四人の勇者

福澤賢二郎

文字の大きさ
上 下
8 / 44
第二領の勇者

7.暗闇の雨の先

しおりを挟む
《天野翼》
五百騎を引き連れて雨降る暗闇を進んだ。
どこをどう進んだのだろう。
完全に迷っている。
今は森の中を闇雲に進んでいた。
隣を進むアリスを見ると疲れた表情をしている。
寒さで少し震えているようだ。
俺に気付き、こちらを見て優しく微笑む。
「ツバサ様、疲れていませんか?」
「疲れているのはアリスだろ」
僕のせいだ。
マントを外して、アリスにかけた。
「ごめんな。少しは寒さをしのげるかな」
アリスが僕の手を握る。
「ありがとうございます」
ファンが凄い顔をして覗きこんだ。
(手を握る必要ないよね)
僕はゆっくりと手を引く。
「さあ、進もう」
五百騎は雨降る森の中。
雨音が全てを消していた。

暫く進むと崖っぷちに出くわした。
そして、眼下には魔王軍の陣があった。
食事中だろうか。
肉を焼いてかぶりついている。
その中に呂布と戦っていたデカイ奴がいた。
鉄の兜を外しており、獅子の様な顔をしている。
隣で浮かぶファンに尋ねた。
「昼間の奴だよね」
(そうだね。ケンタウロス系の怪物。名前は確かデロン)
「逃げるつもりが、本陣に来ちまった」
(運が悪いね)
「アイツが魔王?」
(アイツはケンタウロス系の怪物で魔王では無いよ。ただ、めちゃくちゃ強いよ)
「魔王を見た事あるのか?」
(一回だけ)
「そうか」
(これからどうするの?)
「戻れるかな」
(今ならね)
その時、ホクトの足元の崖が崩壊し始めた。
なんで、このタイミングなんだよ。
ホクトは転ばない為に崖を駆け始めた。
待った。待った。
このままだと敵の本陣に突っ込んじゃうよ。
後ろでアリスの声が聞こえる。
「全軍、ツバサ様に続け!攻め込むぞ!」
ち、違うよ。
ホクトは速度を上げて駆け降りる。
ホクトも違う。違うよ!止まって戻れ。
僕は落とされないように必死に手綱を握る。
大きくジャンプした。
もう、無理。
俺は手綱を持っておられず、空中に投げ出された。

うわあーーーー

どんどん、デロンが近づいてくる。

デロンの頭に激突した。
怪物は驚き、立ち上がる。
頭からずり落ちる。
思わず、腰のショートソードを抜いて突き刺した。
血が吹き出すと同時に叩き落とされた。
全身に痛みを感じて地面に転がる。
立ち上がってデロンを見ると、右目にショートソードが突き刺さっている。
そこを手で抑えてフラフラしながら叫んでいた。
その叫び声が暗闇に響き渡る。
そこにアリス達が攻め込んできて、魔王の兵を次々と切り伏せていく。
敵群は一気に大パニックになっていく。
同士討ちが始まった。
その中を必死にアリスと仲間が戦う。
僕は守られていた。
何も出来ない。
弱いからだ。
ファンが僕の耳を引っ張る。
(見なさい)
ファンが指した先には辛うじて立っているデロンがいた。
「デロンは死にそうだ」
(契約を結びなさい)
「どういう意味?」
(側に行ってデロンと契約するの)
「殺されるよ」
(そうだよ。このままだと皆、死ぬの!君のせいで死ぬの!)
僕は周りを見る。
次々と魔物達のパニックに巻き込まれて殺される仲間、必死に僕を守ろうと帰り血を浴びて戦うアリス。
(みんな、死ぬの!あなたの力が無いから死ぬの)

嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。

デロンに向かって駆けていた。
「ツバサ様!」
僕を止めるアリスの声が聞こえる。
「デロン、僕と契約しろ!」
右目に突き刺さった剣の毒が全身に周り、今にも死にそうな状態だ。
残った左目で俺を睨む。
こわっ
ファンがしゃべりだす
(デロンよ、お前はこのままだと死ぬ。毒で犯された魂は全て無にされ消滅する)
『俺様が消滅』
(そうだ。ただ、復活する希望はある)
『どんな方法だ?』
(この者と契約し、この者の力と成りて生きる事だ)
『ふざけるな。人間ごときに屈するものか!』
(そうだ。この者と契約した後、お前がコヤツを乗っ取れば良い。そうすれば、デロンの復活だ)
『そんな事が ぐっ』
デロンが吐血して、片膝をつく。
(ツバサ、契約を結べ)
「どうやって」
(言葉だけで良い)
「デロン、契約をしよう。僕が魔王を倒すまで僕の力となれ。その後でお前が僕を支配する事が出来れば、お前は魔王を越える覇王となれる。どうだ!」
『魔王を越える覇王だと。面白い。契約しよう。だが、忘れるな。目的を達成した後はお前を喰らい、俺様が覇王となる』
「お前に出来ればな」
(さあ、ツバサ、デロンを食らえ)
「えっ?」
(早く)
「生で?」
(そうだよ)
僕はデロンに飛びついて首元に登った。
「力を貰うよ!」
デロンの首元に噛みついた。
そして、肉を裂いて、噛みきり飲み込んだ。
デロンはうつ伏せにゆっくりと倒れた
(契約は完了)
僕は口元についた血を拭った。
吐きそう。
魔王の兵は戦いを止めて、僕に膝まついた。
コイツらは魔王の兵ではやく、デロンの兵だったんだ。
『消えろ!』
兵士達は地面に吸い込まれるように消えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹を見捨てた私 ~魅了の力を持っていた可愛い妹は愛されていたのでしょうか?~

紗綺
ファンタジー
何故妹ばかり愛されるの? その答えは私の10歳の誕生日に判明した。 誕生日パーティで私の婚約者候補の一人が妹に魅了されてしまったことでわかった妹の能力。 『魅了の力』 無自覚のその力で周囲の人間を魅了していた。 お父様お母様が妹を溺愛していたのも魅了の力に一因があったと。 魅了の力を制御できない妹は魔法省の管理下に置かれることが決まり、私は祖母の実家に引き取られることになった。 新しい家族はとても優しく、私は妹と比べられることのない穏やかな日々を得ていた。 ―――妹のことを忘れて。 私が嫁いだ頃、妹の噂が流れてきた。 魅了の力を制御できるようになり、制限つきだが自由を得た。 しかし実家は没落し、頼る者もなく娼婦になったと。 なぜこれまであの子へ連絡ひとつしなかったのかと、後悔と罪悪感が私を襲う。 それでもこの安寧を捨てられない私はただ祈るしかできない。 どうかあの子が救われますようにと。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)電子書籍発売中!
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

英雄になった夫が妻子と帰還するそうです

白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。 愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。 好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。 今、目の前にいる人は誰なのだろう? ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。 珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥) ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。

処理中です...