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第3章

6話:うん、逃げよう

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 大聖堂に行った翌日。
 俺はエイシアスと一緒に街を散策していた。
 主に露店などでの買い食いだ。ここでしか食べられないものを食べる。
 それがいいのだ。

「なあ、面白い国とか、栄えている国とかないのか?」
「ん? お前さん冒険者か旅人か?」
「ああ。シーヴェリス王国から来て、次はどこに行こうかなと思ってな。おすすめがあれば聞いておきたい」
「あの国は今、王女様が王らしいな。おすすめの国か……」

 露店のおっちゃんに尋ねると、少し考えてから答えた。

「ならバルデリア帝国なんてどうだ?」
「バルデリア帝国か。どこにあるんだ?」
「お隣さんだよ。力を重視する文化あるんだよ。冒険者なら気になるだろ?」

 力を重視する文化。なんともらしいといえばらしい国だ。

「ほぉ、力を重視する、か。どのような文化か聞いても?」
「たくさん買ってくれた礼だ。その程度なら教えてやるさ」

 そう言って露店の店主はバルデリア帝国に関して教えてくれた。
 バルデリア帝国は、戦士や魔法使いとしての技術を高めることに誇りを持っており、それが原因で時折戦争や小競り合いに発展するそうだ。
 戦士としての技術や名誉が非常に重視され、若者は早くから武道を学び、戦闘のスキルを磨くことが求められる。戦士の間では、武器や防具に施された家紋や刻印が誇りの象徴とされ、家族や氏族の名誉を示すという。
 魔法の伝承もあり、古代から受け継がれた魔法の知識が重視され、特に元素魔法や召喚魔法に関する研究が進んでいるという話だ。
帝国には多くの魔法学校や研究機関が存在し、若者たちは専門の教師のもとで学ぶことができるらしいが、あまり興味はないな。

バルデリア帝国では年に一度、戦士たちの名誉を称える祭り『武神祭』が開催される。各地から戦士が集まり、武道の技を競い合い、優れた者には特別な称号が授与されるとのこと。
次の開催はそろそろらしいので、見学に行ってもいいかもしれないな。
 俺は戦士じゃないから多分参加しない。

 強さと名誉が重視され、弱者を助けることがあまり重視されず、弱肉強食の側面が強いという。
 貴族、戦士、一般市民の階層によって分かれ、貴族は政治的権力を握り、戦士はその名誉を守る役割を果たすという。
 なんともまあ、名誉とかは必要ないが、弱肉強食という点では俺好みの国だ。
 エイシアスを見ると同様のようで、次の行先はバルデリア帝国で決まりのようだ。

「串焼き、もう一本買っていく」
「まいど!」

 その場を後にして、エイシアスが俺に言う。

「次は帝国に決まったようだね」
「だな。弱肉強食の国か。楽しみだ」

 ワクワクが止まらない。
 そうと決まれば早々に出発しよう。
 そう思っていたが、街が少し騒がしく感じる。
 近くの露店でまた買い食いをしながら、店主に何が起きているのか尋ねた。

「ルミナ様からの神託で人探しだって」
「人探しの神託?」
「よくわからないが、黒髪の少年? を探しているらしい――って、あんた黒髪じゃないか」
「うん? たまたまだろ。そもそも俺は信者じゃない。観光客だ」
「そっか。なら違うか」

 店を後にして宿に戻り、エイシアスが俺に言う。

「主だと思うけど?」
「お前……何となくそんな感じがするが、まあ、無視でいいだろ」
「それもそうか。所詮は神託だ」
「だな~」

 のんびりダラダラしていると下の階が騒がしくなってきた。
 何やら声が聞こえる。

「ここの宿に黒髪の少年と白髪の女性がいると聞いた。どこにいる?」

 俺とエイシアスは顔を見合わせる。

「嫌な予感がするのは俺だけ?」
「いいや。私も同じだ」
「「……はぁ」」

 大きな溜息が出てしまう。
 面倒なことは勘弁願いたい。

「……逃げるか」
「……逃げようか」

 俺とエイシアスは同時に呟いた。
 階段から足音が聞こえる。気配からして宿屋の少女のものだ。
 騎士が来ているからと呼びに来たのだろう。
 もう少しこの街を楽しみたいので、逃げながらのんびりするとしよう。
 俺とエイシアスは顔を見合わせて頷いた。
 コンコンコンとノック音がする。

「テオさん、エイシアスさん。騎士の人が探しているみたいですけどいますか?」

 反応がなく、少女は「入りますよ?」といって扉を開けた。
 部屋に俺とエイシアスはいない。
 窓が開いて、風が入り込む。それを見た少女は呆然と呟いた。

「に、逃げた……」
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