四人の勇者

福澤賢二郎

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第二領の勇者

6.魔物

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《天野翼》
丘を降りて自陣に戻る。
そこでは目覚めた魔王の兵が鎖で繋がれ暴れていた。
僕に向かって何か吠えている。
さっぱり、何を言っているかわからない。
アリスが側に来る。
「ツバサ様、彼は何を言っているかわかりませんが、目覚めてからずっと興奮状態にあります」
「そうか」
繋いでいた鎖の一本が千切れて、魔物の手が僕に向かって伸びてくる。
うおー、殺られる。
その時、横からナイフが飛んで来て魔王の兵の脇腹に刺さった。
すると、魔王の兵は力が抜けた様に膝まついた。
意識が途切れそうになっている。
ナイフを投げたのはサイラスだった。
「サイラスさん、何をしたんだ?」
「ザルツの毒を薄くナイフに塗っておきました」
「凄い効き目だな」
「ツバサ様、これをどうぞ」
サイラスが腰からショートソードを外して差し出した。
「これは?」
「たっぷりとザルツの毒を塗った剣です。魔物と戦うのであれば持っておいてください」
「ありがとう」
僕は魔物に近づき、兜を無理矢理に剥ぎ取った。
悲鳴とベリベリと嫌な音がした。
緑の肌、極端な鷲鼻、黄色の眼球に細い黒目。
明らかに人間と異なる。
何か言っているが、意味はわからない。
(うん、うん、うん)
隣でファンが頷いている。
小さな声でファンに尋ねた。
大きな声だとファンが見えない人からはおかしな人と思われてしまうから。
「何を言っているかわかるのか?」
(少しね)
「訳してくれ」
(お前達はみんな死ぬ。魔王が来るぞ)
「北の魔王の事?」
ファンが通訳する。
(そうだって)
魔物は意識が無くなった。
「死んだのか?」
(そうみたい)

ヤバイな。
「アリス、呂布は?」
「少し、陣を下げたようです」
「僕達も撤収だ。三十分後に出発する」
一気に騒がしくなる。
僕はホクトに乗り、谷の入口を見ていた。
静かなもんだ。
ファンが僕の膝と膝の間に挟まれるように座る。
「な、なんだ?」
ファンの顔が近い。
小さな胸だけど、胸元の谷間が気になる。
(な、何をみてるの!エッチ)
「な、なんだよ。こんなところに座るからだろ」
(少しし怖いから)
「素直にそう言えよ」
僕は優しく抱き締めた。
感触はないけど。
(ありがと)
「これからどうしようかな?」
(逃げようか)
「えっ?」
(君以外に三人も勇者がいる)
「そうだけと」
(君に勇者は似合わない)
「そうだよね」
雨が激しくなってくる。
完全なる夜の暗闇が来ていた。
アリスが馬を駆けさせて隣に来た。
「ツバサ様、準備が出来ました」
「ありがとう」
「さあ、どこまで下がりますか?」
「とことん、逃げようか?」
「えっ?」
「さあ、行くぞ!ついてこい!」
雨の中、濡れながら暗闇を進む。
明るい未来を信じて。
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