上 下
88 / 233

第88話 オーク

しおりを挟む
「か、勝った……」

さっきまで苦戦していたのが嘘のように俺はスケルトンリッチを倒すことに成功した。

「マツイさーん」
と飛んでくるククリに、
「おいククリ、魔法が効くならもっと早く教えてくれよな。結構ギリギリだったんだぞ」
俺は顔を向ける。

「まあいいじゃないですか、無事に勝てたんですから。それより宝箱の中身はなんですかね~?」
スケルトンリッチが消えた場所に現れた宝箱を見てククリが体を左右に揺らしながら言った。

「ったく」

フロアボスの落とす宝箱には罠はないので俺は透視はせずにこれを開けた。

「おおっ!」
「なんですか、なんですか?」
ククリは俺に体をぴとっとくっつけて宝箱を覗き込む。

宝箱の中には赤く光り輝く石が入っていた。

「わあっ! 帰還石じゃないですかっ。すご~い、やっぱり今回はついてますよっ」
「そうだな。これでだいぶ楽になるな」
帰還石は割るといつでもどこでも地上に帰れるアイテムだ。
フロアボスから逃げられるという利点もあるため初めて挑むボス戦では持っているに越したことはない。

「マツイさん、お金が欲しいのはわかりますけど前みたいに簡単に売らないでくださいよっ」
「わかってるよ」
売値が十万と高額なので前回は売ってしまったから使ったことはないのだ。


「トウキョウダンジョンに潜って四日半くらい経ちますけどまだ帰らなくても大丈夫ですか?」
地下九階層への階段を前にしてククリが訊いてくる。

「ん、今回はポチも預けてきてあるし満腹草を食べたから腹もまだそこまで減ってないし行けるとこまで行くつもりだよ」
「そうですか。ではそろそろ下りましょうか」
「ああ、そうしよう」

俺はククリとともに地下九階層へと足を進めた。


◇ ◇ ◇


地下九階層。

下りるとすぐに一つの宝箱が目に入ってきた。
近付くと罠でないことを確かめてからこれを開ける。

中に入っていたのは一輪のバラだった。

「なんだこれ?」
手に取って見定める。

「あ、マツイさん。それ持たない方がいいですよ」
「なんでだ?」
「それは呪いのバラといってそのバラのトゲに刺さると数十秒で死に至ります」
「うおぉいっ」
俺はバラを投げ捨てた。

「ククリっ、そういう大事なことは早く言えってば!」
「だって私が説明する前に取り出しちゃうんですもん」
「いや、それはそうだけど……」
……俺はこのダンジョンに慣れてきて少し気が緩んでいたのかもしれない。
もっと気をつけて行動しないとな。

「悪かった。今のは俺の不注意だった」
「そうですよ。マツイさんは慎重さだけが取り柄なんですからね。しっかりしてくださいよ、まったくもう」
「あ……うん」
俺ってそんな風に思われていたのか……。


『フー……フー……』

その時荒々しい鼻息が通路から聞こえてきた。
その鼻息の主が通路からのそっと姿を現す。

「マツイさん、出ましたよっ。この階のモンスター、オークですっ」
ククリが声を上げた。

ククリが指差すオークとやらは豚のような鼻に豚のような口、豚のような耳に……ってとにかく豚を二足歩行にしたようなモンスターだった。
フーフー鼻息を立てながら重そうな体を揺らして歩いてくる。

身長は百八十弱、俺と同じくらいか。
手には槍を持ちつぶらな瞳で俺を見据えていた。

「ちょっとキモカワイイですね」
ククリが言うが、
「どこがだよ。不気味だろあんなの」
俺からしたら可愛くもなんともない。
豚が槍持って向かってきているんだぞ。

「動きはのろそうだな」
「はい。マツイさんの素早さなら問題ないですよ」

俺はレベルとともに素早さも上がっている。
と同時に反射神経や動体視力もよくなっているようだった。

『フー……!』
オークが槍を突き出してきたが俺はこれをさっとかわす。

動きが止まって見える、とまでは言わないが俺にとってオークの攻撃はかなり遅く感じた。
これならオークの攻撃は当たらないだろう。

『フー……!』
オークはまたも槍で攻撃してくるが俺は刀を一振りして槍を叩き斬るともう一振りしてオークの胸を斬り裂いた。
妖刀ふたつなぎの効果で一瞬遅れてさらに深い斬撃がオークの胸を斬り裂く。

