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第81話 死刑執行人
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「お前が殺したのか? 死刑囚たちを?」
「そうやぁ」
メアリは返す。
俺はその言葉に動揺を隠せないでいた。
刑務所内にいるはずの死刑囚をどうやって……?
すると、
「もしかして鬼束くん、うちのこと信じてあらへんの?」
メアリが年の割に大人びた顔をぐっと寄せてくる。
「せやったら、やってみせたろか?」
「何?」
「ちょっと待ってなぁ」
言うとメアリはミニスカートのポケットからスマホを取り出して、なにやら操作し始めた。
三十秒ほどしてから、
「この人でええ?」
スマホの画面を俺に見せてくる。
そこには見知らぬ男が映っていた。
「誰だよ、そいつ」
「十年前に連続放火で捕まった死刑囚や。この人なら死んでもええやろ?」
「……」
勝手に話しを進めていくメアリに俺は眉をしかめる。
と、無言の俺を見てそれを肯定ととらえたのか、メアリは「シクソ」と呪文のような言葉を口にした。
「おい、今何やった?」
「即死呪文を唱えただけやで。今頃この人は死んでこの世から消滅しとるんとちゃうかなぁ」
「即死呪文……だと?」
「そうや。これまでの死刑囚たちもうちがこうやって殺したんやで。でもなんや法務大臣はんは自分の手柄にしとるようやけど」
メアリのこの発言で俺の頭の中で点と点がつながった気がした。
死刑執行に反対の立場を示していた君島法務大臣がなぜ突然死刑を執行し出したのか。
それは死刑囚が刑務所から消えたことを隠すためだったのだ。
死刑囚の姿が刑務所から消えたことで、死刑囚が脱獄したのではないかと刑務所内は騒然となったはずだ。
だが監視カメラを確認すれば逃げたのではなく文字通り消えたことがわかる。
その事実は君島法務大臣にも伝わっただろうから、君島法務大臣はやむを得ず死刑を執行したことにしてごまかしたというわけなのだろう。
「じゃあ……本当にお前がこれまでの死刑囚を全員殺したんだな」
「だからそう言っとるやないのぉ。明日になれば多分、この死刑囚の死刑が執行されたとかまたニュースになるんちゃう」
……ヤバいぞこいつ。
もしこいつの話していることがすべて事実だとするならば、こいつは遠隔で人を殺すことが出来るということだ。
もちろんそれは俺も例外ではないだろう。
「死刑囚がずっと生きてるのっておかしない? しかもそれうちらの税金やって言うんやから許せへんよなぁ。だからうちが殺したるねん……うち間違ったこと言ってへんよなぁ?」
同意を求めてくるメアリ。
大きな瞳で俺の目を覗き込んでくる。
「ああ。そうだな」
下手なことを言ってこいつを敵に回すわけにはいかない。
俺はメアリが望んでいるであろう受け答えをしてやった。
「よかったぁ~、鬼束くんにそう言ってもらえるとほんま嬉しいわぁ」
目を細めて微笑むメアリを眺めつつ、やはりこいつは今ここで殺すべきだろうかと思案する。
俺に対して警戒心を持っていない無防備な女を殺すくらいわけはない。
だがこいつは俺を恩人として見ているようだし、敵意がないのも伝わってくる。
そもそも俺を殺す気ならここに来る前にもうとっくにやっているはずだ。
「なあ、メアリ。訊いてもいいか?」
「なんやのぉ?」
「お前はこれからどうしたいんだ?」
俺は率直に訊いてみた。
「うち? うちは鬼束くんと一緒にこの世界から悪い人間をすべて排除したいんや。そんでもって平和な世の中にしたいと思うとるよぉ」
「そうか……」
相容れない存在だと思ったが意外と俺の考え方に近い思想を持っているようだ。
