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駆の章

後半戦

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《空山隆之介》
後半が始まった。
スペインの総攻撃が始まると思っていたが、イニエスタは攻めて来ず、城戸のマークについている。
スペインは後方でボールを回しているだけだ。
俺はフォワードのアカサのマークにつく。
「おい、ソラヤマ、こんな所にいてもボールは来ないぞ」
「どうしてだ?」
「まだ、俺達は一点リードしている。無理して攻める必要は無い」
その時、スペインのディフェンダーのパスが少しずれた。
大海信吾は見逃さない。
すかさず、パスカットして攻撃に転じた。
「おい、お前は攻めなくて良いのか。負けてんだろ」
「お前に言われなくても上がるさ」
俺はサイドから駆け上がる。
何か変だ。
イニエスタのマークを外し、城戸は大海の後ろから追い越す様に前に出た。
大海は敵に囲まれ、城戸にボールを出す。
ペナルティーエリア内だ。
シュートを撃とうとしたが、イニエスタが城戸の前に立ち塞がる。
城戸はドリブルで勝負をしかけた。
左、右とフェイントをかけて最後は右から抜こうとした。
次の瞬間、城戸はつんのめる様に前に転げている。
イニエスタが足を出してボールを押さえていた。
ニヤリとイニエスタが笑った。
ヤバイ、戻らないといけない。
日本は前のめりになっていた。
イニエスタは強烈なパスで中盤に残っていたランディにボールを送る。
ランディはトップスピードに乗って日本の中盤を置き去りにして駆け上がる。
センターバックの昌司がボールを取りにいくが、左前にボールを蹴りだされた。
それを受けたのが赤いキャノン砲のアカサだ。
俺に舌べらを出して駆け出した。

ヤバイ。俺は必死に戻る。

アカサは足を振り切った。
強烈な弾丸シュートが放たれ、キーパーも届かない。
やられたと思った。

ガン!

クロスバーに弾かれゴール前にボールが転がる。
そのボールにランディが詰めていく。
俺はスライディングしてボールを蹴りだした。
ランディが俺を見下ろしている。
「な、なんでお前がここにいるんだ。前線にいただろ」
ゆっくりと立ち上がる。
「俺は諦めが悪いんだ」

この攻撃から日本も容易に攻められなくなる。
あと二点必要なんだ。

《中澤裕太》
コートサイドに設けられている関係者コーナーで試合の取材を兼ねて観戦している。
中澤は空山のプレーを見て無意識に拳を握って興奮していた。
隣にいたスペインのスポーツ紙記者も中澤の肩を握って話しかけてくる。
「な、なんなんだ。ソラヤマの速さは信じられない」
「俺だって知りたい」
空山隆之介の可能性に心が騒いでいる。

《宇垣悠里》
興奮していた。
欧州サッカーを良く見ているが、あの速さは世界で通用すると思った。
そして、立ち上がった時の空山隆之介の熱い表情が胸を締め付ける。
‘’決して諦めない‘’そんな思いが溢れだしている。
感動して涙が溢れてくる。

《桐谷里帆》
里帆は思わず喜びの声を上げていた。
「隆之介、君の力はまだまだあるはず。この試合に勝って世界を驚嘆させろ」
執事の濱本麟太郎が里帆に話しかける。
「今のプレーでも世界は驚いたと思います。誰も追いつけるはずがなかった。凄いディフェンダーです」
「ディフェンダー?隆之介にディフェンダーの意識は無いと思うよ。経営学の天才なんだから」
「経営学?サッカーに関係ありますか」
「見ていればわかるよ」
里帆はグランドに視線を戻した。

まだ、やれるはず。
君は駆くんが認めたただ一人のライバルなんだから。
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