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第1章

26話:シーヴェリス王国に向けて

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 シーヴェリス王国に旅立つために一日を準備に費やした翌日の早朝。
 城門にて王家とエヴァレット公爵家の面々に、世話になった人たちが見送りにやってきていた。

「大勢で見送りに来なくても……」
「テオ様は国賓ですから」

 イスティリアの発言に俺は「国賓?」と首を傾げる。
 いつの間にか国賓になっていた。

「色々と世話になったのだ。近郊の魔物討伐も請け負ってくれた。本当は国賓以上の待遇をしたいがな」

 レオルドがそう言ってくるが、これ以上待遇を良くされては申し訳ない気持ちが大きくなってしまう。
 屋敷までもらっており、いとど見たがめちゃくちゃ大きかった。
 管理は王家とエヴァレット公爵家で請け負ってくれるとのことだ。

「エイシアス様、鍛えてくださりありがとうございました」
「私からも、本当にありがとうございました」

 イスティリアとリディアがエイシアスにお礼を伝える。
 エイシアスとしては暇つぶし程度のつもりだったのだろう。それでもしっかりと教えている辺り、可愛がっていたのだろう。

「うむ。まだまだ未熟だが、これからも鍛錬は続けるようにな」
「「はい!」」

 レオルドも同様に俺にお礼を言ってきた。

「テオ殿、鍛えてくれてありがとう。私だけじゃない。騎士団も一段と強くなった」
「そうか。次来た時は今より強くなっておけよ? 確認するからな」
「忘れない」

 俺とレオルドが握手を交わす。
 俺にとってレオルドは友人とも呼べる存在だ。何かあれば助けるだろう。

「テオ殿、いつでも戻って来るといい。我が国はそなたをいつでも歓迎している。これを受け取るのだ」

 そう言ってエルセリオスが懐から短剣を取り出して俺に渡す。
 受け取ったそれを確認すると、王家の家紋が鞘に彫られていた。

「この国でテオ殿の身分を王家が保証する証だ。受け取ってくれ。他にも便宜を図ることができる」

 一枚の羊皮紙が渡される。
 見るとこの短剣で出来ることが書かれているので、後で読むことにしよう。

「助かる」

 他にも色々な人から感謝の言葉を聞き、俺とエイシアスがみんなに背を向ける。

「赤丸」

 一言、名前を呼ぶ。名前を呼ばれた赤丸は俺の意図を察して空に飛びあがると、小さかった身体が本来の大きさへと戻った。
 雄大で畏怖の念を抱くドラゴンが王都の上空に顕現した。
 そして、俺はエイシアスの手を取り赤丸の頭へと飛び乗る。

「それじゃあ、次の国に遊び行こうか」

 王都を旅立つのだった。
 ここからシーヴェリス王国との国境まで馬車で三週間。
 そこから港町があるヴァルミス港まで馬車で四週間。
 二カ月近くの旅路になるが、俺たちには赤丸がいる。空で移動すれば一週間はかからないだろう。
 俺とエイシアスは、赤丸に乗ってまずは国境へと向かうのだった。

「最初が良い国で良かったな」
「うむ。悪くない国だった。旅が終わればこの国に住むのか?」
「だな。せっかく屋敷をもらったし」

 もらったのに住まないというのは悪い気がする。
 エルセリオスは別に住まなくてもいいと言っていたが、内心では住んで各国が攻められないようにしたいのだろう。
 別にいいけどね。世話になるならそれくらい構わない。

「ゆっくり暮らすのも悪くないな」
「じゃな」

 のんびり空の旅をしていると、前方から小さな群れが飛んできた。
 アレは王国に滞在中、時々被害を出していたワイバーンの群れだ。
 俺が何かを言う前に、赤丸が口を開いてワイバーンの群れを喰らってしまった。
 多分あれだ。お腹が空いていたのだろう。
 逃げようにも魔法で逃げ道を塞がれたうえで捕食された。
 赤丸は優秀だね。
 しばらく代わり映えのしない景色が続き、街が見えてきた。

「あそこで一泊するのか?」

 それもいいけど国境にも街があるので、そこまで飛び続けてもいいだろう。

「いや。国境にある街で一泊かな。それまでは飛び続ければいいだろ。赤丸、大丈夫そうか?」
『ギャウ!』

 問題ないようだ。

「ならそうするか」

 そんなこんなで翌日には国境まで到着し、一泊休んだ後にシーヴェリス王国へと入国した。
 そこから数日飛び、ヴァルミス港が見えてきたのだった。
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