……こいつは殺すよりそばに置いておいた方が使えるかもしれないな。
「なあ、だったら俺とチームを組まないか?」
「チームぅ?」
「ああ。この世界には俺たちみたいな力を持った殺人者と呼ばれている人間が複数いるんだが、そいつらは同じ考えを持つ者同士でチームを組んでいるんだそうだ」
「へぇ~、そうなんや。初めて聞いたわぁ」
メアリは口を開けぽか~んとしている。
殺人者という言葉自体初耳らしい。
「俺はお前の考えに賛同するし、お前は俺と一緒に行動したいんだろ。だったらチームを――」
「うん、組む組むっ!」
俺が最後まで言い切る前にメアリは声を上げ何度もうなずいた。
「うち、鬼束くんと一緒にいられるならなんでもええよ」
「そうか。じゃあ今から俺たちはチームだ。よろしくな、メアリ」
「はぁ~い。こちらこそよろしゅう、鬼束くん」
俺とメアリはお互いの目を見合いながら握手を交わす。
これでひとまずは俺の身の安全は保障される。
「あー、そうだ。お前のその喋り方どうにかならないか? ずっと気になっていたんだ」
「これなぁ、うち小さい頃あちこち転校繰り返しとったから変になってもうたんよ。だから堪忍して」
メアリは自分でも変な喋り方だという自覚はあったようで両手を合わせて俺を見上げた。
「まあいいけどさ。じゃあとりあえず今日はもう帰ってくれ」
「えぇ~」
「ほら、帰れ帰れ」
俺はメアリの背中を押すようにして玄関へと歩かせる。
チームを組むとは言ったが家に泊めるつもりなど毛頭ない。
相手が女子高生となればなおさらだ。
「そんな殺生なぁ――」
「はい、おやすみ」
俺は部屋の外へメアリを追いやるとドアを閉め鍵をかけた。
もう少し抵抗するものと思っていたが、チームを組むという約束をしたからかメアリは意外にもあっさりと帰ってくれた。
◇ ◇ ◇
翌日、君島法務大臣が六人目の死刑を執行したというニュースが早朝のテレビ番組で報じられた。
「そうやぁ」
メアリは返す。
俺はその言葉に動揺を隠せないでいた。
刑務所内にいるはずの死刑囚をどうやって……?
すると、
「もしかして鬼束くん、うちのこと信じてあらへんの?」
メアリが年の割に大人びた顔をぐっと寄せてくる。
「せやったら、やってみせたろか?」
「何?」
「ちょっと待ってなぁ」
言うとメアリはミニスカートのポケットからスマホを取り出して、なにやら操作し始めた。
三十秒ほどしてから、
「この人でええ?」
スマホの画面を俺に見せてくる。
そこには見知らぬ男が映っていた。
「誰だよ、そいつ」
「十年前に連続放火で捕まった死刑囚や。この人なら死んでもええやろ?」
「……」
勝手に話しを進めていくメアリに俺は眉をしかめる。
と、無言の俺を見てそれを肯定ととらえたのか、メアリは「シクソ」と呪文のような言葉を口にした。
「おい、今何やった?」
「即死呪文を唱えただけやで。今頃この人は死んでこの世から消滅しとるんとちゃうかなぁ」
「即死呪文……だと?」
「そうや。これまでの死刑囚たちもうちがこうやって殺したんやで。でもなんや法務大臣はんは自分の手柄にしとるようやけど」
メアリのこの発言で俺の頭の中で点と点がつながった気がした。
死刑執行に反対の立場を示していた君島法務大臣がなぜ突然死刑を執行し出したのか。
それは死刑囚が刑務所から消えたことを隠すためだったのだ。
死刑囚の姿が刑務所から消えたことで、死刑囚が脱獄したのではないかと刑務所内は騒然となったはずだ。
だが監視カメラを確認すれば逃げたのではなく文字通り消えたことがわかる。
その事実は君島法務大臣にも伝わっただろうから、君島法務大臣はやむを得ず死刑を執行したことにしてごまかしたというわけなのだろう。
