41 / 118
第41話 達成感
しおりを挟む
門倉を殺した翌日の夜、佐々木さんから電話が来た。
門倉が無断欠勤したので会社の人間が連絡を入れたが一切音沙汰がないということで、もしかしてと思い俺に電話をしてきたということだった。
『あの、鬼束さんが何かしてくれたんですか……?』
「……」
俺は無言を貫いていた。
というのもせっかく殺人の証拠は何も残っていないのに録音でもされていたらまずいと思ったからだ。
『あの、もし録音とかを疑っているんでしたらしていませんから、大丈夫ですよ』
佐々木さんはそう言うが念のため俺は、
「……」
無言で返す。
『……わ、わかりました。では依頼料はどうすればいいですか? 成功報酬ということでしたけれど……』
「……」
あー、そういえば依頼料貰ってなかったな。
だがしかし、ここで俺がお金を受け取ると言うと門倉の失踪に自分が関わっていると認めるようなものだよな。
うーん……前金で受け取っておくべきだったか。
「……」
俺が後悔しながら沈黙を続けていると、
『じゃ、じゃあ最後に独り言を言わせてください……』
佐々木さんはそう前置きしてからこう言った。
『わたし、鬼束さんにとても感謝しています。本当にありがとうございました』
それから約十秒後、電話はぷつりと切れたのだった。
「感謝……されたのか? 俺が?」
佐々木さんは俺が門倉に何かをしたということにうすうす感づいているのだろう。
その上で俺に感謝の言葉を述べたのだろう。
人を殺して感謝されたことに戸惑うと同時に妙な達成感のようなものが俺の胸の中いっぱいに広がっていく。
俺のしたことは間違いなく悪だ。
少なくともついさっきまで俺はそう思っていた。
だが佐々木さんの穏やかな声を聞いた今となっては正直よくわからないでいる。
この世の中には殺人者である俺のことを必要としている人がいるのかもしれない。
そんなことをぼんやりと考えていた時だった。
ブウウゥゥーン……ブウウゥゥーン……。
スマホにメールが届いた。
誰からだろうと思いメールを開くとそこには新たな依頼主の名前と依頼内容が記されていた。
◇ ◇ ◇
俺がネットの掲示板に載せた文章もメールアドレスもとっくに削除してある。
それなのに新たな依頼メールが俺のもとに舞い込んできた。
依頼主は貝原久雄、三十一歳。
依頼内容は奥さんの浮気調査。
「そんなの、もっとまともな探偵事務所に依頼すればいいだろうに」
俺はそのメールを消去しようとするもその下に書かれていた文章を見て指が止まる。
依頼料:二十五万円
「二十五万っ、マジかよ……」
職を失い懐も寂しい俺にとって二十五万円はかなりの大金だった。
思わずごくりと唾を飲みこむ。
「浮気調査か……ちょっと尾行して写真撮るだけだよな」
誰にともなく口にすると俺は貝原久雄という人物がどこに住んでいるのか訊ねてみた。
すると一分もしないうちに[熊本県です]と返ってきた。
「熊本か~っ」
俺は天を仰ぐ。
あいにく俺は群馬県在住なので浮気調査は無理がある。
二十五万円は魅力的だが断るしかないか――
「って待てよ。千里眼使えばギリなんとかなるんじゃないか」
俺は思い立ち早速奥さんの名前と顔写真を送るようメールした。
するとまたも一分もしないうちに画像が添付されたメールが送られてきた。
「いいじゃん。いいじゃん」
その後貝原さんと数回メールのやり取りを済ませ契約は無事成立。
佐々木さんの時の失敗を生かして依頼料を前払いしてもらうことにも同意してもらった。
「それではお金が振り込まれ次第調査を開始いたしますっと」
最後の確認メールを送ると俺はベッドに寝ころぶ。
だがお金が振り込まれ次第とは言ったものの特にやることもないので、俺は貝原さんの奥さんの様子を試しに見てみることにした。
貝原さんの奥さんである貝原弘子さんの顔を思い浮かべながら、
「ンガリンセ」
と唱える。
そして目をつぶり動向を探ると、
「っ!?」
俺は驚きのあまり目を見開いてしまった。
「おいおい……嘘だろ」
貝原弘子さんは今まさに不倫の真っ最中だったのだ。
門倉が無断欠勤したので会社の人間が連絡を入れたが一切音沙汰がないということで、もしかしてと思い俺に電話をしてきたということだった。
『あの、鬼束さんが何かしてくれたんですか……?』
「……」
俺は無言を貫いていた。
というのもせっかく殺人の証拠は何も残っていないのに録音でもされていたらまずいと思ったからだ。
『あの、もし録音とかを疑っているんでしたらしていませんから、大丈夫ですよ』
佐々木さんはそう言うが念のため俺は、
「……」
無言で返す。
『……わ、わかりました。では依頼料はどうすればいいですか? 成功報酬ということでしたけれど……』
「……」
あー、そういえば依頼料貰ってなかったな。
だがしかし、ここで俺がお金を受け取ると言うと門倉の失踪に自分が関わっていると認めるようなものだよな。
うーん……前金で受け取っておくべきだったか。
「……」
俺が後悔しながら沈黙を続けていると、
『じゃ、じゃあ最後に独り言を言わせてください……』
佐々木さんはそう前置きしてからこう言った。
『わたし、鬼束さんにとても感謝しています。本当にありがとうございました』
