上 下
174 / 270
 第20章 恨まれたサルビア

2007.密偵マリー

しおりを挟む
 私は、侍女が逃げ込んだ屋敷を調べることにした。

 屋敷は、2階建てで、1階には、台所、応接室、書斎があった。応接室には、侍女のマリーと3人の男達がこれからの事を話していた。

 私は、3人の男達にも、スキル鑑定で、調べてみた。すると、3人とも例のブローチを首から下げていることが分かった。

 おそらく、このグループは、全員あのブローチをを付けているのだろう。そして、リーダ的な男は更にもう一つ闇魔法の神具を付けていた。それを、腕輪のように右腕に嵌めていた。

 しかし、予想に反して、闇魔法を使える者は一人もいなかった。それどころか、光魔法も使える者がいなかった。

 リーダ格の男に指示が入ったようだ。

 「マリー、お前は、ムーンとかいう医師の所で働け。そして、何か情報を掴んで、報告するんだ」

 「分かりました」

 「それから、言っておくが、勝手な真似はするなよ。多少の事は我慢して、ムーンの所で、働け、分かったな」

 「それぐらい、分かってます。くどい」

 「いつも、お前は、反抗的だな。もっと、素直になれよ」

 「はい、はい」

 マリーは、荷物を持って、また、外に出て行った。おそらく、元の屋敷に戻るつもりだろう。

 私は、急いで、スキル探索で、神具の位置を調べ、その部屋に直行した。部屋の中には、神具が、3つ置いてあった。

 時間がないので、私は、その神具に描かれている魔法陣を控えて、急いで、マリーの後を追った。

 何とか、マリーより、先に屋敷に着くことが出来た。私は、隠密魔法を解除して、ナタ―シャの横に並んだ。

 「あら、ムーン、何時の間に戻ったのですか?」

 「ついさっきさ」

 暫くして、マリーが応接室に現れた。

 「お待たせしました。準備が出来ました」

 「遅かったな」

 ブルノン家の主人は、侍女のマリーを睨みつけた。

 「すみません」

 「それじゃ、行こうか」

 私とナターシャは、マリーを連れて、屋敷に戻った。屋敷の空いている部屋をマリーに使わせることにした。

 「マリー、この部屋を自由に使っていいよ」

 私が、マリーに注げると、マリーが聞き返してきた。

 「すみません。ムーン様、この部屋には、鍵が掛けれないのですが?」

 「うん、それがどうした? 鍵はないよ」

 「前の屋敷では、鍵付きの部屋に居たので、ここでも、同じだと思っていました」

 「そうか、じゃあ、辞めるか。そのまま、出て行っていいよ」

 「えっ、そんな。これから、どこへ行けばいいのですか?」

 「俺は、短気なんだ。文句を言うような侍女を雇う気はない。とっとと、出ていけ」

 「すみませんでした。決して、文句を言うつもりではなかったのです。どうか、機嫌を直して、置いてください」

 「面倒ごとは、嫌いなんだ。だから、出ていけ。何度も、言わせるな」

 私は、マリーの荷物を持って、玄関の外に放りだした。

 マリーが慌てて、荷物を取りに玄関を出た所で、玄関の鍵を掛けた。

 「ナターシャ、暫く、鍵を開けずに、放っておいてくれ」

 「はい、わかりました」

 マリーは、玄関先で、途方に暮れてしまった。

 「特に、我がまま勝手をしたわけではないのに。たった一言、質問しただけなのに。なぜ、こんな仕打ちをされないといけないの」

 マリーは、元の屋敷に戻る事も、隠れ家に帰ることも出来ずに、ただ、呆然として、玄関先に座っていた。

 私は、マリーを外に追いやって、書斎で、仕事を始めた。先ほどの神具の魔法陣を実際に3つの道具に描いて行った。

 1つ目の魔法陣は、「光魔法の封印」ができる。ただし、条件があるようだ。この神具が効果を発揮するためには、相手の意識があるとだめなようだ。そして、相手の光魔法のレベルが高いと跳ね返されるようだ。そして、直接、この神具を相手の身体に押し当てて使う必要がある。

 魔法を封じ込める神具だが、条件は結構厳しいものだ。

 2つ目の魔法陣は、「マナの吸収阻害」の呪いをかける物だ。魔法を使える者が、外界から、マナを吸収でき無くなれば、自然とマナ切れの状態になる。つまり、身体がマヒ状態となり、動けなくなってしまう。しかも、これは、遠隔でも掛けることができる。厄介なものだ。

 最後の3つめの魔法陣は、「スキル鑑定阻害」の効果がある。

 なるほど、光魔法の使い手には、効果が低そうだ。まして、サルビアが起きている間には、これらの神具といえども、掛けることが出来なかっただろう。そのために、予め、食事に薬を盛って、眠らせたに違いない。

 これまでの情報から、闇魔法や高度な光魔法を使える者の存在は極めて低いだろう。

 しかし、これらの神具を与えた者の存在は、危険だ。早く突き止めておく必要だある。

 「仕方がない、あのマリーを使おうか」

 私は、玄関に行き、マリーを応接室に招き入れた。

 私は、ソファに座り、マリーを立たせたまま、声を掛けた。

 「マリーと言ったか。ここで、働きたいのか?」

 「はい、ムーン様、ここで、働かせてください。お願いします」

 「だがな、俺は、短気なんだ。直ぐに、怒るぞ」

 「大丈夫です。私は、先ほどのようなことは、決して起こしません。お願いします」

 「俺の言うことは何でも聞くのか?」

 「はい、ムーン様、何なりとお申し付けください」

 「よし、分かった。そこまで、言うのなら、置いてやろう。早く、荷物を置いて、着替えて仕事をしろ」

 「ありがとうございます」

 マリーは、私に頭を下げて、2階の自分の部屋に荷物を運び、素早く着替えて、仕事を始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

処理中です...