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ヨン・底辺の最後のメンバー
しおりを挟む地図には載っておらず、見つけるのは困難。
見つけたとしても、濃い霧に道は塞がれ、入ればたちまち出ることは不可能。
しかも、森自体に魔力を吸い取る魔術師殺しの魔法がかけられており、入れば魔力を失い、魔力が生命と言っても過言ではない魔術師は、命を落とす。
「…………」
疾風は自分の魔力を碁石に込め、5分の1の魔力のみを体内に残し森へ入る。
片手に友の魔力を持ち、それを点々と落としながら。魔力の残像は地に帰る。ということは、魔力はその場に残り続ける。
「……さて、探すか…」
次の戦に必要な、クラスの人間を探すため、森の中心部へと足を進める。
「っ……これは、迷っても仕方ねぇな…どれを見ても同じ景色か…」
手に持った方位磁石ももう狂っている。どこを指しているのかわからないものも、信用には値しない。
「水魔法師に霧ってのはありがたいが…流石に…」
霧を魔力に変え、体内の魔力が尽きないようにする。他の魔法師もそうやったそうやったはずだ。
なのに何故生還者がいない……。単純に餓死したのだろうか?
「………!?」
───グルルルルルルゥ………
「魔獣か…なるほど、食われて死んだわけか」
手元に持つ碁石の魔力を少し体内に戻し、相手退治するように前を向く。
ただ、まっすぐ意外を見た瞬間ルートを外れ迷うことは必須。顔の向きを変えるのは致命傷だ。そのため、床に魔法で矢印を書き込み、戦闘態勢に入る。
「万物を貫け 水神の槍よ《無限水槍》!」
魔物は火属性だ。
ときに闇をまとう者も居、面倒だと聞くが。大抵は、地獄=炎、のイメージから来ているのか、火属性の魔物がほとんどだ。
「《火力増加》………はぁ!!」
手に持った愛刀を大きく振りかざし、魔物を一刀両断する。結構硬かった。というのが感想だ。
「……ふぅ…魔物のレベルもそこまで高くなさそうだが……」
足元にある先程付けた矢印を見つけると、その方向へ歩く。薄気味悪いな、と思っていると、霧が晴れた。
「…倒した御褒美、って事か?」
その出来た道は、ちょうど矢印の方向と同じだ。
コツコツと歩き始めれば、通った道はまた深いきりに包まれた。
少し抜けた所に、立派なお屋敷があった。
だが、疾風にはそれ以前に気になることがある。
「流石だな。この森は魔法師殺しの術にかかっていて、なおかつお前は俺らの魔法攻撃はほとんど効かない。放っておけば勝手に死んでくれる相手なのに、警戒は怠らず殺意も隠し、気配を消して木の上に隠れきるなんて」
「………!?」
「とても凡人の俺らにはできねぇな」
木の上で息遣いが少し乱れた。
俺はそこに、火力増加した愛刀を投げる。
上から降りてきたのは、おかっぱの少女だった。
「……なんで気づいたの」
「俺、昔から魔法使うの家族内で一番弱くてさ。兄貴に勝つ方法としては、脳筋な兄貴の思考と居場所を読むこと。息遣いや視線、魔力の残りカス。全ての情報をひとつに集めて計算し、場所を当てるっていう寸法さ」
「嘘。あなたがここに来てから、計算する余裕なんてなかった。そんな時間もなかったはず。それに、私の羽織る黒いローブは、魔力を封じる力があるの。見抜けるはずなんてない!」
確かに少女は黒いローブで身を包み、フードをかぶっている。
「だから言ったろ。魔力の残りカス、って。ローブに魔力を封じ込む魔法、というか魔術だな。魔術掛かってるってことは、その残像を追えばいい」
「なっ……これはっ、普通の魔術の一千倍も薄い術式が編み込まれてるのに……なんで気づけるの…」
「勝てない故に、勝てる策を模索した結果だな」
少女(同い年だが)はローブを握りしめ、顔を下へ向けた。
「なんのよう…家のものじゃなさそうだけど」
「俺は同じクラスの灰崎疾風。アンタにお願いがあってきた」
「同じクラス? ごめんなさい。自分が今何クラスかも把握してないの。ま、大方最下位だと思うけどね」
「その通り。現在Eクラス」
「…もうすぐ退学の私になんのよう…?」
フードを脱ぎ、こちらに顔を見せた少女は、俺を見てくる。俺より少し身長の小さな、綺麗な黒髪の少女だ。
「いや、退学する気なら、なんで入学したんだ…?」
「質問するの?」
「まあ、な。嫌なら無理にとはいえねえ頼みだし」
「………私は、入学試験なんて受けてないし、受ける気もない…」
小さく絞り出した声で俺にそういう。
しかし俺はここで疑問を抱く。
「入学試験を受けてないのに入学?」
「私の幼い頃の魔力を肉親が保存してたらしくて。それを学園に送り付けて、色々こじつけて入学させたらしい。理由はわからない。でも私は行く気なんてない。だから…ペーパーテストを持ってきた先生も、この森に入れることなく追い払った。入れば死ぬぞ、って言って」
幼い頃に保存していた、ということは、今よりも小さな小さな魔力なのだろう。
しかしそんな古い魔力は、この学年、いや、学校で一番大きく、強い魔力。
今の彼女には、おそらく何者も適わない。
「…あんたは魔法が嫌いか」
「私の魔法は人殺しの魔法。汚い魔法。無意味な魔法。あの人は居心地がいいって言ってくれたけど、それはあの人が普通の人じゃないから。優しい天使様だったから」
「………天使様?」
「…お喋りが過ぎた。て、頼み事って?」
「……いや何、魔法が嫌いな人に無理に言う事でもないさ」
少女にそう言えば、そいつは踵を翻し、「では帰れ」と言わんばかりに道を作った。
「最後に聞かせてくれ。あんたはなんで、この森で生き延びられる。この森は魔力を吸い取る。それは、闇も光も関係なくだ」
「……………」
引っ掛かっていた。
この森で、少女が生き延びられているわけがない。
いくら爆発的な魔力を有していたとしても、何時間、いや、何日何年という月日をここで過ごすのは不可能だ。
「あんたは普通じゃない」
彼女の口振りからして、そして、彼女の纏うオーラからして、何かの加護を受けているのはすぐにわかった。
「…あんたは何かと契を結んでる。そうだろ?」
そして、そのオーラが、強く、拒絶の意味を記す黒く紫のオーラ。他人を寄せ付けないそのオーラが、この森で彼女を守っている。
「……天使様は言っていた」
少女はボソリと告げた。
「私はおかしくない、って。私はひとりじゃない、って」
大きくしなる木々。膨大な魔力が震えている。
「約束した」
近くに有る花が枯れた。
瘴気を含み、全てを拒絶する力。
『主に害をなすもの、全てをなぎ倒す、と』
少女の目は、先程の黒色はどこにもなく、真っ赤に染まっていた。
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