの戦いでおっ欠けてしまった。

「それなら錆びた剣があるじゃないですか」
「いや、それはそうだけど……」
確かに皮の袋の中には一応保険として錆びた剣を捨てずに入れてあるが。

「次は地下十階層だろ。錆びた剣でいけるかどうか……」
「でしたらその宝箱に賭けてみましょう」
出現した宝箱を指差すククリ。

「……そうだな。この中身は武器かもしれないもんな」
「そうですよ。さあ早く開けてください」

俺は期待を込めて宝箱に手をかけた。
がばっと開ける。

「ん? ……これはなんだ?」

中には歯磨き粉のチューブのようなものが入っていた。
明らかに武器ではなさそうだがククリの反応は俺とは違った。

「わあっ。このタイミングでのこのアイテム、マツイさんラッキーですよっ」
ククリは飛び上がって喜ぶ。

「ククリ、これ何? 武器じゃないよな」
「武器ではないですけど武器が手に入ったも同然ですよっ。これは錆びた剣を磨く研磨剤ですっ」
「研磨剤?」
「はい。この研磨剤で錆びた剣を磨くと錆びた剣の錆びがとれて新しい武器に生まれ変わるんですよっ」
「ふーん……そうなのか」
「もっと喜んでくださいよっ。もしかしたらすごい武器になるかもしれないんですからっ」
ククリは俺の腕を掴んで上下に揺らす。

俺は皮の袋の中から錆びた剣を取り出すと床に置いた。

「これにこいつを塗ればいいのか?」
「はい。それでいらない布できちんと磨いてください」
「いらない布って言ってもな……」
「鉢巻きがありましたよね。それでいいですから」

俺は使っていなかった鉢巻きを手に取ると研磨剤を塗りたくった錆びた剣をそれで丁寧に磨いた。

地味な作業だったが意外と心休まる時間だった。


「よしっ、こんなもんかな」
「マツイさん剣磨きの才能ありますね~。最高ですっ」
「ほめても何も出ないぞ」

俺が丹精込めて磨き上げたことで錆びた剣は攻撃力+20の刀身がきらりと輝く白夜の剣に生まれ変わったのだった。

「白夜の剣はこれまでで一番の武器ですよっ」
「そうだな」

試しに振ってみる。

「うん、軽くて扱いやすそうだ」
それでいて丈夫な感じもする。

「よかったですね、これで地下十階層に挑めますね」
「ああ。あっそうだ、ちなみに次の階層のモンスターはどんなのが出てくるんだ?」
「キマイラというライオンに羽の生えたようなモンスターです」
「ライオンか……怖そうだなぁ」
しかも羽が生えてるってことは飛べるんだろどうせ。

「そいつって強いのか?」
「そうですね、地下十階層からはモンスターが一気に強くなりますね」
とククリは言う。

「やっぱりか……俺しばらくこの階でレベル上げでもしようかな」
「でも今のマツイさんは強い武器も手に入れましたし、それになんといっても帰還石を持っていますのでいざとなればすぐ逃げられますからそこまで気にしなくても大丈夫ですよ」
「うーん」
「同じレベル上げをするならより経験値の高いモンスターと戦った方が効率的ですよ。コレクターも取得できますし」
「そりゃまあそうだけど……」
ククリの言うことはもっともだった。

俺はお金を稼ぐためにこのダンジョンに来ているが何も理由はそれだけではない。自分自身を変えたいと思ったからでもある。
これまでの俺なら冒険はせずに安全策をとっていただろう。
でもそんなことでいいのか俺?
変われるのか? 自分。
嫌なことから逃げ続けてきたから俺は今ニートなんかやっているんじゃないのか?

高木さんに堂々と胸を張れる生き方をしたくないのか?


心の中で自問自答した結果、
「よしっ、キマイラがなんだ。そんなの倒してやるさ」
「そうです、その意気ですよマツイさんっ」
「行くぞ、ククリっ」
「はいっ」

俺は一歩足を踏み出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキルが覚醒してパーティーに貢献していたつもりだったが、追放されてしまいました ~今度から新たに出来た仲間と頑張ります~

黒色の猫
ファンタジー
 孤児院出身の僕は10歳になり、教会でスキル授与の儀式を受けた。  僕が授かったスキルは『眠る』という、意味不明なスキルただ1つだけだった。  そんな僕でも、仲間にいれてくれた、幼馴染みたちとパーティーを組み僕たちは、冒険者になった。  それから、5年近くがたった。  5年の間に、覚醒したスキルを使ってパーティーに、貢献したつもりだったのだが、そんな僕に、仲間たちから言い渡されたのは、パーティーからの追放宣言だった。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

さよなら、英雄になった旦那様~ただ祈るだけの役立たずの妻のはずでしたが…~

遠雷
恋愛
「フローラ、すまない……。エミリーは戦地でずっと俺を支えてくれたんだ。俺はそんな彼女を愛してしまった......」 戦地から戻り、聖騎士として英雄になった夫エリオットから、帰還早々に妻であるフローラに突き付けられた離縁状。エリオットの傍らには、可憐な容姿の女性が立っている。 周囲の者達も一様に、エリオットと共に数多の死地を抜け聖女と呼ばれるようになった女性エミリーを称え、安全な王都に暮らし日々祈るばかりだったフローラを庇う者はごく僅かだった。 「……わかりました、旦那様」 反論も無く粛々と離縁を受け入れ、フローラは王都から姿を消した。 その日を境に、エリオットの周囲では異変が起こり始める。

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

聖女として全力を尽くしてまいりました。しかし、好色王子に婚約破棄された挙句に国を追放されました。国がどうなるか分かっていますか?

宮城 晟峰
ファンタジー
代々、受け継がれてきた聖女の力。 それは、神との誓約のもと、決して誰にも漏らしてはいけない秘密だった。 そんな事とは知らないバカな王子に、聖女アティアは追放されてしまう。 アティアは葛藤の中、国を去り、不毛の地と言われた隣国を豊穣な地へと変えていく。 その話を聞きつけ、王子、もといい王となっていた青年は、彼女のもとを訪れるのだが……。 ※完結いたしました。お読みいただきありがとうございました。

処理中です...