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二・AとEの違い

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「Eクラスのくせに!」
「はぁ? Aクラスだからっていばんなよ!」
 こうなったのは、この時間から3時間前の話だ。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・




「みなさんおはようございま~す」
 気の抜けた声とともに、教室に入ってきた担任。Eクラスを受け持つ、姫路千代子だ。
「おはよぉ。ちーちゃん先生」
「おはよー、ちーせんせー」
 親しみやすい性格から、ちーちゃん先生、ちー先生と、すぐにあだ名がつけられた。
「おはようございます。では皆さん、ホームルームを始めますよ~。席に着いてください」
 最初はいうことを聞かなかったクラスも、担任が好かれる人だとすぐまとまる。
 全員が速やかに着席し、担任の話に耳を傾け始めた。
「残念なお知らせがあります。今日は一時間目から魔法実技の授業が予定されていましたが、場所が変更されて教室になりました。よって、筆記の授業に変更です」
「え~。なんでですかー?」
「Aクラスが使いたいからと………」
「はぁ!?」
「なんで譲ったんだよちーちゃん先生!」
 バッシングが教員に集まる。
 それはそうだ、と、疾風はやては思う。
 だが、それは仕方ないのだ。この学校の制度、それが、教員も生徒も苦しめている。
「静かにしなよ皆。学校制度のせいであって、先生のせいじゃないでしょ」
「瀬川! 良いのかよ!」
「あーのーねー! 先生を責めたって仕方ないでしょ!?」
 そこから、瀬川は赤い髪を揺らし、にやりと笑う。
「だから、直接言いに行けばいいじゃない? 先生を責めるのは馬鹿馬鹿しいけど、直接堂々と言いに行くのは何にも悪くないでしょ?」
 その言葉に、クラスは1度静まり返り、再度湧いた──────。





「失礼しま~す!」
 全員競技用体育着に着替え(半強制)、全員で実技の実践ルームの扉を開けた。そこには、準備運動中のAクラス生徒が居た。
「えっ…」
「何でいるの?」
「なんの用…?」
 ザワつく中に、瀬川の声が響く。
「Aクラスリーダーさんはどこ?」
 すると、肩まである髪をふたつに結んだ少女が前へ出てきた。
 倉持くらもちのぞみ。Aクラス現リーダーの少女だ。
「わ、私だけど…今日は、譲ってもらったと思うんだけど…」
「ええ、そう聞いてる」
「そっか。ちゃんと連絡届いてたんだね。じゃあ、悪いんだけど、今日は──」
「悪いと思ってるなら、出てってもらってもいいかな。邪魔なの。先生は貸すって言ったかもしれないけど、私達にその気は無いから」
 ニコッ、と可愛らしい笑みを浮かべた瀬川に、相手の少女は狼狽えた。
「え、え? あの──」
「お前! 倉持になんてこというんだよ!」
「そうよ! 最底辺クラスのくせに!」 
「Eクラスのくせに!」
「はぁ? Aクラスだからってばんなよ! ………失礼。そうだったものね。私たちを最底辺だと思うなら、実技の練習させてくれない? 嗚呼ごめんなさい。見下す対象がいないと、見栄はれないものね。自分が偉そうでいるためにも、私たちに学習させないんだものね? そんな、陰湿な生徒さんだったものね、Aクラスさんは」
「はぁ!?」
 瀬川の言葉に、Aクラスの何人かは、魔法式を展開しようとしていた。
「おい、春香。流石に煽りすぎじゃ…」
「良いのよ。疾風は、水蓮すいれんの準備しといて」
 水蓮。疾風の得意とする、魔法属性と単純な格闘術の合わせ技の名称だ。
 つまり、戦闘準備をしとけ………………と?
「おいまてまて。ここで戦うつもりか? 流石に不味いぞ」
「大丈夫。そういう雰囲気に持ってくだけ」
 もはや一触即発。少しでも動けば攻撃される雰囲気の中、瀬川は笑っていた。
「私、つくづくこの学校の制度が大嫌いだったの。入学前から。兄がボロボロになって帰ってきたあの日から。だから、私が中から壊してやろうって思ってたのよ。丁度いい機会だし」
 瀬川の発言に、両クラス生徒は瀬川をじっと見つめる。
「だから、学校のルールに乗っ取り『ゲーム』をしましょう。五対五の連帯戦」
「ルールを壊すのでは……?」
「ルールを壊すのはまだ出来ない。私達がAクラスを潰した後『ゲーム』のルールである『そのクラスは学園へひとつ要望ができる』という景品を使って、学園を壊すの」
「ルールを壊すために、ルールに従うと…」
「利用価値があるものは利用しなきゃ。勿体ないでしょ? こんな好条件残してくれてるのよ、学園側は。いつでも立場を逆転できる。出来たら大団円、負けたら大暴落………楽しそうじゃない?」
 狂気の笑みを浮かべ、瀬川は問いかける。
 ──するの? しないの?
 と…
「ここで気の引ける雑魚クラスさんなら、今すぐこの実践ルームを出てちょうだい。邪魔なの」
「…………」
「いいじゃねぇか倉持。受けろよ。俺がやりてェ」
「薮くん…。今回は君のわがままを通すわけには行かないよ。クラスに一度持ち帰って、先生と話しあわないゃ…」
 出てきた男は、見てくれは綺麗な青年だ。
 しかしその青年は、口元に卑しい笑みを浮かべ、目は血に飢えていた。
「はぁ? 良いから受ければいいんだよ! どーせいつか潰すんだ! ちょっと時期が早まっただけだ!」
「でもっ、連隊戦だよ…? 他に人数が集まらなきゃ、実施できないよ…?」
「お前と……あと橋本と肥塚と秋山でいいだろ」
 指名された人は驚きつつも、ニヤリと言う好戦的な笑みを浮かべる。
「わ、私も…?!」
 倉持を覗いて目を見張っている。
「薮琉真。好戦的な性格で、この学園入学前、僕力沙汰で一時期中学生にも関わらず停学をくらう極悪人。兄弟がいて、ひとつ上の兄と三つ下の妹」
「お耳に入れていただき光悦至極、ってなァ。アンタは、Eクラス代表の瀬川春香。お前も、ひとつ上に、瀬川涼也って兄が居たなァ。兄貴が言ってたんだよ」
 ───『いいサンドバックだった』って───
 そう薮が告げた時、瀬川は既に、超加速硬化魔法を腕に掛けて、殴りかからんとしていた。
「落ち着け春香」
「でもっ……」
「全ては連隊戦で、だ。では、日程は一ヶ月後。チームメンバーはお互い当日発表。会場などは、こちらで平等対戦には信頼のおける人間に、手配をお願いしておきます」
「いいぜ? 会場に仕掛けてくれても。イカサマ使って敗北し、それをバラされ苦痛に歪む顔を見るのも、悪くないからなァ…」
 薮の発言に、疾風はぴくりと眉を動かしつつも、その場で踵を返した。丁寧に結ばれたひと房の髪を揺らし、赤い髪の少女にそっと呟いて。



『任せろ、負けはしない』
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