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第4話 トウキョウダンジョン
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声は若い女性のそれだが姿は光に包まれていてよく見えない。
「あの、ちょっと……まぶしいんだけどその光なんとかならない?」
「えっ、これまぶしいですか? すいませんちょっと待っててくださいねっ」
言うと光がみるみるうちに弱まっていきちょうどいいくらいの明るさになった。
「これでいいですか?」
そこにいたのは背丈が三十センチにも満たない少女だった。
背中から生えた羽を器用に動かし宙に浮かびながら俺を見ている。
「あ、ああ。もう大丈夫」
なんだけど視界が良好になって新たな問題が……。
そう。俺は全裸なのだ。
「こ、こんな恰好で悪い。俺にもわけがわからないんだ、さっきまではちゃんと服を着ていたんだけど……」
「平気ですよ。そういう仕様ですから」
俺が全裸なことになんの関心も示さずよくわからないことを言う。仕様?
俺は手で股間を隠しながらそんな少女をまじまじと眺めていた。
「? どうかしましたか?」
すると俺の視線に気付き訊いてくる。
「あ、いや……きみって人間? それとも妖精とか……?」
「あー、すいませんっ。自己紹介してませんでしたね……こほん。私は精霊ククリ、このトウキョウダンジョンの案内人ですっ」
ククリと名乗った少女はにこっと微笑んだ。
「トウキョウダンジョン? 何それ?」
初めて聞いたぞそんなの。
「探索者さんが今いる場所のことですよ。探索者さんは写し鏡の門を通ってここまでやってきたはずですけど……」
写し鏡の門?
さっきの大きな鏡のことかな。
「悪い、さっきから言ってる探索者さんって俺のことか?」
「そうですよ。あっ、名前の方がいいですか? 探索者さんの名前はなんていうんですか?」
「松井だけど」
俺は普段の癖で名字だけを名乗った。
このククリとかいう子があの松井秀喜を知っているとは思えなかったがそれでも松井秀喜と名乗ることにはいささか抵抗があるのだ。
「マツイさんですね。私はククリです。ククリちゃんでもクッキーでも好きなように呼んでくださいねっ」
「いや、ククリでいい。それよりトウキョウダンジョンとやらの説明を頼む」
「むぅ……」
ククリは不満そうに口をとがらせてみせたがすぐに笑顔に戻る。
「マツイさんは照れ屋さんなんですね、わかりました。ではあらためてトウキョウダンジョンについて説明します」
ククリは人差し指を突き立て話し始めた。
「トウキョウダンジョンとはその名の通り東京都の地下深くに存在するダンジョンのことです。選ばれた者のみが写し鏡の門を通って自由に出入りできます。ダンジョンの中には数多くのモンスターとアイテムが眠っているので狩り放題取り放題です。手に入れたアイテムは持ち帰ることが出来るだけでなくダンジョン内のお店で売ることも可能です。トウキョウダンジョンの通貨は円なので心配はいりませんよ」
「モンスターとかアイテムとかまるでゲームみたいだな」
ニート街道まっしぐらで暇を持て余している俺はダンジョン系のゲームもたしなむ程度だがやっている。
「ただし注意点が一つ。出る時は問題ありませんがダンジョンに入る時は持ち物がすべてなくなりますから気を付けてください。今マツイさんが裸なのはそのためです」
「なるほど~……ってじゃあ俺が着てたジャージとか剣道着は? どこにいったんだ?」
「この世から消えてなくなりました」
「そんなぁ……あの剣道着は栄光の証だったのに……」
今はニートの俺だが学生時代は全国大会に出るなどそこそこ輝かしい戦績を残していたのだ。
あの剣道着はその頃を象徴する大事なものだったのに……。
俺はあまりのショックで膝から崩れ落ちてしまった。
ちょっとだけだが涙目になる。
そんな俺を見て不憫に思ったのかククリが、
「あのう、マツイさん。その代わりといってはなんですが……マツイさんにだけ特別にボーナススキルを一つプレゼントしましょうか?」
何やら提案してきた。
「あの、ちょっと……まぶしいんだけどその光なんとかならない?」
「えっ、これまぶしいですか? すいませんちょっと待っててくださいねっ」
言うと光がみるみるうちに弱まっていきちょうどいいくらいの明るさになった。
「これでいいですか?」
そこにいたのは背丈が三十センチにも満たない少女だった。
背中から生えた羽を器用に動かし宙に浮かびながら俺を見ている。
「あ、ああ。もう大丈夫」
なんだけど視界が良好になって新たな問題が……。
そう。俺は全裸なのだ。
「こ、こんな恰好で悪い。俺にもわけがわからないんだ、さっきまではちゃんと服を着ていたんだけど……」
「平気ですよ。そういう仕様ですから」
俺が全裸なことになんの関心も示さずよくわからないことを言う。仕様?
俺は手で股間を隠しながらそんな少女をまじまじと眺めていた。
「? どうかしましたか?」
すると俺の視線に気付き訊いてくる。
「あ、いや……きみって人間? それとも妖精とか……?」
「あー、すいませんっ。自己紹介してませんでしたね……こほん。私は精霊ククリ、このトウキョウダンジョンの案内人ですっ」
ククリと名乗った少女はにこっと微笑んだ。
「トウキョウダンジョン? 何それ?」
初めて聞いたぞそんなの。
「探索者さんが今いる場所のことですよ。探索者さんは写し鏡の門を通ってここまでやってきたはずですけど……」
写し鏡の門?
さっきの大きな鏡のことかな。
「悪い、さっきから言ってる探索者さんって俺のことか?」
「そうですよ。あっ、名前の方がいいですか? 探索者さんの名前はなんていうんですか?」
「松井だけど」
俺は普段の癖で名字だけを名乗った。
このククリとかいう子があの松井秀喜を知っているとは思えなかったがそれでも松井秀喜と名乗ることにはいささか抵抗があるのだ。
「マツイさんですね。私はククリです。ククリちゃんでもクッキーでも好きなように呼んでくださいねっ」
「いや、ククリでいい。それよりトウキョウダンジョンとやらの説明を頼む」
「むぅ……」
ククリは不満そうに口をとがらせてみせたがすぐに笑顔に戻る。
「マツイさんは照れ屋さんなんですね、わかりました。ではあらためてトウキョウダンジョンについて説明します」
ククリは人差し指を突き立て話し始めた。
「トウキョウダンジョンとはその名の通り東京都の地下深くに存在するダンジョンのことです。選ばれた者のみが写し鏡の門を通って自由に出入りできます。ダンジョンの中には数多くのモンスターとアイテムが眠っているので狩り放題取り放題です。手に入れたアイテムは持ち帰ることが出来るだけでなくダンジョン内のお店で売ることも可能です。トウキョウダンジョンの通貨は円なので心配はいりませんよ」
「モンスターとかアイテムとかまるでゲームみたいだな」
ニート街道まっしぐらで暇を持て余している俺はダンジョン系のゲームもたしなむ程度だがやっている。
「ただし注意点が一つ。出る時は問題ありませんがダンジョンに入る時は持ち物がすべてなくなりますから気を付けてください。今マツイさんが裸なのはそのためです」
「なるほど~……ってじゃあ俺が着てたジャージとか剣道着は? どこにいったんだ?」
「この世から消えてなくなりました」
「そんなぁ……あの剣道着は栄光の証だったのに……」
今はニートの俺だが学生時代は全国大会に出るなどそこそこ輝かしい戦績を残していたのだ。
あの剣道着はその頃を象徴する大事なものだったのに……。
俺はあまりのショックで膝から崩れ落ちてしまった。
ちょっとだけだが涙目になる。
そんな俺を見て不憫に思ったのかククリが、
「あのう、マツイさん。その代わりといってはなんですが……マツイさんにだけ特別にボーナススキルを一つプレゼントしましょうか?」
何やら提案してきた。
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