SENGOKU-2

福澤賢二郎

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陸 花の如く

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《酒井直次》
花見が盛り上がり、三刻ほど過ぎた頃。
西郷清員が立ち上がった。

「直次殿、私は過ごし飲み過ぎたゆえ、これで失礼します。今日はとても楽しい時をすごせました」

「こちらこそ。見送ろう」

俺は立ち上がろうとした。
清員はそれを制す。

「お構い無く、ここでもう少し美女とお酒を楽しんで下さい」

「では、お言葉に甘えて」

西郷清員はまっ赤な満面の笑顔で会場を後にした。
残ったのは佐吉を除くと八人の男と女二人。
しばし、酒を飲んで時間を過ごした。
周辺は俺達しかいなくなっていた。

もう、わかっていた。
ここで俺を殺すつもりだと。

「さあ、俺も帰る」

八人の男達が一斉に剣を抜いた。
女は驚き、出口に向かって走り出した。
男が女を斬る。
これからここで起こる出来事は絶対に漏らさせないつもりらしい。

「おい、ここの親玉は誰だ?」

一人の男が口を開いた。
歳は三十後半ぐらいか。

「私だ。井伊直近という」

「あんたは暗殺されたはずでは?」

「お前が知る必要は無い。ここで死ぬのだから」

「なあ、頼みがある。俺は死んでも良いが佐吉は助けてくれないか」

「すまん。出来ん相談だ」

「仕方ない。そうであれば、俺も簡単に死んではやれない」

「殺れ」

俺は刀を抜く。
八人が一斉に襲いかかってくる。
後悔するなよ。

囲まれてはいけない。
素早くすぐ左の男に向き、飛び込み様に刀を横に一閃。
上半身と下半身がズレる様に崩れ、地面に転がった。
血が勢い良く吹き出し、地面を染めていく。

俺は振り替える。

余りの出来事で敵の足が止まった。
それはそうだろう。
刀で人を真っ二つに切断するなど、そうそう出来るものでは無い。
それに、遊び人、ロクデナシなどと言われている俺を殺す事なんて
容易いと思っていたに違いない。

まさに敵にとっては想定外。

「お前ら、生きて帰れないぜ」

井伊直近が前に出る。

「下がっていろ。私が殺る」

「鬼の直近。期待を裏切るなよ」

「ロクデナシはロクデナシとして死んでもらう」

「お前に出来るか」

「やってみせるさ」

直近が突撃してくる。
突きだ。
刀の先が目の前に迫る。
俺は半身ずらしてかわして刀を斬り上げる。
直近の右脇から血がぱっと散る。
そのまま、すれ違う。

直近は苦痛を堪える表情で刀を正面に構えた。
俺はダランと刀を下げて近づく。
構えなど無い。
ただ、ただ、鍛え上げた肉体を駆使して刀を振るのみ。

「き、貴様、構えろ」

「不要」

一気に踏み込み、跳んだ。
直近は全く反応出来ない。
そのまま、刀を胸に突きさして、直ぐに抜く。
続いて喉を突く。
後方へふらつく直近。
刀が喉から抜ける。

「直虎、ここに怪物がおったぞ」

掠れた声で直近が俺に言う。

「さらば、井伊直近」

俺は右肩から左脇へ袈裟斬りをした。
直近の上半身が宙へ飛び、まっ赤な花びらが散る様に血が舞う。

残りの男達に向き直る。

「次は誰だ」

男達は一斉に逃げ出した。
俺は追いかけて斬りつける。
誰一人、逃がす事は出来ない。

佐吉だけは笑顔で酒を飲んでいた。
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