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第十九話
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「……この床にある模様は、暗号か何かだったということか?」
「それは……分かりません。前神官長はアリアンナに聖女を引き継がせたあと、彼女が祈りの間にいる間は絶対に入るなと申し付けていました。私たちは、ぞれを疑問に思っていたのですが……今までの聖女様たちと比べ、異質すぎましたから」
「……隠し通路を通じて何者かと接触し、皇帝陛下の要望を満たしたと。しかし、それでどうやって雨を降らせるというのだ」
「アリアンナより前の聖女様は、日照りの際には祭礼を行っておりました。ヴェロミア様には、その方法を取っていただきたいのですが……」
「――お兄様っ!」
ダノアの話を遮るように、ヴェロミアの声が響く。令嬢としての豪奢な服ではないが、聖女としても似つかわしくない服を身につけたヴェロミアは、兄に駆け寄って縋り付いた。
「信じられません……っ、神官たちは、きっと私のことを馬鹿にしているんです!」
「どうした、ヴェロミア……話ならば聞くから、落ち着いて話してくれ」
「これから雨を降らせる祭礼を行うために、私に食事を極力取るなと言うのです。この祈りの間にこもって、何日も瞑想をしろと……今日だってずっとこの部屋に閉じ込められて、気が変になりそうです……!」
聖女の地位を願い、そのために父とルードを動かしたヴェロミアが、数日で神殿の生活に耐えることができなくなっている。
ルードは行き場のない衝動に駆られたが、それを妹に向けることはせず、別の方向に向けた。
「アリアンナ……北東の山中で姿を消し、帝都に向かったというが。あの女が、私たちを今も陥れようとしているのか……」
「え、ええ……きっとそうです。全てあの女、アリアンナが悪いのです……っ、彼女が今までの聖女と同じようにしていなかったから、私がこんな思いを……っ」
「ヴェロミア様……このまま祭礼を行うことができなければ、神殿の存在意義にも関わります。私たちが付き添いますので、どうか聖女のお務めを……」
ヴェロミアの胸に沸き起こるものは、アリアンナへの恨み言――そして、ここまでやってきても何をすることもできない兄に対しての憤り。そしてヴェロミアの望むものを与えなかった皇太子にも向いていた。
(どうして私がこんな思いを……あの女は逃げおおせて、今、私を笑っているんだわ……!)
ヴェロミアの瞳に、今までとは違う光が宿る。
今の地位を保つこと、皇帝から決定的な不興を買うことを避けること。そうしなければアリアンナの思い通りになってしまうと、ヴェロミアは自らの悪意を度外視して考える。
「……分かりました。しかしあなたたちの言う通りにして雨が降らせられなければ、そのときは……分かっているわね?」
「っ……ヴェロミア様……」
「見返りは十分に用意しよう。そのために前聖女を裏切ったのだろう? ダノアよ、お前ももう引き返すことはできない。分かっているな」
ルードは当面の問題が自らの責任を離れたとでも言うように、薄く笑みを浮かべて祈りの間を後にする。
ダノアはヴェロミアに声をかけられず、その場に立ち尽くす――アリアンナを謀略にかける協力をすることで得たものと、自分の置かれた状況の危うさを秤にかけて、ダノアは自らが大きすぎる過ちを犯したのだという事実に震え、祈りの間で見たアリアンナの、無心に祈りを捧げる姿を思い返していた。
「それは……分かりません。前神官長はアリアンナに聖女を引き継がせたあと、彼女が祈りの間にいる間は絶対に入るなと申し付けていました。私たちは、ぞれを疑問に思っていたのですが……今までの聖女様たちと比べ、異質すぎましたから」
「……隠し通路を通じて何者かと接触し、皇帝陛下の要望を満たしたと。しかし、それでどうやって雨を降らせるというのだ」
「アリアンナより前の聖女様は、日照りの際には祭礼を行っておりました。ヴェロミア様には、その方法を取っていただきたいのですが……」
「――お兄様っ!」
ダノアの話を遮るように、ヴェロミアの声が響く。令嬢としての豪奢な服ではないが、聖女としても似つかわしくない服を身につけたヴェロミアは、兄に駆け寄って縋り付いた。
「信じられません……っ、神官たちは、きっと私のことを馬鹿にしているんです!」
「どうした、ヴェロミア……話ならば聞くから、落ち着いて話してくれ」
「これから雨を降らせる祭礼を行うために、私に食事を極力取るなと言うのです。この祈りの間にこもって、何日も瞑想をしろと……今日だってずっとこの部屋に閉じ込められて、気が変になりそうです……!」
聖女の地位を願い、そのために父とルードを動かしたヴェロミアが、数日で神殿の生活に耐えることができなくなっている。
ルードは行き場のない衝動に駆られたが、それを妹に向けることはせず、別の方向に向けた。
「アリアンナ……北東の山中で姿を消し、帝都に向かったというが。あの女が、私たちを今も陥れようとしているのか……」
「え、ええ……きっとそうです。全てあの女、アリアンナが悪いのです……っ、彼女が今までの聖女と同じようにしていなかったから、私がこんな思いを……っ」
「ヴェロミア様……このまま祭礼を行うことができなければ、神殿の存在意義にも関わります。私たちが付き添いますので、どうか聖女のお務めを……」
ヴェロミアの胸に沸き起こるものは、アリアンナへの恨み言――そして、ここまでやってきても何をすることもできない兄に対しての憤り。そしてヴェロミアの望むものを与えなかった皇太子にも向いていた。
(どうして私がこんな思いを……あの女は逃げおおせて、今、私を笑っているんだわ……!)
ヴェロミアの瞳に、今までとは違う光が宿る。
今の地位を保つこと、皇帝から決定的な不興を買うことを避けること。そうしなければアリアンナの思い通りになってしまうと、ヴェロミアは自らの悪意を度外視して考える。
「……分かりました。しかしあなたたちの言う通りにして雨が降らせられなければ、そのときは……分かっているわね?」
「っ……ヴェロミア様……」
「見返りは十分に用意しよう。そのために前聖女を裏切ったのだろう? ダノアよ、お前ももう引き返すことはできない。分かっているな」
ルードは当面の問題が自らの責任を離れたとでも言うように、薄く笑みを浮かべて祈りの間を後にする。
ダノアはヴェロミアに声をかけられず、その場に立ち尽くす――アリアンナを謀略にかける協力をすることで得たものと、自分の置かれた状況の危うさを秤にかけて、ダノアは自らが大きすぎる過ちを犯したのだという事実に震え、祈りの間で見たアリアンナの、無心に祈りを捧げる姿を思い返していた。
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