15 / 233
第15話 日常と非日常
しおりを挟む
「あ、あー高木さん……久しぶり」
声が裏返る。
油断していた。
平日の昼間だしマスクしているし知り合いに会うはずがないと。
ニートが避けたい出来事ランキング第一位の地元の同級生との遭遇がまさかこんなところで起こるなんて。
しかも最悪なことに相手はちょっと好きだった真面目系女子の高木さん。
絶対に、ぜえったいにニートだということは知られたくない。
「ゴジラくん今どんな仕事してるの?」
はい、終わったー。
ニートが訊かれたくない質問ランキング第二位のセリフが高木さんの口から飛び出た。
ちなみにランキング第一位は「彼女いる?」もしくは「彼女いたことある?」だ。
「え、えーっと仕事はね……」
していないなんて言ったら高木さんはどんな反応をするだろう。
笑い飛ばしてくれるだろうか、それとも親身になって心配してくれるだろうか、はたまたまずいこと訊いちゃったと固まってしまうだろうか。
正直どれも嫌だ。
ニートは仕事をしていないくせにプライドは人一倍高いのだ。
好きだった相手に面と向かってニートだとバレるくらいなら死んだ方がましだ。いやこれは結構マジで。
「な、何してると思う?」
うわー、何言ってるんだ俺のバカ。
合コンでの「何歳なの?」「いくつに見える?」みたいな質問返しをしてしまった。
俺はおそるおそる高木さんの顔を盗み見る。
高木さんは、
「え~、なんだろう?」
嫌な顔一つせず真剣に考えているようだった。
「ゴジラくん頭よかったから税理士さんとか?」
「あ、あーちょっと違う、かな」
何がちょっと違うだ。全然違うだろ、ニートだろ俺。
「司法書士とか行政書士とかかな?」
「う、うーん……」
「そういえばゴジラくん剣道すごかったよね。それ関係?」
意外にも俺の職業に興味があるのか高木さんは前のめりになって訊いてくる。
そのおかげで顔が近い。
「ま、まあ……それより高木さんは何してるの?」
「わたし? わたしはねぇ……なんだと思う?」
高木さんもまさかの質問返し。
「えっと、そうだなぁ……」
高木さんは確か外国語大学に行ってたはずだから……。
「翻訳家とか?」
「ぶー、はずれ。でもわたしが外語大に行ってたこと覚えてくれてたんだね」
「あーまあ記憶の片隅にね」
「え~、何それ、ぎりぎりじゃん」
高木さんは頬を膨らませた。……可愛い。
会話が長く続いているのは嬉しい反面、いつボロが出てニートだとバレてもおかしくない状況なので早くこの場を去りたい気持ちもある。
俺はどっちつかずの気持ちのまま、
「俺たち二十六歳だし、高木さんもう結婚してるとか?」
自分で言って軽く落ち込んだ。
「結婚? ないない。相手もいないもん」
「そ、そうなんだ」
一転気分が高揚する。
「あ、あのさもし――」
「安いよ安いよ、大安売りだよー! 今なら国産米がなんと十キロ二千円! 今日限りの大安売りだよー!」
俺が勇気を振り絞ってラインのIDを訊こうとした矢先店員さんの威勢のいい声が割って入ってきた。
すると高木さんは、
「あっごめん、わたしこのお米買いたいんだ。ゴジラくんまた今度ねっ」
言うとお米売り場にさっと行ってしまった。
俺は高木さんの後ろ姿からなんとなく目が離せないでいた。
一袋十キロのお米を持ち上げようとする高木さん。
でも体の小さな高木さんには十キロは重たすぎるのかなかなか持ち上げられないでいる。
手伝ってあげようかな。そう思い一歩踏み出そうとした時高木さんがこっちを振り向いた。
不意に目が合って緊張する俺に高木さんは申し訳なさそうに手招きをした。
何?
俺は口パクで訊ねながら高木さんのもとに駆け寄る。
「ごめんね呼んじゃって、このお米重たくてわたし一人じゃ持ち上げられないの。このカートに乗せるの手伝ってくれないかなぁ?」
「全然いいよ。別に俺一人でも大丈夫だし」
見栄を張りたい気持ちもあって二つ返事でオーケーする。
「ほんとっ? ありがとう」
「この米でいいんだよね」
「うん。二袋欲しいんだけど」
「わかった」
言いながら俺は米を持ち上げようとして固まる。
待てよ。
十キロの米なんて五年もひきニートしている俺が持てるのか?
