SENGOKU-2

福澤賢二郎

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拾参 遠江

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《酒井直次》
酒井忠次は山県昌景を始め、武田軍の全員を解放した。
武田信玄から書状が届き、山県らを解放すれば、同盟を結ぶという内容だったらしい。

主君である徳川家康は遠江への遠征を即断して、軍を進めた。
そして、二日前から吉田城に徳川家康が来ている。
城下町の盛り上がりが凄いとの事だ。
まあ、俺には関係ない事だ。

昼から屋敷の庭にて七海と槍の稽古をしている。
これは俺が好きでやっている訳じゃない。

「直次様、行くぞ」

「来るな」

素早い槍の突きが飛んでくる。
何とかかわす振りをして、フラフラして後ずさる。

最後は上手い様に喰らって吹っ飛んだ。

「七海は強いな。俺には武術は向いてないようだ」

「何を言う」

「その通り!」

デカイ男の声が響く。
その声がした方を見ると馬鹿でかい。
年齢は俺と同じような感じだ。

「あんたは?」

「俺様は本多忠勝だ」

「ここには何の用だ?」

「酒井殿の武将は弱い者しかおらず、飽きていると、ここを教えてくれた」

「誰が?」

「酒井家次殿からだ」

家次かよ。
面倒くさいのをよこすなよ。

「で?」

「その槍を持った女が荒木村重の娘である七海殿だな」

七海が笑顔で応える。

「そうだ。私が荒木七海だ」

「顔と槍術は絶品だが、言葉使いが良くないな。嫁に行けんぞ」

「行くつもりも無い」

俺はびっくり。

「行かないのか?」

七海は俺の首元を掴み、睨む。

「行って欲しいのか?」

「い、いや、ずっと、いるのか?」

「ずっと、おる」

「そうか」

また、馬鹿デカイ声だ。

「面白い。荒木七海を遠江遠征に推薦する」

七海は本多忠勝に近寄る。

「お前は何を言っているんだ?」

「じゃあ、またな」

本多忠勝は大笑いして出て行った。

翌日、酒井忠次から荒木村重が呼び出されて遠江への遠征組に追加召集された。
勿論、七海も父親について行く事になった。

出立の時、玄関から村重と七海を城に残った者で見送った。

「七海、無事に帰って来い」

「直次様を一人にするわけにいかないからな」

七海からは熱く見つめられ、何故か変な気持ちになる。

「村重、七海、行って来い。必ず、無事に戻ってこい」

二人は四千の兵を率いて出陣した。
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