「じゃあ……本当にお前がこれまでの死刑囚を全員殺したんだな」
「だからそう言っとるやないのぉ。明日になれば多分、この死刑囚の死刑が執行されたとかまたニュースになるんちゃう」
……ヤバいぞこいつ。
もしこいつの話していることがすべて事実だとするならば、こいつは遠隔で人を殺すことが出来るということだ。
もちろんそれは俺も例外ではないだろう。
「死刑囚がずっと生きてるのっておかしない? しかもそれうちらの税金やって言うんやから許せへんよなぁ。だからうちが殺したるねん……うち間違ったこと言ってへんよなぁ?」
同意を求めてくるメアリ。
大きな瞳で俺の目を覗き込んでくる。
「ああ。そうだな」
下手なことを言ってこいつを敵に回すわけにはいかない。
俺はメアリが望んでいるであろう受け答えをしてやった。
「よかったぁ~、鬼束くんにそう言ってもらえるとほんま嬉しいわぁ」
目を細めて微笑むメアリを眺めつつ、やはりこいつは今ここで殺すべきだろうかと思案する。
俺に対して警戒心を持っていない無防備な女を殺すくらいわけはない。
だがこいつは俺を恩人として見ているようだし、敵意がないのも伝わってくる。
そもそも俺を殺す気ならここに来る前にもうとっくにやっているはずだ。
「なあ、メアリ。訊いてもいいか?」
「なんやのぉ?」
「お前はこれからどうしたいんだ?」
俺は率直に訊いてみた。
「うち? うちは鬼束くんと一緒にこの世界から悪い人間をすべて排除したいんや。そんでもって平和な世の中にしたいと思うとるよぉ」
「そうか……」
相容れない存在だと思ったが意外と俺の考え方に近い思想を持っているようだ。
……こいつは殺すよりそばに置いておいた方が使えるかもしれないな。
「なあ、だったら俺とチームを組まないか?」
「チームぅ?」
「ああ。この世界には俺たちみたいな力を持った殺人者と呼ばれている人間が複数いるんだが、そいつらは同じ考えを持つ者同士でチームを組んでいるんだそうだ」
「へぇ~、そうなんや。初めて聞いたわぁ」
メアリは口を開けぽか~んとしている。
殺人者という言葉自体初耳らしい。
「俺はお前の考えに賛同するし、お前は俺と一緒に行動したいんだろ。だったらチームを――」
「うん、組む組むっ!」
俺が最後まで言い切る前にメアリは声を上げ何度もうなずいた。
「うち、鬼束くんと一緒にいられるならなんでもええよ」
「そうか。じゃあ今から俺たちはチームだ。よろしくな、メアリ」
「はぁ~い。こちらこそよろしゅう、鬼束くん」
俺とメアリはお互いの目を見合いながら握手を交わす。
これでひとまずは俺の身の安全は保障される。
「あー、そうだ。お前のその喋り方どうにかならないか? ずっと気になっていたんだ」
「これなぁ、うち小さい頃あちこち転校繰り返しとったから変になってもうたんよ。だから堪忍して」
メアリは自分でも変な喋り方だという自覚はあったようで両手を合わせて俺を見上げた。
「まあいいけどさ。じゃあとりあえず今日はもう帰ってくれ」
「えぇ~」
「ほら、帰れ帰れ」
俺はメアリの背中を押すようにして玄関へと歩かせる。
チームを組むとは言ったが家に泊めるつもりなど毛頭ない。
相手が女子高生となればなおさらだ。
「そんな殺生なぁ――」
「はい、おやすみ」
俺は部屋の外へメアリを追いやるとドアを閉め鍵をかけた。
もう少し抵抗するものと思っていたが、チームを組むという約束をしたからかメアリは意外にもあっさりと帰ってくれた。
◇ ◇ ◇
翌日、君島法務大臣が六人目の死刑を執行したというニュースが早朝のテレビ番組で報じられた。
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