千の夏

むけお

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3.境内

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3.境内

次の日の朝

オレが起きて時間を確認すると7:30を少し過ぎている。
爺ちゃんと婆ちゃんは既に朝食を食べ終わっていた。

「婆ちゃん、ごめん。朝食って何時からなの?」
「ナオちゃんは好きな時間に食べやぁ。爺さんが早いで私も合わせとるだけやで」

「でも何回も用意するの面倒でしょ?」
「気にしんでいいわ。子供は遠慮したらあかん」

「オレもう17歳だよ・・・」
「私は67歳や。まだまだ子供やねぇ」

オレは心の中で”その差は縮まる事ないだろ”と突っ込む。
朝食を終え、顔を洗い、着替える。
昨日は終業式から、そのままこっちに来たから1日中制服を着ていた。

今日は千夏と会う。持ってきた服の中から少しだけ気に入った物を選んだ。
1ヶ月とは言え勉強道具から宿題、着替えを含めるとそれなりの量になる。
こちらに来る前日に送ったのだが、どうやら昨日の昼過ぎに到着したようだ。

荷ほどきをしていると婆ちゃんがスイカを持ってきてくれた。

「ナオちゃん、スイカ切ってきたで食べやぁ」
「ありがとう、婆ちゃん」

そう言ってスイカを机の上に置いて部屋から出て行く。
男やもめでスイカ等10年前にこの家で食べた以来かもしれない・・・爺ちゃん婆ちゃんに感謝だ・・・

やっと荷ほどきが終わったのが昼食後だった。時計を見ると13:00を指している。
オレは千夏にラインを送る。

{時間空いたけど今からどう?}

5分程してラインの着信音が鳴った。

{いいよー昔の遊び場で待ってる}

昔の遊び場・・・近くの神社の境内の事だ。
オレは婆ちゃんに出かけてくる事を伝えて家を出る。

「いってきますー」

神社までの道のりは懐かしかった。10年前に通った道、見覚えのある看板、小さな感動がいくつも転がっていた。
そうして神社の境内に到着すると千夏がアイスを片手に棒でアリの巣をつついていた。

「オマエは何をしてるんだ?」
「直樹を待ってた」

「そうか・・・」
「うん」

オレは千夏を改めて見てみる…
太ってはいない。しかし、痩ている訳ではなく少女から女に変わるこの年代特有の魅力に溢れている。
髪は肩に付くかどうかでパーマや髪染めは無く黒のストレート。
正直な話しオレはこの時には千夏に惚れていたんだろう。

千夏がアリの巣をつついていた棒を捨て立ち上がった。オレの顔を見てニヤリと笑う…

「何?千夏ちゃんの魅力にメロメロな感じ?」

「何いってるんだか」

千夏は短パンにTシャツを着てサンダルを履いていた。昨日の制服姿と違い健康的な色気に溢れている。
オレは千夏の短パンから伸びる足に眼を奪われない様に背中を向けて話す。

「折角、お気に入りの短パンとTシャツ着て来たのに・・・」

少し拗ねた様な千夏の言葉にオレは少しだけ本音を出して答えた。

「似合ってる・・・可愛いと思う・・・」
「・・・・」

「・・・・」
「ありがとう・・・」

いつの間にか千夏もオレに背を向け話していた。

昨日と同じ様にジリジリと焼けるような日差しを避ける為にオレ達は境内の奥に移動した。
奥には大人4~5人は座れると思われる切り株があり、そこに背中合わせで座る。

最初はぎこちなかった会話も一度始まれば昔話に花を咲かせていく。

昔話から始まり、毎年、オレが来てないか夏休み前は遠回りして爺ちゃん家の前を通っていた事。今の流行りや勉強の事、興味や学校の事。話しは尽きなかった。

この頃には千夏の話す仕草や声、表情までがオレの心を奪っていた。

気が付くと懐かしさから随分と話し、時間が経っていた。陽が傾き夕日が鮮やかな赤を照らし出している。

「千夏は用事とか無かったのか?」
「なんで?」

「用事があって無理に開けてくれたなら悪いと思ってさ」
「用事は無いかな」

「そうか、今日は良かったけど明日以降は何かあるだろ?」
「うーん…特に無いかな」

「オレが今日みたいに誘っても迷惑じゃない?」
「うん・・・」

「じゃあ・・・」
「うん・・・」

「昔みたいに毎日、誘ってもいい?」
「うん・・・」

少し恥ずかしそうに返事をする千夏を見てオレは心の底から安堵する。

「良かった・・・・」
「どうしたの?」

「千夏に彼氏がいて今日以外は遊べないって言われないかドキドキした」
「彼氏なんていないよ・・」

「そうか・・・」
「そうなんです・・・」

「・・・・」
「直樹は彼女とかいないの?」

「いないねぇ・・」
「そうか・・・」

「そうなんです・・・」
「・・・・」

「・・・・」
「・・・・」

今は2人で切り株に隣同士で座っている。

オレは千夏の方を見る・・・

千夏もオレを上目使いでみてくる・・・ヤバイ、カワイイ

どちらからともなく顔が近づいていく・・・


夕焼けの中2つの影が重なった・・・


2人がゆっくりと離れる・・・


千夏は恥ずかしそうに俯いてしまう。

「は、初めてだから・・・」

俯いたまま、オレに必死に伝えるように千夏が話す。

「オレも初めてだ」

オレの言葉に千夏が嬉しそうに顔を上げた・・・
千夏の満面の笑みに、オレは心の底から白旗を揚げる・・・

このまま2人でいたいが時間は19:00を周る所だ。オレは千夏を家まで送ろうと話し出す。

「もう、こんな時間だ。家まで送るよ」
「地元やで。眼瞑っても帰れる」

千夏はオレがどれだけ言っても断固として拒否してきた。
親が厳しいのかも知れない。
それなら暗くなる前に返したい。

「それなら帰ったらライン送ってくれ。それまでここで待ってる」
「いいって。大丈夫やから」

「待ってる・・・」

オレを呆れた様に見て千夏は家に帰って行った。
15分程だろうか、ラインの着信恩が鳴る。

{今、着いたよー}
{判った、オレも帰る}

ラインを見てやっと安心できた。
そうしてオレも家路に着いた。









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