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駆の章

勝負の地

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《中澤裕太》
日本代表の一団は勝負の地であるバルセロナに移動。
中澤もそれを追うようにバルセロナ入りをした。
タクシーで市街地を走る。
空山隆之介については監督である西島もあまり情報をもっていない。
異常だ。
日本も大騒ぎらしい。
なんせ、ガーナ戦で衝撃を与えた空山隆之介は何者なのか誰も知らないのだ。
開会式が行われるエスタディオ.サンディアゴ.ベルナベウ.スタジアムに着いた。
ここで空山隆之介の事を知っている大会関係者に会う事が出来るようになっている。
中澤は関係者としてピッチまで通してもらえた。
そこには友人でもあるスポーツ記者のペレスともう一人いた。
「こんにちは中日スポーツの中澤と言います」
「こちらはフランス代表コーチのアラン.ジャルダンだよ」
「宜しく」
アランと呼ばれと男と握手した。
年は五十ぐらいで中澤より少し年上に見える。
「あなたは何を知っているですか?」
「子供の頃、彼らにサッカーを少し教えたんだ」
「そうなのか?」
「ああ。だが、駆が選ばれない事が不思議だよ」
「駆?」
「そうさ、谷山駆さ」
「だれだ?」
「才能に溢れた子だった」
アランは懐かしそうに当時の事を教えた。

《宇垣悠里》
ワールドカップの放送のゲストとして女優の宇垣悠里は抜擢された。
理由は簡単。
主演ドラマが大ヒットして、その際にサッカー大好きをデビュー当時からアピールした結果だった。
女性向け雑誌では今をときめく二十二才として紹介されている。
日本では知らない人はいないというぐらい知られているという自負はある。
悠里は一時間後の開会式の後で行われるオープニングゲームを考えると楽しみで仕方ない。
スタジアムの入口でもうすぐ始まる放送を待っていた。
日本は死のグループと言われるDグループとなっている。
サッカー雑誌を拡げて再度、内容を確認した。

【Dグループ】
 1.スペイン
 2.アルゼンチン
 3.ナイジェリア
 4.日本

予想はイニエスタ.アドレーが率いる無敵艦隊スペイン、サッカー界の至宝であるレオン.メッシーが率いる優勝候補アルゼンチンが決勝トーナメントに行くだろうと誰もが予想している。

スタッフの人が悠里に声をかけた。
「放送が始まります」
「わかりました」
雑誌をスタッフに渡して、背中をシャンと伸ばした。
さあ、ワールドカップが始まる。

放送のMCは人気タレントの大居正広が務める。
「みなさん、今晩は。さあ、間もなくスペインで行われるサッカーワールドカップの開会式が始まります。現地には超サッカー好きの宇垣悠里ちゃんが行ってくれています。悠里ちゃん、現地どう?」
「宇垣悠里です。バルセロナのホームであるエスタディオ.サンディアゴ.ベルナベウ.スタジアムの前にいます。現地は大盛り上がりで各国のサポーターが集まってきています。当然ですが、スペインのサポーター達は特に熱狂しています。もう、待てないという感じです」
「今晩、スペインと日本が対戦するんだけど勝てると思う?」
「かなり厳しい試合になると思います。特にイニエスタはリーグ戦でも調子が良く、ハットトリックを達成すると言っています」
「イニエスタか~。あの選手、凄いもんね。シュート、パスが一級品なんだよな。あと、一番良いのはチームを引っ張るもんね。悠里ちゃん、ありがとね。引き続き、お願いします」
映像は日本のスタジオに戻り、大居正広がゲストを紹介しながら話を展開していく。
さすが、日本一と言われるMCだ。
悠里は次の中継に備えてスタジアムの中へ移動した。

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