真夜中の白魔術師

福澤賢二郎

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KARTE 2:上原さくら

母と娘

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《赤城拓哉》
午前の回診は柄本孝男と一緒に行った。
専門は外科だが、内科に配属された事で研修医とたいして変わらない。
なんだか情けない。
「お前、本当に内科を専攻したんだよな」
「う~ん、まぁ。俺は柄さんの下で幸せだな。柄さんから見て一番最悪なのは誰?」
「麻酔科の石垣かな」
「どこが?」
「一言で言えば、超キツイ」
「邪魔なんだけど、グズども」
後ろから突然、話かけられた。
振り替えると大きめの目で笑顔の無い美人がいた。
「い、い、石垣由依」
「ツカ、お前は少しも成長しないな」
「うるさい」
見下した目線が俺達に突き刺さる。
「内科はしょせん内科か」
そう行って追い抜いて行った。
「あれが石垣だ。魔術師の異名を持つ天才麻酔医だ」
「関わらないようにしよう」
「おう、それが良い」

午前の回診が終わって内科の事務所の前で上原さくらの娘が待っていた。
母親に似て小顔で整っている。
「居酒屋ではすみませんでした」
「突然の手紙でビックリしました」
「会いますか?」
「会います」
「では、行きましょう」
深くは聞かなかった。
母親を恨んでいるのだろうか。

十階の個人部屋に連れて行った。
「赤城です。入ります」
上原さくらは娘の姿を見て、目を見開き驚いた。
「私の名前は上原ひかりです」
「知ってる」
ひかりはポケットから一つのお守りを出した。
名前が刺繍されている。
「あなたが私にくれた名前です。私は自分の名前が好きです」
「ごめんね。私はあなたを捨ててしまった」
「寂しかった。母というものを恨もうと思った。でも、恨めない。あなたは私をいつも見てくれていた」
「ごめんなさい」
「あなたを運動会や卒業式などでいつも見かけた。熱心に私を応援してくれていた。そして、今も」
「ごめんなさい」
「ずっと、ずっと、あなたがお母さんであれば良いと思っていた」
「えっ?」
「お母さんって呼んで良い?」
「も、もちろん」
俺は二人を残して病室を出ようとした。
その時、さくらが呼び止めた。
「赤城先生、ありがとう」
「あんたは恨まれて死ぬはずだった。でも、娘さんは生きて欲しいと望んでいる」
「私、まだ死ねない。これから娘と過ごす時間が欲しい」
「手術は明後日の水曜日の深夜だ。あんたは急変して緊急オペになる」
「えっ」
「約束を忘れるなよ」
「もちろん。感謝するわ」
病室を後にした。

藤堂に電話した。
「藤堂さんよ、予定通りだ。忘れるなよ」
(わかっている。メンバーは既に決めてある)
「頼むぜ」
(任せておけ)


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