それから約十秒後、電話はぷつりと切れたのだった。
「感謝……されたのか? 俺が?」
佐々木さんは俺が門倉に何かをしたということにうすうす感づいているのだろう。
その上で俺に感謝の言葉を述べたのだろう。
人を殺して感謝されたことに戸惑うと同時に妙な達成感のようなものが俺の胸の中いっぱいに広がっていく。
俺のしたことは間違いなく悪だ。
少なくともついさっきまで俺はそう思っていた。
だが佐々木さんの穏やかな声を聞いた今となっては正直よくわからないでいる。
この世の中には殺人者である俺のことを必要としている人がいるのかもしれない。
そんなことをぼんやりと考えていた時だった。
ブウウゥゥーン……ブウウゥゥーン……。
スマホにメールが届いた。
誰からだろうと思いメールを開くとそこには新たな依頼主の名前と依頼内容が記されていた。
◇ ◇ ◇
俺がネットの掲示板に載せた文章もメールアドレスもとっくに削除してある。
それなのに新たな依頼メールが俺のもとに舞い込んできた。
依頼主は貝原久雄、三十一歳。
依頼内容は奥さんの浮気調査。
「そんなの、もっとまともな探偵事務所に依頼すればいいだろうに」
俺はそのメールを消去しようとするもその下に書かれていた文章を見て指が止まる。
依頼料:二十五万円
「二十五万っ、マジかよ……」
職を失い懐も寂しい俺にとって二十五万円はかなりの大金だった。
思わずごくりと唾を飲みこむ。
「浮気調査か……ちょっと尾行して写真撮るだけだよな」
誰にともなく口にすると俺は貝原久雄という人物がどこに住んでいるのか訊ねてみた。
すると一分もしないうちに[熊本県です]と返ってきた。
「熊本か~っ」
俺は天を仰ぐ。
あいにく俺は群馬県在住なので浮気調査は無理がある。
二十五万円は魅力的だが断るしかないか――
「って待てよ。千里眼使えばギリなんとかなるんじゃないか」
俺は思い立ち早速奥さんの名前と顔写真を送るようメールした。
するとまたも一分もしないうちに画像が添付されたメールが送られてきた。
「いいじゃん。いいじゃん」
その後貝原さんと数回メールのやり取りを済ませ契約は無事成立。
佐々木さんの時の失敗を生かして依頼料を前払いしてもらうことにも同意してもらった。
「それではお金が振り込まれ次第調査を開始いたしますっと」
最後の確認メールを送ると俺はベッドに寝ころぶ。
だがお金が振り込まれ次第とは言ったものの特にやることもないので、俺は貝原さんの奥さんの様子を試しに見てみることにした。
貝原さんの奥さんである貝原弘子さんの顔を思い浮かべながら、
「ンガリンセ」
と唱える。
そして目をつぶり動向を探ると、
「っ!?」
俺は驚きのあまり目を見開いてしまった。
「おいおい……嘘だろ」
貝原弘子さんは今まさに不倫の真っ最中だったのだ。
10
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】
・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー!
十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。
そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。
その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。
さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。
柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。
しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。
人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。
そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【完結】投げる男〜異世界転移して石を投げ続けたら最強になってた話〜
心太
ファンタジー
【何故、石を投げてたら賢さと魅力も上がるんだ?!】
(大分前に書いたモノ。どこかのサイトの、何かのコンテストで最終選考まで残ったが、その後、日の目を見る事のなかった話)
雷に打たれた俺は異世界に転移した。
目の前に現れたステータスウインドウ。そこは古風なRPGの世界。その辺に転がっていた石を投げてモンスターを倒すと経験値とお金が貰えました。こんな楽しい世界はない。モンスターを倒しまくってレベル上げ&お金持ち目指します。
──あれ? 自分のステータスが見えるのは俺だけ?
──ステータスの魅力が上がり過ぎて、神話級のイケメンになってます。
細かい事は気にしない、勇者や魔王にも興味なし。自分の育成ゲームを楽しみます。
俺は今日も伝説の武器、石を投げる!
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる