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KARTE 3:松山大輔
懐かしい友人
しおりを挟む《石垣由依》
麻酔科医の事務室で科長の西島紀之に呼ばれた。
「内科の柄本が内視鏡による手術をするそうだ。打合せに行ってくれ」
「なんか突然ですね」
「内科だから、手術の大変さをあまり知らないのさ」
「わかりました」
石垣由依は内科病棟に向かった。
正面から赤城拓哉が歩いてくる。
おそらく回診だろう。
「赤城、おはよう」
「おはようごさいます」
そのまま、すれ違っていく。
なんてよそよそしいんだ。
少し腹が立つ。
石垣由依はムカムカして柄本のもとに向かった。
《赤城拓哉》
午前中の回診が終わり、食堂でテレビを見ながら柄本と一緒に昼食をとっていた。
正面に誰かが座る。
顔を向ける。
天才麻酔科医と言われる石垣由依だった。
「ここ、良い?」
「お、鬼の石垣じゃないか」
「ツカ、ケンカを売ってます?」
「いいえ、赤城、俺、先に行くわ」
柄本はそう言うと席を立ち、食器を返しに行ったさ。
「どうしたんですか?」
「何、その言い方は。偉そうなあなたはどこ?」
「俺に関わるな」
「もう、藤堂を介して関わってる」
「目立ちたくない」
「えっ、どういう事?」
「お前は馬鹿か?お前と仲良くしていると注目される」
「なんで?」
「お前は自分が美人で変わり者という事を知らないのか?」
「えっ、美人?」
「い、いや、反応するのは変わり者と言ったところだろ」
「はははは、そだね」
隣に座る奴等がこっちを見て言った。
「お、おい、あの冷血で厳しい石垣由依が笑っている」
「き、聞こえるぞ」
「いいんだよ」
それを聞いた石垣由依の表情が急に曇った。
何だか可哀想に思える。
「あっ、そうか。私、冷血で鬼だった」
俺は石垣由依の両頬を優しくつまみ上げた。
「や、やっぱり、石垣由依は笑顔が可愛いな」
「な、何を言うの」
「お前は冷血で鬼なんかじゃない。患者の為に、自分とそれに関わる人達に厳しいんだ。それは優しさと思う」
石垣由依の目から涙が溢れてくる。
俺は隣の奴らにわざと笑顔で訊ねた。
「あなたも、そう思いませんか?」
「う、う、そうだな。石垣、すまん」
石垣由依に向き直る。
「泣くな。あと、お前は仲間には厳しくするだけじゃなく、少し思いやれ」
「は、はい」
「涙をふけ。俺はもう行くから」
「う、うん」
あの冷血で鬼の石垣が可愛い女の子に見えた。
俺は天才麻酔科医である石垣由依を泣かした内科医として有名になってしまった。
電話が鳴る。
「もしもし、赤城です」
(藤堂だ)
「藤堂さんか。何?」
(一人、見て欲しい奴がいる)
「どこの組?」
(ヤクザじゃねぇよ)
「ヤクザしか知り合いはいないかと思ったよ」
(高校時代の友人だ)
「特別診療はいくら?」
(金を取るのかよ?)
「当たり前だろ」
(ちっ、五十だ)
「まいどあり」
(今日の二十時に109号室に来い)
「わかった」
(無資格医者だという事を忘れるな)
「知ってるよ」
(誰のおかげで医者をやれているかもな)
「それは俺の都合じゃないだろ」
(そうだ。だから、要らなくなればすぐに切れる)
電話がきれた。
藤堂に弱味を握られている。
対等な関係にしてやる。
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