俺はいつも五キロの米しか買っていないから十キロは未知の重さだ。
しかも俺は今全身筋肉痛。
しかし一人で持てると高木さんに言い切ってしまった手前今さら「やっぱり無理だ」なんてとても言えない。
自然に、かつ涼しい顔で持ち上げなければ格好がつかない。
他人からすればどうでもいいことかもしれないが俺にとっては男らしいところを見せるチャンスなんだ。
覚悟を決め一か八か俺は米の袋を掴んだ。
……。
……。
……。
……あれ?
思っていたよりもだいぶ軽いぞ。
体中がきしむがそれはあくまで筋肉痛によるもので米の重さとは関係ない。
むしろそれを差し引けば驚くほど十キロの米が軽く感じる。
これなら――
「よいしょっと」
「えっ、ゴジラくん大丈夫っ?」
高木さんが見守る中、俺は二袋合計二十キロの米を片手で持ち上げていた。
声が裏返る。
油断していた。
平日の昼間だしマスクしているし知り合いに会うはずがないと。
ニートが避けたい出来事ランキング第一位の地元の同級生との遭遇がまさかこんなところで起こるなんて。
しかも最悪なことに相手はちょっと好きだった真面目系女子の高木さん。
絶対に、ぜえったいにニートだということは知られたくない。
「ゴジラくん今どんな仕事してるの?」
はい、終わったー。
ニートが訊かれたくない質問ランキング第二位のセリフが高木さんの口から飛び出た。
ちなみにランキング第一位は「彼女いる?」もしくは「彼女いたことある?」だ。
「え、えーっと仕事はね……」
していないなんて言ったら高木さんはどんな反応をするだろう。
笑い飛ばしてくれるだろうか、それとも親身になって心配してくれるだろうか、はたまたまずいこと訊いちゃったと固まってしまうだろうか。
正直どれも嫌だ。
ニートは仕事をしていないくせにプライドは人一倍高いのだ。
好きだった相手に面と向かってニートだとバレるくらいなら死んだ方がましだ。いやこれは結構マジで。
「な、何してると思う?」
うわー、何言ってるんだ俺のバカ。
合コンでの「何歳なの?」「いくつに見える?」みたいな質問返しをしてしまった。
俺はおそるおそる高木さんの顔を盗み見る。
高木さんは、
「え~、なんだろう?」
嫌な顔一つせず真剣に考えているようだった。
「ゴジラくん頭よかったから税理士さんとか?」
「あ、あーちょっと違う、かな」
何がちょっと違うだ。全然違うだろ、ニートだろ俺。
「司法書士とか行政書士とかかな?」
「う、うーん……」
「そういえばゴジラくん剣道すごかったよね。それ関係?」
意外にも俺の職業に興味があるのか高木さんは前のめりになって訊いてくる。
そのおかげで顔が近い。
「ま、まあ……それより高木さんは何してるの?」
「わたし? わたしはねぇ……なんだと思う?」
高木さんもまさかの質問返し。
「えっと、そうだなぁ……」
高木さんは確か外国語大学に行ってたはずだから……。
「翻訳家とか?」
「ぶー、はずれ。でもわたしが外語大に行ってたこと覚えてくれてたんだね」
「あーまあ記憶の片隅にね」
「え~、何それ、ぎりぎりじゃん」
高木さんは頬を膨らませた。……可愛い。
会話が長く続いているのは嬉しい反面、いつボロが出てニートだとバレてもおかしくない状況なので早くこの場を去りたい気持ちもある。
俺はどっちつかずの気持ちのまま、
「俺たち二十六歳だし、高木さんもう結婚してるとか?」
自分で言って軽く落ち込んだ。
「結婚? ないない。相手もいないもん」
「そ、そうなんだ」
一転気分が高揚する。
「あ、あのさもし――」
「安いよ安いよ、大安売りだよー! 今なら国産米がなんと十キロ二千円! 今日限りの大安売りだよー!」
俺が勇気を振り絞ってラインのIDを訊こうとした矢先店員さんの威勢のいい声が割って入ってきた。
すると高木さんは、
「あっごめん、わたしこのお米買いたいんだ。ゴジラくんまた今度ねっ」
言うとお米売り場にさっと行ってしまった。
俺は高木さんの後ろ姿からなんとなく目が離せないでいた。
一袋十キロのお米を持ち上げようとする高木さん。
でも体の小さな高木さんには十キロは重たすぎるのかなかなか持ち上げられないでいる。
手伝ってあげようかな。そう思い一歩踏み出そうとした時高木さんがこっちを振り向いた。
不意に目が合って緊張する俺に高木さんは申し訳なさそうに手招きをした。
何?
