OKUDAIRA

福澤賢二郎

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奥三河

3.鬼

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《僕》
僕は奥平の家を追い出され、豊根村へ連れて来られていた。
山深いところで鬼の棲みかと言われいる。
どこにいても地獄。
でも、一つだけ希望が持てる。
父である貞能が出発時にくれた言葉がある。

“誰よりも強くなれ。強くなれなければ死ぬしかない”

二十件ぐらいの家が集まり、その中心に大きな屋敷がある。
そこが、榊家で鬼達の棲みかである。
僕はそこの中庭は広く、訓練場が設けられていた。
榊の主と家来達がずらりと縁に並び見ている。
主は凄い鋭い眼光と深いしわが刻まれており、少し怖い。
家来の人は体が大きく、顔には鬼の仮面を被り、黒い鎧を身に付けていた。
「奥平将直、今から鬼としての適正を見る。好きな武器を持て」
「はい」
横に大小の木刀、槍、弓などが置かれていた。
僕は木刀を手に取り、軽く振ってみる。
手になじむ。
「これにします」
「弥生、相手せよ」
鬼の仮面を付けた女が目の前に立つ。手には木刀を持つ。
背は僕と同じぐらい。
「将直、この女はお前と同じ歳の鬼だ。勝ってみせよ」
「はい、わかりました」
木刀を正面に構えて、少しずつ間合いを詰める。
女の鬼は立ったまま、動かない。
僕は一気に突っ込んで突きを放つ。
女は軽く首を捻ってかわして、逆に溝尾を木刀で突かれた。
地面を転がった。
嘘だろ。
苦しさ、痛み、悔しさから涙が溢れてくる。
「泣くのは早いわ」
女は叫びながら、顔面を蹴り飛ばした。
僕の鼻から血が飛び散る。
続けて頭を打たれる。
何も出来ない。
立ち上がろとしたところ、すかさず足を蹴り飛ばされて派手にひっくり返った。
そのまま、腹に蹴りが入る。
地面をのたうち回る僕。
「さあ、立ちなさい」
「僕は何の為に君に打たれないといけないんだ」
「あなたは馬鹿なの。殺すか殺されるか。それが鬼の宿命。理由なんて無いし、必要ない」
くそー。
僕は足に力を込めて立ち上がる。
「じゃあ、殺されても文句を言うなよ」
「偉そうに」
「うおおおおお」
僕は木刀を頭上にかざして、力一杯に振り下ろした。
女の鬼は体を僕の剣筋から外して、そのまま、僕の股間に木刀をうち据えた。
目が飛び出そうな程の激痛。
立っていられず、木刀を落として地面に倒れた。
涙が溢れてくる。
主を初め、家来達も笑っている。
女の鬼が近づいてきて、見下ろしていた。
鬼の仮面を取る。
「あんた、鬼になるのを諦めた方が良いよ。才能が無い」
同じ歳の女も馬鹿にするように見下しているかと思っていたが、違った。
とても悲しそうな表情をしていた。
僕はそのまま、気を失った。
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