次の瞬間にはオークは絶命し消えていった。


「あっ、宝箱ですよっ」

見るとオークがいたところから宝箱が現れた。
一体目にしてドロップアイテムとは幸先がいい。

「うん、罠ではないな」
魔眼の透視能力で確認すると中身はピンク色の塊のように見えた。

開けてみると、
「肉……か?」
「肉ですね。オークの肉です」
ピンク色の肉塊が入っていた。

「せっかくだから焼いて食べてみましょうよ」
「え……これを食べるのか?」
さっきのオークを見た後ではあまり食欲がわかないが……。

「ボアの肉は美味しいって言って食べてたじゃないですか。これもきっと美味しいですよ」
「うーん、あっちはまんまイノシシだったからなぁ」
気乗りしないがククリが勧めるので食べてみることにする。

俺は魔力を5消費してバトルマッチを使い火を起こした。
持っていたたいまつに火をともしオークの肉を焼いて口へと運ぶ。

「どうですか? お味は?」
興味津々にククリが訊いてくる。

「うん……悪くはない」
というか美味しい。

「わあ、よかったじゃないですか。これでこの階にいる間は食べ物に事欠きませんね」
「まあ、そうだな」
腹が減ったら適当に薬草か魔力草でも食べようと思っていたからこれは嬉しい誤算だ。

「オークは経験値も割と高めですからここでしばらく稼げますね」
「その前にまずはアイテム収集だけどな」
「はーい」

俺とククリは階段のある部屋を抜け宝箱探しを開始した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日
ファンタジー
ーー時は魔物時代。 魔王を頂点とする闇の群勢が世界中に蔓延る中、勇者という職業は人々にとって希望の光だった。 そんな勇者の一人であるシンは、逃れ行き着いた村で村人たちに魔物を差し向けた勇者だと勘違いされてしまい、滞在中の兵団によってシーラ王国へ送られてしまった。 「勇者、シン。あなたには魔王の城に眠る秘宝、それを盗み出して来て欲しいのです」 唐突にアリス王女に突きつけられたのは、自分のようなランクの勇者に与えられる任務ではなかった。レベル50台の魔物をようやく倒せる勇者にとって、レベル100台がいる魔王の城は未知の領域。 「ーー王女が頼む、その任務。俺が引き受ける」 シンの持つスキルが頼りだと言うアリス王女。快く引き受けたわけではなかったが、シンはアリス王女の頼みを引き受けることになり、魔王の城へ旅立つ。 これは魔物が世界に溢れる時代、シーラ王国の姫に頼まれたのをきっかけに魔王の城を目指す勇者の物語。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

俺だけ展開できる聖域《ワークショップ》~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信がバズってしまい、追放した奴らへざまあして人生大逆転~

椿紅颯
ファンタジー
鍛誠 一心(たんせい いっしん)は、生ける伝説に憧憬の念を抱く駆け出しの鍛冶師である。 探索者となり、同時期に新米探索者になったメンバーとパーティを組んで2カ月が経過したそんなある日、追放宣言を言い放たれてしまった。 このことからショックを受けてしまうも、生活するために受付嬢の幼馴染に相談すると「自らの価値を高めるためにはスキルガチャを回してみるのはどうか」、という提案を受け、更にはそのスキルが希少性のあるものであれば"配信者"として活動するのもいいのではと助言をされた。 自身の戦闘力が低いことからパーティを追放されてしまったことから、一か八かで全て実行に移す。 ガチャを回した結果、【聖域】という性能はそこそこであったが見た目は派手な方のスキルを手に入れる。 しかし、スキルの使い方は自分で模索するしかなかった。 その後、試行錯誤している時にダンジョンで少女達を助けることになるのだが……その少女達は、まさかの配信者であり芸能人であることを後々から知ることに。 まだまだ驚愕的な事実があり、なんとその少女達は自身の配信チャンネルで配信をしていた! そして、その美少女達とパーティを組むことにも! パーティを追放され、戦闘力もほとんどない鍛冶師がひょんなことから有名になり、間接的に元パーティメンバーをざまあしつつ躍進を繰り広げていく! 泥臭く努力もしつつ、実はチート級なスキルを是非ご覧ください!

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話

天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。 その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。 ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。 10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。 *本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています *配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします *主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。 *主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません

絶対零度女学園

ミカ塚原
ファンタジー
 私立ガドリエル女学園で起こった、謎の女生徒凍結事件。原因不明の事件を発端として、学園を絶対零度の闇が覆い尽くす。時間さえも凍結したかのような極寒の世界を、正体不明の魔がうごめき始めた。ただ一人闇に立ち向かうのは、病に冒され夢を挫かれた少女。この世に火を投じるため、百合香は剣を取って巨大な氷の城に乗り込む。 ◆先に投稿した「メイズラントヤード魔法捜査課」という作品とは異なる方向性の、現代が舞台のローファンタジーです。キービジュアルは作者本人によるものです。小説を書き始めたのは今年(2022年)が初めてなので、稚拙な文章は暖かい目で読んでくださると幸いです。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...