俺は口パクで訊ねながら高木さんのもとに駆け寄る。
「ごめんね呼んじゃって、このお米重たくてわたし一人じゃ持ち上げられないの。このカートに乗せるの手伝ってくれないかなぁ?」
「全然いいよ。別に俺一人でも大丈夫だし」
見栄を張りたい気持ちもあって二つ返事でオーケーする。
「ほんとっ? ありがとう」
「この米でいいんだよね」
「うん。二袋欲しいんだけど」
「わかった」
言いながら俺は米を持ち上げようとして固まる。
待てよ。
十キロの米なんて五年もひきニートしている俺が持てるのか?
俺はいつも五キロの米しか買っていないから十キロは未知の重さだ。
しかも俺は今全身筋肉痛。
しかし一人で持てると高木さんに言い切ってしまった手前今さら「やっぱり無理だ」なんてとても言えない。
自然に、かつ涼しい顔で持ち上げなければ格好がつかない。
他人からすればどうでもいいことかもしれないが俺にとっては男らしいところを見せるチャンスなんだ。
覚悟を決め一か八か俺は米の袋を掴んだ。
……。
……。
……。
……あれ?
思っていたよりもだいぶ軽いぞ。
体中がきしむがそれはあくまで筋肉痛によるもので米の重さとは関係ない。
むしろそれを差し引けば驚くほど十キロの米が軽く感じる。
これなら――
「よいしょっと」
「えっ、ゴジラくん大丈夫っ?」
高木さんが見守る中、俺は二袋合計二十キロの米を片手で持ち上げていた。
0
お気に入りに追加
671
あなたにおすすめの小説
スキルが覚醒してパーティーに貢献していたつもりだったが、追放されてしまいました ~今度から新たに出来た仲間と頑張ります~
黒色の猫
ファンタジー
孤児院出身の僕は10歳になり、教会でスキル授与の儀式を受けた。
僕が授かったスキルは『眠る』という、意味不明なスキルただ1つだけだった。
そんな僕でも、仲間にいれてくれた、幼馴染みたちとパーティーを組み僕たちは、冒険者になった。
それから、5年近くがたった。
5年の間に、覚醒したスキルを使ってパーティーに、貢献したつもりだったのだが、そんな僕に、仲間たちから言い渡されたのは、パーティーからの追放宣言だった。
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
追放された薬師でしたが、特に気にもしていません
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。
まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。
だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥
たまにやりたくなる短編。
ちょっと連載作品
「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。
余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~
藤森フクロウ
ファンタジー
相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。
悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。
そこには土下座する幼女女神がいた。
『ごめんなさあああい!!!』
最初っからギャン泣きクライマックス。
社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。
真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……
そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?
ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!
第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。
♦お知らせ♦
余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!
漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。
よかったらお手に取っていただければ幸いです。
書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。
7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。
今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。
コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。
漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。
※基本予約投稿が多いです。
たまに失敗してトチ狂ったことになっています。
原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。
現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。
平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?
和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」
腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。
マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。
婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?
さよなら、英雄になった旦那様~ただ祈るだけの役立たずの妻のはずでしたが…~
遠雷
恋愛
「フローラ、すまない……。エミリーは戦地でずっと俺を支えてくれたんだ。俺はそんな彼女を愛してしまった......」
戦地から戻り、聖騎士として英雄になった夫エリオットから、帰還早々に妻であるフローラに突き付けられた離縁状。エリオットの傍らには、可憐な容姿の女性が立っている。
周囲の者達も一様に、エリオットと共に数多の死地を抜け聖女と呼ばれるようになった女性エミリーを称え、安全な王都に暮らし日々祈るばかりだったフローラを庇う者はごく僅かだった。
「……わかりました、旦那様」
反論も無く粛々と離縁を受け入れ、フローラは王都から姿を消した。
その日を境に、エリオットの周囲では異変が起こり始める。
【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?
ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。
卒業3か月前の事です。
卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。
もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。
カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。
でも大丈夫ですか?
婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。
※ゆるゆる設定です
※軽い感じで読み流して下さい
聖女として全力を尽くしてまいりました。しかし、好色王子に婚約破棄された挙句に国を追放されました。国がどうなるか分かっていますか?
宮城 晟峰
ファンタジー
代々、受け継がれてきた聖女の力。
それは、神との誓約のもと、決して誰にも漏らしてはいけない秘密だった。
そんな事とは知らないバカな王子に、聖女アティアは追放されてしまう。
アティアは葛藤の中、国を去り、不毛の地と言われた隣国を豊穣な地へと変えていく。
その話を聞きつけ、王子、もといい王となっていた青年は、彼女のもとを訪れるのだが……。
※完結いたしました。お読みいただきありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる