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第90話 ニノの村の宿屋

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目を開けるとどこかの部屋の天井が見えた。

「あっ、クロクロさん。目が覚めたのですねっ」
ローレライさんの声が降ってくると同時にローレライさんの顔が視界に入ってくる。

「ローレライさん……ここはどこですか?」
「ニノの村の宿屋です」
「……ニノの村?」
「感謝しなさいよっ。あたしとローレライが気絶してるあんたをここまで運んできてやったんだからねっ」
顔を横に向けるとゲルニカの姿もあった。
ぶすっとした表情でこちらを見ている。

「心配したのですよ。クロクロさん、なかなか起きないので……」
「あ、すみません……」
お腹に大きな傷を受けていたのにレベル5のブーストを使ったせいかもしれない。
俺は気を失ってしまっていたようだった。

そこで俺はハッとなりお腹をさする。
するとお腹の傷は完全に塞がっていた。

「ゲルニカさんの回復魔法のおかげです」
「え?」
「私もクロクロさんもゲルニカさんのおかげで大事に至らなくて済みました」
「そうだったんですね……ゲルニカ、ありがとう。助かったよ」
「ふんっ」

俺が顔を向けるとゲルニカは急にそっぽを向いた。
さっきは感謝しろと言っていたくせによくわからない奴だ。

「ローレライさんもありがとうございました。俺がガロワって魔物にやられた時にすぐ駆けつけてくれて。それにここまで運んでくれたみたいで」
「いえ、私はたいしたことはしていませんから」
ローレライさんはそう言って謙遜する。
だがその顔はどこか嬉しそうだった。

「あ、でもここ宿屋なんですよね? お金大丈夫だったんですか?」
「問題ないわ。あんたの腰についてる袋の中から勝手に取ったから」
「す、すみません、勝手なことをしてしまって……」
「あー、いや、全然いいですよ」

ゲルニカならそれくらいやるだろうと思っていたから驚きはしない。
それより、
「俺だけがお金持っているのも不便なんで二人にもお金渡しておきますよ」
なんとなく思っていたことを俺は申し出た。

「え、そ、そんな悪いですよっ」
「俺今、金貨十九枚持っているんでローレライさんとゲルニカに六枚ずつあげます」
俺はローレライさんの言葉を無視して袋から金貨を取り出す。

「どういう風の吹き回しよ。あんたもしかして頭でも打った?」
というゲルニカの言葉も無視して俺は金貨を六枚ずつ、ローレライさんとゲルニカに差し出した。

「う、受け取れませんっ」
ローレライさんが言うのに対して、
「あとで返してくれって言っても返さないわよ」
ゲルニカは俺の手から奪うように金貨を掴み取る。

「別に返せなんて言わないよ。それで旅支度を整えるなり好きな物を買ってくれ。はい、ローレライさんも受け取ってください」
「い、いえ、そういうわけにはいきません。そのお金はクロクロさんが稼いだお金ですから」
「今回の件のお礼だとでも思ってください。二人がいなかったら俺はこうして生きていなかったかもしれないんですからね」
「で、ですが……」
意外と頑固なローレライさん。
なので俺は半ば強引にローレライさんの手を引っ張るとその手の上に六枚の金貨を置いて握らせた。

「気にせずに自由に使ってください。その方が俺も気が楽なんで」
「ほ、本当ですか?」
「はい。ということでこの件は終了です」

俺は無理矢理話を終わらせるとゲルニカに向き直る。
ゲルニカは俺から受け取った金貨を服のポケットにしまっていた。

「なあ、ゲルニカ。これから俺たちはどうすればいいと思う?」
「ん、そうね~。あいつ、ガロワだっけ? たしか大邪神直属の部下っていう魔物があと五体いる、みたいなこと言ってたわよね。あれ? 七体だったかしら?」
「五体です。ちなみに先ほどのガロワという魔物が口にしていた竜王という魔物と竜魔王という魔物はクロクロさんが既に倒してしまっています」
「あ、そうなの?」
「はい。エルフの里を救ってくださった時に」
「ふーん、そうなんだ」

あまり関心なさそうに言ってからゲルニカは人差し指を口元に当てる。

「じゃあ残りの五体の大邪神直属の部下って奴らを探して、そいつらから大邪神の居場所を訊き出すっていうのはどうっ?」
いいことを思いついたとでも言わんばかりに声を弾ませるゲルニカ。

「でもさっきのガロワみたいに絶対に話そうとしないかもしれないぞ」
「そんなの拷問でも自白剤でも使って喋らせればいいのよっ」
「鬼か、お前」
それではどっちが悪者かわからないじゃないか。

「で、でもゲルニカさんの言う通り大邪神直属の部下の魔物を探すのはアリだと思います」
ローレライさんがゲルニカの案に一部賛同する。

「でしょでしょ」
「それらの魔物が別の魔物を創り出しているようですから、それらの魔物を退治するだけでもやる意義はあると思います」
「いいこと言うじゃんローレライっ。それにそいつらを全部倒しちゃえば大邪神の方から案外ひょこっと姿を現すかもしれないしね」
「まあ、そう言われればそうかもしれないが……う~ん」
拷問だとかには反対だがゲルニカの言うことにも一理あるような気がする。

「わかった。じゃあ俺たちの当面の目的は残る五体の大邪神直属の部下の魔物とやらを探すってことでいいな?」
「もっちろん」
「はい、そうしましょう」

そうと決まればこうしてはいられない。
俺はベッドから飛び起きると背伸びを一つしてから、
「よし、行こうかっ」
二人に元気よく声をかけた。
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